ビジョン・戦略の浸透をミドルはどう担うべきか――矛盾に向き合うリーダーシップ 第1回

リーダーシップというテーマは、過去から多くの学者や実践家が語ってきました。ですが今、改めてこのテーマについて語る必要が出てきていると感じます。その理由は2つあります。
1つは、人的資本経営※が広く掲げられる中で、その核となるのがリーダーシップ、特にミドルマネージャーのリーダーシップにあると実感し、それを高めるためのポイントを明らかにしておきたいと思ったこと。
※人材を「資本」として捉え、その価値を最大限に引き出すことで、中長期的な企業価値向上につなげる経営のあり方と定義される(経済産業省による)
2つ目には、エンゲージメントや心理的安全性などのワードが様々なセミナー等で語られる中で、ミドルマネージャーのとるべき行動について触れている内容は多いものの、どうも本質を避けた議論が中心になり、このままでは日本の組織が弱体化してしまうのではないかを感じたことです。
このような問題意識を背景に、このコラムでは「企業がより強くなるために」ミドルマネージャーが果たすべき役割と取るべき行動、その中で直面する様々な矛盾にどう向き合うべきか、理論や実例を踏まえ書いていきます。
このコラムが皆さんのリーダーシップを高めるヒントになれば幸いです。
成長する組織の5要素
これまで私は、15年間、大企業を中心として企業のビジョンや戦略を実現するための組織づくりに携わってきました。多くの企業を見てきた経験から見えてきた、成長する組織の要素を挙げると次の5つのポイントが浮かび上がります。
- 競争優位性のある戦略があり組織に浸透している
- 組織メンバー個々の能力と意欲が高い
- 組織内相互の関係性が良好である
- 素早く環境変化をとらえ対応できている(定期的な改善行動がとれている)
- 今の成長の柱だけでなく、次の成長の柱を仕込み続けている
逆に言うと1‐5の要素がないとどのような弊害があるのでしょうか。まとめると、以下のようになります。
- 競争優位性のある戦略が無いか、あっても浸透していない場合は方向性が明確にならないため、組織の力が分散する
- (組織に戦略が浸透していても)個の能力や意欲が低ければ実行に支障をきたす
- 組織内の関係性が悪いと、組織連携(集団)でアイディアを出したり実行体制を引いたりする際に、支障が出る
- 一定の戦略が奏功しても、環境変化をとらえ改善できなければ一過性のものとして終わる(戦略もすぐに陳腐化してしまう)
- 既存事業の戦略のPDCAはうまく回っていても、その事業が衰退して次の備えがなければ永続的な成長にはならない
このように1‐5のどの要素が欠けていても、継続的な成長は阻害されてしまいます。しかし一方で、いずれをとっても備えることが容易ではありません。
そこで、ここから複数回にわたり、成長する組織をつくるための5つの要素について述べていきたいと思いますが、「ミドルのリーダーシップを高めること」と「それぞれのフェーズに孕む矛盾をどう乗り越えるのか」というポイントを軸に触れていきたいと思います。
当然トップレイヤーのリーダーシップも大切ですが、今こそいや増してミドルのリーダーシップであるということ、また、実行する上で向き合うべき矛盾、乗り越えるべき矛盾があり、それをどう乗り越えるのかまとめていきます。