今年10月発売の『AIファーストカンパニー』から「第7章 戦略的な衝突」の一部を紹介します。
AIファーストカンパニーは、その独自のやり方で従来型のビジネスモデルの企業を駆逐したり業界の片隅に追いやることがあります。たとえばレンタルDVD大手のブロックバスターはネットフリックスによって倒産に追い込まれましたし、アマゾンの台頭によって一気に業績を悪化させた企業は多数に上ります。従来型の企業にとっては、AIやビッグデータを活用して自分たちを代替するかもしれない潜在的なライバルの動向に常に目を光らせるとともに、対応策を考えておく必要があるのです。
（このシリーズは、グロービス経営大学院で教科書や副読本として使われている書籍から、英治出版のご厚意により、厳選した項目を抜粋・転載するワンポイント学びコーナーです）
戦略的な衝突
前章では、企業のオペレーティング・モデルの主な要素をデジタル化すると、新しい戦略上の選択肢が広がり、価値創造や価値獲得の方法が変わることを見てきた。本章では、より広範な競争上の示唆を考察し、デジタル・オベレーティング・モデルを特徴とする企業が伝統的な企業と出会い衝突するとどうなるかを探っていく。
衝突が起こるのは、既存企業がこれまで提供してきたアプリケーション（あるいは、ユースケース）に、デジタル・オペレーティング・モデルの企業が狙いを定めたときだ（図を参照）。デジタル・オペレーティング・モデルは、既存企業のモデルとは異なる規模、範囲、学習のダイナミクスを特徴とするので、衝突が起こると、その産業が完全に変わってしまい、競争優位性の本質が再形成されることもある。
デジタル・オペレーティング・モデルが従来型オペレーティング・モデルに匹敵する経済的価値を生み出すまでには、かなりの時間がかかる場合もあることに注意しよう。従来型モデルに安住している経営幹部が、デジタル・モデルが追いついてきているのに、最初は信じようとしない理由もこれで説明がつく。しかし、デジタル・オペレーティング・モデルはクリティカルマスを超えて拡大した後、その提供価値は実に素晴らしいものになり、デジタル・モデルを持つ企業は伝統的企業をあっさりと凌駕しうるのだ。その意味するものは経済全体でますます実感されるようになっている。
世界の旅行業界を例にとると、エアビーはマリオットやヒルトンなどのホテル運営会社と衝突している。エアビーは似たようなニーズに対応するが、まったく異なるオペレーティング・モデルで構築されている。マリオットやヒルトンは不動産を所有、管理し、何万人もの従業員が別々の組織で懸命に顧客体験の実現や形成に勤しんでいる。一方、エアビーのリーン組織は仮想AIファクトリー上にあり、データを集約し、入念につくり込んだアルゴリズムを使って、デジタルで状況を把握し管理している不動産オーナー・コミュニティと利用者をマッチングさせる。マリオットとヒルトンのどちらもグループとブランドの集合体であり、縦割りの事業部門や機能で構成され、それぞれ独自のIT、断片的データ、組織構造を持っているのに対し、エアビーのリーンでアジヤイルな組織は統合データ・プラットフォーム上にあり、顧客とプロセスの情報を蓄積し、分析してインサイ卜を導出し、速やかに実験し、予測モデルを作成して重要な意思決定の参考にしている。
エアビーはネットワーク効果と学習効果を積み重ね、規模、範囲、学習を急速に推進している。片や、マリオットの成長や対応力は従来の業務上の制約を受ける。エアビーはわずか10年で450万室以上の貸し出し可能な部屋を持つまでに拡大した。これはマリオットが100年かけて蓄積してきた宿泊施設の3倍の収容能力に相当する。
『AIファースト・カンパニー ――アルゴリズムとネットワークが経済を支配する新時代の経営戦略』
著：マルコ・イアンシティ、カリム・Ｒ・ラカーニ 訳：渡部典子 監修：吉田素文
発行日：2023/10/20 価格：2,640円 発行元：英治出版
.jpg?fm=webp&fit=clip&w=720)
