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パタゴニア「最高の製品を作り、環境に与える不必要な悪影響を最小限に抑える」

投稿日:2008/10/10更新日:2019/04/09

■ミッション・ステートメント

最高の製品を作り、環境に与える不必要な悪影響を最小限に抑える。そして、ビジ

ネスを手段として環境危機に警鐘を鳴らし、解決に向けて実行する。

社員をサーフィンに行かせる哲学

パタゴニアは、登山用品やアウトドア用品、サーフィングッズ、スポーツウェアなどの製造販売を行うアメリカ企業である。1965年の創業時はロッククライミング関連の商品がメインであったが、その後製品ラインを拡大し、2008年現在は全世界で250億円以上を売上げている。

同社は、その製品がユーザー(登山者やサーファーなど)から評価される以上に、その経営理念や経営のあり方が多くのビジネスパーソンから注目され、高く評価されている企業としても著名だ。創業者であるイヴォン・シュイナード氏が書いた『社員をサーフィンに行かせよう—パタゴニア創業者の経営論』(東洋経済新報社)は、新しい経営のあり方を問う革新的な書籍として話題になった。

同社における環境へのこだわりは、通常のCSR(企業の社会的責任)の範疇を超えている。例えば「1%fortheplanet」の基準を定め、売上げ(利益ではない!)の1%を環境団体支援に用いることにコミットしている。その発想の根源にあるのは、「企業は(株主でも経営者でもなく)地球のものである」というシュイナード氏の信念である。

そのほか当初の稼ぎ頭であったロッククライミング製品を、「環境破壊につながる」という理由で製造中止にしたり、消費者から回収したペットボトルを利用した再生フリースをいち早くウェア製品に用いるなど、環境に対するこだわりと先進的な取り組みは一貫している。

従業員に対する姿勢もユニークだ。「仕事は楽しく」がその根底にある。託児所などの福利厚生は充実し、また、他人に迷惑をかけない限り、フレックスでの働き方が推奨されている。『社員をサーフィンに行かせよう』には以下のフレーズがある。

真のサーファーは、今度の火曜日の二時にサーフィンに行こうなどと、あらかじめ

予定を立てたりはしない。波と潮回りと風がいいときが入り時だし、パウダースキー

は、粉雪があるときに楽しむものだ。そして人に負けたくないなら、『誰よりも熱心

に取り組む』べし。そういうわけで、『社員をサーフィンに行かせる』ためのフレッ

クスタイム制度が確立した

一見、「こうしたやり方で経営が成り立つのだろうか」という疑念も起こりそうだが、同社の持続的な成長や業界における確固たるポジションを見れば、そうした疑念も消えるというものだ。

徹底することの迫力

パタゴニアのやり方を見ていて感じるのは、「徹底する」ということの迫力である。アリバイ的に環境問題に取り組むのではなく、「環境保全・保護こそがミッションであり、ビジネスはその方法論」と位置づけることで、あらゆるステークホルダーにパタゴニアの存在意義を強烈に植えつけている。

従業員への接し方もそうだ。確かに管理的な視点から見れば一見非効率的かもしれないが、長い目で見れば、こうしたやり方が、環境やワークライフバランスに関心の深い優秀な人々(往々にしていわゆる「会社人間」ではない)を引き寄せ、内発的動機を高め、高いパフォーマンスを生み出していく。「自分の活動が間違いなく地球環境のためになっている。しかもお客さんも喜んでいる」と自信を持って言えることが、社員にとってどんなに素晴らしいことか、容易に想像がつくだろう。

ミッション・ステートメント冒頭に「最高の製品」とうたっている点も見逃せない。しばしばCSRをミッションの根幹に据える組織では、社会に貢献していることを、「緩い経営」の逃げ口上として用いるケースも散見されるのだが、それは結局、顧客をはじめとするステークホルダーの信頼を失わせることにつながってしまう。

パタゴニアにおいて、それはない。逆に、真に環境に貢献するには、最高のサービスを同時に提供しなくてはならないと言う経営者の決意をミッションステートメントで表明していると見ることができよう。そして実際にそれが組織に徹底しているからこそ、数十年にわたって持続的な成長を果たして来られたのだ。

シュイナード氏は言う。

パタゴニアとその一千名の従業員は、正しい行いが利益を生む優良ビジネスにつながることを実業界に示す手段と決意を持っている

近年、「環境保護」や「環境保全」を企業の行動指針やミッションの一部として盛り込む企業は多い。環境に限らず、「貧困撲滅」などCSRの要素を盛り込む企業も増えている。だが、ここまで言い切れる経営者など、ほとんどいないだろう。少なからぬ企業で、こうした宣言は、単なる「アリバイ作り」に終わっており、企業の競争力を増す、あるいは企業の独自性を生み出すまでのレベルに至っていないのが現状だ。

パタゴニアの例は確かに「異常値」かもしれない。また、株式を公開していないからこそ可能な実験という見方も確かに成り立つ。しかしそれでも、株主偏重型資本主義が曲がり角に来ている現在、多くの企業にとってヒントがあるのではないだろうか。

  • 嶋田 毅

    グロービス経営大学院 教員/グロービス 出版局長

    東京大学理学部卒、同大学院理学系研究科修士課程修了。戦略系コンサルティングファーム、外資系メーカーを経てグロービスに入社。累計150万部を超えるベストセラー「グロービスMBAシリーズ」の著者、プロデューサーも務める。著書に『グロービスMBAビジネス・ライティング』『グロービスMBAキーワード 図解 基本ビジネス思考法45』『グロービスMBAキーワード 図解 基本フレームワーク50』『ビジネス仮説力の磨き方』(以上ダイヤモンド社)、『MBA 100の基本』(東洋経済新報社)、『[実況]ロジカルシンキング教室』『[実況』アカウンティング教室』『競争優位としての経営理念』(以上PHP研究所)、『ロジカルシンキングの落とし穴』『バイアス』『KSFとは』(以上グロービス電子出版)、共著書に『グロービスMBAマネジメント・ブック』『グロービスMBAマネジメント・ブックⅡ』『MBA定量分析と意思決定』『グロービスMBAビジネスプラン』『ストーリーで学ぶマーケティング戦略の基本』(以上ダイヤモンド社)など。その他にも多数の単著、共著書、共訳書がある。
    グロービス経営大学院や企業研修において経営戦略、マーケティング、事業革新、管理会計、自社課題(アクションラーニング)などの講師を務める。グロービスのナレッジライブラリ「GLOBIS知見録」に定期的にコラムを連載するとともに、さまざまなテーマで講演なども行っている。

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