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激変する経営環境の中で、役員体制をどう変革するか――第4回コーポレートガバナンス・サミット 前編

投稿日:2023/08/14更新日:2023/08/15

ガバナンス体制の両輪を成す指名と報酬の両委員会について日本の歩みを見ると、形式的な整備が急ピッチで進められてきたと言えよう。しかし、実効性のある仕組みや、具体的な議論の中身までは、明らかになっていない。そこで、コーン・フェリーとグロービスは日本を代表する大手企業約30社に対して、役員の指名・報酬の実態に関する詳細なインタビュー調査を実施した。この調査結果から、これまで明らかにされてこなかった非常に興味深い事実が見えてきた。
今回は、この調査結果をもとに「日本企業における役員の指名・報酬の実態と課題」と題して議論されたセミナー:第4回コーポレートガバナンス・サミット(4月28日実施)の模様を、ダイジェスト版でお届けする。(全2回、前編)(肩書は登壇当時)

社外取締役に求めているのは、「汎用性のある経験」と「コミットメント」

セミナーの前半は、上場企業約30社の役員を対象に実施した「役員の指名と報酬の実態調査」に関する報告が、コーン・フェリーの柴田氏より行われた。

各社の指名・報酬委員会の事務局や担当役員に対して60〜90分のインタビュー形式で詳細な定性調査を行った結果、日本企業の課題や今後の論点などが浮き彫りになってきたという。

実態調査結果の報告に関する枠組みは、次の4つである。

 ①社外取締役に期待する役割とは何か
 ②役員の指名・後継者計画について
 ③役員の報酬について
 ④この調査結果から得た示唆について

それぞれについて、柴田氏が解説を行った。

①社外取締役に期待する役割とは何か

調査に応えた30社からはいずれも、「これまでのようなプロセスチェックだけでなく、内容の実態にまで踏み込み、もっと関与してほしい」という強い要望があった。
「従来は社外取締役の量(数)を確保することに注力されてきたが、今後は質にこだわって能力のある社外取締役を確保したい。こういった課題意識を持っている企業が増えています」と、柴田氏は考察する。

専門的・技術的助言の提供にとどまらず、中長期的な企業戦略や、経営全体の視点を持って議論ができる相手、そういう経験と資質を持った社外取締役を求めていることが、より見えてきた。

では、こうした質の高く、能力のある社外取締役に求められる経験や資質とは、どういうものだろうか。柴田氏は2つの共通点があると言う。

「1つは『汎用性のある経験』です。大局的な視野・視点を持って、経営者と議論するための経験が求められます。もちろん、これまでも自分の経験に則った発言をされてきたと思います。しかし、経営環境が激変する中で、中長期的な戦略論を議論しようと思うと、さまざまな事業や業界に対応できる経営的な視点から意見を交わせる、普遍的な知見が必要です。

もう1つは『コミットメント』です。アドバイザー的な立場ではなく、企業価値を高めるにあたっての覚悟と当事者意識を求めているという意見が大半を占めていました。そのため、執行側は自社について深く知ってもらうためにさまざまな情報提供を行い、社外取締役も企業について早期に学習していく姿勢が欠かせないものになってきています」

執行側のサクセッション(後継者計画)が進まない要因とは

②役員の指名・後継者計画について

CEOの指名・後継者計画については、一定の仕組みが整備されてきた。また、最近のホットトピックスであるデジタル領域のCDO(チーフデジタルオフィサー)のような、新設されたポジションについては社外から招集する企業も増えはじめている。

しかし、これは例外的だ。日本の大企業の大半においてCEO以外の執行役(員)の指名と後継者計画は未整備のままであり、過半数が社内登用されている。

「これが裾野の広い執行側のサクセッション(後継者計画)が進まない要因だ」と、柴田氏は指摘する。

「CEO以外の執行役(員)ポストでは、候補者のリストアップで留まっており、計画的に候補者を選定し、育成まで手掛けている企業はほとんどないのが実態です」

社外取締役の期待水準は以前にも増して高まっている。特にグローバル経験や女性活躍などの資質を持った人材は引く手あまたになっていて、社外取締役の招聘は、今や各社共通の課題である。

もう1つの課題として、社外取締役個人のパフォーマンス評価についての事例がいまだ見られない点がある。欧米の場合は、取締役会の実効性評価に加えて、取締役個人の評価を行うのが一般的になっている。しかし、日本企業はまだ着手できてない。

これは「社外取締役に対して、お客様意識が根強くあることが、大きな要因になっている」と、柴田氏はいう。社外取締役の評価が非常にネガティブであっても、代わりとなる人材がいないため、改善に着手できないのだ。

そのような中でも、中長期先を見据えて取締役会の後継者計画(ボードサクセション)に本格的に着手している企業も少数だが、出てきている。 なお柴田氏による日本企業での執行役(員)の指名・後継者計画の進化段階は以下の通りだ。

段階1』適材適所で、今いる人材の中から役員を選んでいく原初的ステージ

段階2』CEO指名を仕組み化し、職務とそれに適した人材要件を明確にするステージ

段階3』は、CEO以外の役員ポストについても、職務とそれに適した人材要件を明確にして、執行役(員)全体へ展開していくステージ

「分布イメージでいくと、過半数の企業は『段階2』のステージ。2割ぐらいが、CXOを中心とした他の執行役(員)について後継者計画に取り組んでいます」

社内登用がメインで、抜本的な報酬水準の改革が行われていない

③役員の報酬について

執行役(員)の報酬については、各社で大きな差がなく、数年前から議論されている業績変動や株式報酬は、ある程度浸透してきている。しかし「報酬の水準」まで踏み込んで、改革をしている企業はまだまだ少ない。
「その要因は、役員は社内登用がメインであることが大きい」と、柴田氏は話す。

デジタル系やグローバル系で社外から役員を登用する事例はあるが、個別に対応ができてしまう範囲であり、報酬全体の仕組みを変えるまでには至っていないのが冷静な見方のようだ。

「従業員層ではジョブ型が声高に叫ばれていますが、役員はいまだメンバーシップ型が主流。旧来的な専務・常務といった役位ベースの報酬水準が過半数を占めています」

その一方で、最近のトレンドが2つある。1つは、サステナビリティやESGを報酬のKPIに落とし込んでいること。もう1つは、今後の事業展開を見据えて、報酬水準のベンチマーク企業を再考する動きも出てきていること、である。

取締役の報酬については、他社の旧来的な固定報酬を採用しており、他社とのベンチマークを通じて報酬水準の妥当性を確認している。一部株式報酬を利用している企業はあるが、現状では限定的といえそうだ。

なお、執行役(員)の報酬の進化段階も、柴田氏によると次の3つに分かれるという。

段階1』役位ベースで、肩書きに応じて報酬水準を決めている。

段階1.5』ややジョブ型で、個々の役員ポストや職務ベースに報酬の水準や構成を定めている。

段階2』は、ごく一部の先進企業だが、人材マーケットにおける報酬の水準で決めている。

「現段階でいえば、ほとんど企業が『段階1』。『段階2』は5%しかいません。結局社内登用がメインである限りは、ジョブベースに変える必要がないという結論になり、『段階1』で進化が止まっています。しかし今後の企業成長を考慮すれば、社内の人材だけでは限界があり、やはり広く人材市場から役員を登用していく必要があります」

役員育成を通じた人材市場の充実化と、経営執行体制の高度化が鍵

④この調査結果から得た示唆について

調査から見えてきたのは、社外取締役でいえば「ガバナンスの高度化に向け社外取締役に期待される役割が変わってきており、求められる資質や経験を再定義していかなければいけない時局に来ている」ということだ。その一方で、まだまだ日本における社外取締役の人材マーケットは成熟しておらず、取締役会のサクセッションは十分に進んでないというのが現状である。

執行役(員)については、CXO体制の導入が非常に象徴的だ。“人“ではなく“機能“として、役員を選出していく機運が高まっているのである。 その反面、足元の経営執行の体制を見ると、企業ごとに持つ独自の文脈依存性が強く、「今いる人材でうまく組み合わせて戦おう」という思想が根強くある。
そのため、役員を機能として見立て、社外から人を招聘するという発想に至らない。これが、役員の指名と報酬が本質的に変化しないボトルネック(課題)である。

では、日本企業は今後どうしていくべきなのか。これには柴田氏が2つの論点を示した。
「1つは、役員の育成を通じて、人材市場を充実させていくこと。これは監督・執行の両側が強くなっていかなければなりません。

もう1つは、その裏返しとして、日本企業の経営執行体制をより高度化して、今いる人材の総体で経営をするのではなく、本質的な中長期の価値向上に向けて、経営執行の体制がどうあるべきか、どういう機能をつくるべきかを考えていくこと。そうしないと役員が強化されていきません。現役の執行役(員)が、将来の取締役候補だと考えれば、この経営執行体制の高度化と、人材の育成が外せない論点になってくると考えます」

役員の能力開発への投資や、計画的な育成施策が大きな課題に

最後に、役員ないしは役員候補の育成が圧倒的に遅れている問題について、グロービスの西が解説した。

執行役員については、実態調査でも、育成対象から外れている場合が非常に多いということが分かってきた。現状はサクセッションを通じて、経営者候補を育成しなければならない。変化が激しく先行きが見えない時代において、舵取りをしていく役員に求められる力量は非常に高まってきており、これまでとは違う育成を行うべきフェーズに入ってきた

「多くの企業は、未来の経営を担う人材が、社内から育てられない可能性があることを自覚していく必要があるのではないか」と、西は考察する。

現状、役員の育成というのは事業へのアサインメントであるという企業が大半で、執行役員は各事業においての成果創出が基本的な役割である。その一方で、タフアサインメントで各人材はどのように育っていくのかを考えるためには、事前にタフアサインメントを乗り越えるための能力や考え方、もしくはタフアサインメントをしていく中で、どのように伴走して、引き上げていくかということも、同時に考えていく必要がある。単純にアサインメントをするだけでは、求める人材は育たなくなってきているのが現状なのである。

「経営者の方々とお話をさせていただくと、トップが就任された直後は、ある意味執行役員の方からトップに昇格しているので、他の執行役員と大きな差はありません。しかし、数年経験をされていくと、『うちの執行役員を何とかしたい』ということをおっしゃる人が多くなっています。それは、他社のトップとの対話などで、密なディスカッションや意思決定の経験が蓄積される中で、トップこそ常に学ぶことに身を置かざるを得ない状況の中で常に経営をされているからだと思います。

当然それが数年経っていくと大きなギャップができ、経営チームとしての力量の差がはっきりとしていきます。これからの変化の激しい時代で経営を行っていくために、執行役員の育成を考えていく必要があります

日本は若手を育成することには相当な投資がされますが、執行役員側はあまり投資されていません。この辺りの抜本的な改善・改革が今後必要になってくるでしょう」

後編では、コーポレートガバナンスの分野で著名な東京都立大学の松田教授を迎え、柴田氏と、モデレーター西氏による、日本企業が目指すべき役員の指名と報酬のあり方」についてのディスカッションをレポートする。

後編に続く

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