第2回では、“結節点人材”の意義、組織への効果について述べた。第3回では、結節点人材に必要な能力を、すでに結節点人材として活躍している21名へのインタビュー調査から分析し紹介する。
“結節点人材”は自身の持つネットワークを活用する
前回までに説明してきたように、“結節点人材”は経営と現場といった異なる立場をつなぎ、ギャップを埋めていくという役割を担っている。では、この役割において必要な力とは何だろうか。それは、「縦方向につなぐ力」と「横方向につなぐ力」の両輪を軸に、社内のタテ・ヨコ・ナナメを有機的につなぎ、建設的な根回しを行う力である。これを「つなぐ力」と表記する。
■縦方向につなぐ力
経営層と現場、双方の視点・視野・視座を行き来出来、経営指示と現場意見をすり合わせて広げていく力
■横方向につなぐ力
部門間の利益相反を超えて方向を整合させ、全体最適に向けて協働関係を広げていく力
図-1.結節点”ならでは”の要素と周囲への関係性
今回の調査では、この「つなぐ力」の要諦を突き止めるために、21名の主に経営企画室や部門トップで働く方々にインタビューを行った。そして“結節点人材“ならではの「つなぐ力」とは、周囲との関係性、すなわちヒトとヒトとの「ネットワーク」を持ち、それを使いこなせるかどうかに収斂する、と結論付けた。
“結節点人材”の 「ネットワーク」にまつわる能力の大きな枠組みは、ネットワークを使い倒すための「技術(ネットワーク-Skill)」と「必要なマインド(ネットワーク-Will)」とに分解できる。この2つについて解説する。
図-2.「ネットワーク」に関する枠組み
ネットワーク Skill:「求心力」、「翻訳力」、「したたかさ(強かさ)」
では、上記図-2よりまずは、ネットワークを使い倒すための技術、「ネットワーク-Skill」について解説する。
「ネットワーク‐Skill」は大きく3つから構成される。この3つについて、インタビューで聞こえてきた声から整理していきたい。
■ネットワークを構築・維持する力:求心力
1つ目は、ネットワークの基礎となる、ネットワークを構築し維持していく力である。
インタビューを通して見えてきたのは、ネットワークの中での普段の振る舞いや、周囲への気配りといった、「人たらし」な要素が結果的に「求心力」に繋がるということだ。この求心力は、更に以下4つのポイントに支えられている。
�@親切・真摯な仕事ぶりによる信頼残高の高さ
・製造業/本部長(工場長)・Kさん
『お前にやって欲しい。と指名されるために、何よりも仕事のことを一番に考え、成果を出すために何をすべきか徹底的に考えて行動し、実績を収める。実績が出た後も、最後にもう一歩を我慢してやると、お前やれと言われるようになる』
・製薬業/部長(経営企画)・Kさん
『(MRとしての営業時代は)この先生何時くらいに来るなとか、夜勤明けになるのはいつのスケジュールか、夜勤明けは凄く疲れているから元気に薬の話しちゃだめだなとか、スケジュールの把握と表情から察して動く。教授なんかは特にそうだけど、やって欲しいと思っている事をいかに理解出来ているかという姿勢を行動で示す事が大事』
親切かつ真摯な仕事という、社会人必須の能力であるが、細部まで意識し出来ている人が少ない事を徹底的に実践することが重要なのである。その結果として身に付けた、「相手の欲しいものを察知する嗅覚」と「ギブの積み重ね」があるからこそ、「いざという時に動いてもらえる信頼の基盤」を築くことが出来る。
また、更に言えばこういった行動ができるのは、
・自分の損得を気にするのではなく、相手を尊重する。
・周囲へ配慮し、信頼されている。他者評価や承認ではなく、役に立っていることに充実感を感じる。
というマインドを持っているからであるだろう。
�A関係の強弱・隠れたキーマンも見つける人間関係の察知力
・印刷業/部長(経営企画)・Sさん
『非公式の理念浸透委員会の人たちとお昼に行って話を聞くようにしている』
『このことはこの人に聞いた方が情報をいっぱい持っているというキーマンに話を聞く。キーマンの見分け方は母数が多い所で中心的に動いている人。たとえば、会社に入ってからも目にかけてくれて、役職が逆転したけど色々言ってくれる一つ上の男性の先輩がいてその人を情報源にしている』
・製薬業/部長(経営企画)・Kさん
『人間関係の相関図が頭の中にある。下からでもこの人の言う事なら話を聞くとか。その人が誰かを見つけてくれるとか。現場の飲み会もそうだけど、頻繁に各フロアの見回りをする。舐められないようにしながら、良いパートナーになるように振る舞わなければならない』
察知力とは、「“自然と見える最初の一手”として、キーマンとの相互理解が豊富な戦略オプションを生む」ことを認知し実践する力のことだ。経営と現場といった異なる立場をつなげるにあたっては、自らが動くのみならず相手の行動を促すことも必須となる。こうした場面では、現場を動かす、経営層を動かす、どちらにおいても、頭に人間関係相関図を基にした想定シナリオや代替案をすでに描けており、誰からどのように働きかけたらよいか、あるいは誰と誰の仲が良いか悪いかを把握し行動する能力があれば大いに役立つのである。
�B部門に足を運び、労をいとわないコミュニケーションによる現場理解と信頼
・製造業/事業部長(経営企画)・Uさん
『(現場に)下ろさなければいけない時は下ろすけど、まずはその現場の苦労を知っておかなくてはならないなと。(現場に)下ろすときに相手がどう感じるのかといった気持ちとかを考えないと。上の人の考えを咀嚼して、何を狙っているからそうなるのだとも伝える。』
『部門全体に下ろすときも気を遣う。投げっぱなしにして“後はよろしくね”というわけにはいかない。結局、人がやるので理論的に押し付けても現場は動いてくれない。』
・物流業/部長・Sさん
『人脈作りについては、現場の事務所に行ったりしているし、得意先にも一緒に行ったりする。現場の細かい事は自分ではわからないので、各拠点に足を運んで情報連携をするようにしている。』
『現場への顔出しは欠かさない。現場に顔を出す事が大事。電話で済ましたりメールで済ましたりする事もできるけど、ニュアンスを伝える事ができない。そこは社外も社内も同じ。』
IT技術の進化によりどれだけ社内コミュニケーションツールが充実しても、人間はロボットではなく、感情を持ち合わせている。感情に配慮せず、理屈だけを述べても上手くはいかない。その点をしっかり認識し、経営層にも現場にも心理的距離の近さを獲得するための行動をとることで、畑違いの部署でも「私たちのことをわかってくれているあの人が言うなら」という、共感・信頼を得ることが出来るのである。
�C特定の誰かによって、態度を変えない公平性
・デザイン業/部長・Yさん
『人事と経理の年配の女性に毎日挨拶に行った。経理には入ってはいけないエリアがあるので、その外から声掛け。社内で歓迎会のイベントをやった時に、その二人にはちゃんとお礼に行った。総務が料理を手配してくれるから。裏方の人たちは100%ミスなしで当たり前、それを今日もミスなし凄いですねって、敢えて伝えに行く』
・教育業/事業部長・Mさん
『(トップの)機嫌は伺うけど忖度はしない。トップの志に私は乗っかっていると思っている』
『厳しいフィードバックもちゃんとするようにしている。自分のためだよ、というのも伝えるようにする』
目先の自分にとって都合の良い相手にだけ良い態度で振る舞うのではなく、全ての人に真摯に向き合い、常に自らの考えで動くことが出来る。こういった360°全方位に味方をつくるような分け隔てないコミュニケーションが、力強いチームを創ることを知っているのである。また、誰かに依存せず、自分の頭で会社のため、相手のためを考えているからこそ、ここぞ、という時に相手に(伝え方は配慮しつつも)正しいことを言うことが出来るのだ。
■ネットワークにより認識のギャップを埋める:翻訳力
2つ目は、ネットワークの中でお互いの認識のギャップを埋める力、つまり「経営側/現場側の言語を相手の認識・関心に沿って変換する翻訳力」である。
・IT業/事業部長(役員)・Yさん
『“相手がインセンティブを感じられるように話をする”と部下からも言われるけど、昔からアドリブがきくと言われる。文学部で培った能力が活かされているかもしれないが、自分が話していることが、しっかり相手に伝わっているのかを凄く気にする。自分が使う語彙、ボキャブラリー、語調に凄く気を遣ってきた』
・デザイン業/部長・Yさん
『相手と同じリングに立って話をすることが大事。相手の土俵で会話を探す。相手の土俵をちゃんと理解しているか。“数字が変だからこれなんです”とかって聞いても、相手の言語が判らないと意味がない。相手の言葉で考えてあげて、“でもそれより上の視座だとこうなるよ”って言ってあげる』
社内のヒエラルキーの枠を超えて、部署や職責といった会社の「機能」に沿ったコミュニケーションではなく、相手の認識・関心に寄り添い、その人、その時、その場所に応じて情報を取捨選択して、受け取りやすい形に変換し伝える(翻訳する)ことが出来る。そのような人材に対しては、「あの人の言うことなら動きたくなる/何かあったら、あの人に聞いてみよう」という信頼が生まれ、結果自らのネットワークを広げ深めていくにも役立つ。
■ネットワークを使い倒す:したたかさ(強かさ)
意思決定のために結果を出すためには、ネットワークでヒトとヒトをつなげるだけではなく、戦略的にヒトに動いてもらうことが重要である。ここで必要なのが3つ目のネットワークを使い倒す技術である。その本質は人並み外れたネットワークを通じたしたたかさ(強かさ)を持ち合わせていることによる「断行力」とも言える。
インタビューを通して、更に以下の2つの力があることが見えてきた。
�@相手に花を持たせて実を取る 自分は黒子に徹し裏から全体をコントロールする力
・製薬業/部長(経営企画)・Kさん
『経営執行会議では少し後ろの席にいて、部長へはスカイプで伝える。そうすると自分が目立たないで無事に回る』
『間違った意思決定がされることが一番駄目だから、自分がやっている感が出ても意味ない。自分が満足するだけ』
・運送業/部長・Sさん
『商談が上手く行ったら現場の手柄になるようにしている。現場の人間は苦労していても自分たちからは(その苦労を)上に言ってこないので』
直接的な成果は他人に譲って、目立たないところで動くことができるのがこの力であるが、その実態は、裏で人々を動かして物事をうまく運ぶようにしている。本人は、全社のために役に立つことが第一なので、たとえ目立たなくても問題はない。
�A他部門・上位者を迂回して人を動かす根回し力
・印刷・広告業/事業部長・Wさん
『(役員会議では)このトピックにおいてはこの人が腹落ちしやすい、という人を先に味方につけておく』
『肩書の力(ポジションパワー)を使えない人を動かすのが大事。構造上動けない人は仕組みを作って動けるようにしてあげる』
・印刷業/部長・Wさん
『事前の根回しを徹底している。会議で反対意見を言いそうな人には事前に当たる。順番を考えるだけで敵ではなく味方にもできる』
全社にとって正しい、と思うことをするためには、時に自分の肩書の力(ポジションパワー)が通用しない相手を説得することが必要となる。そのためには直接戦うだけではなく、間接的に人を動かしたり、積極的に攻める戦(いくさ)を選んだりと、自分の影響力を最大化する方法を使っていくことが必要となる。結節点人材は、「正規ルートにこだわらない」という判断基準も持ち合わせており、豊富な変則ルートが組織の実行力に変わる事を知っているのである。
◎ネットワーク Will:「高い視座と志」、「当事者意識とおせっかい気質」
次に、図-2よりネットワークの根幹となるマインド「ネットワーク-Will」について解説する。
図-2.「ネットワーク」に関する枠組み(※再掲)
インタビューから、“結節点人材“は人並みはずれた広域なマインドを持ち合わせていることがわかった。その”ならでは“のマインドとしては、大きく以下2つを持ち合わせていると見られる。インタビューで聞こえてきた声から整理していく。
�@高い視座と志
・製造業/本部長(工場長)・Bさん
『自社の企業文化を理解して体現する人になりたいと思って行動していた。課長になってからも課でビジョンを作ったり“それって我が社らしくないよね”と言ったりしていた』
・教育業/本部長・Mさん
『会社を自分事だと思っているかどうか。自分の財布だと思って考えられているか。自分が最終責任者だったらやるか、というセンスがあるかないか。失敗したら自分が補填しますという覚悟があるか』
『会社の“人材育成を通して、社会を良くしたい”という言葉を見て入社した』
・アパレル業/事業部長(執行役員)・Yさん
『視座に会社の目的とかビジョンが入ってくる。この2つを押さえたらどの部署にいても全部横串で動くしかなくなる。視座が上がれば長期的に見る事ができるようになる。目先の事に捕らわれていると視座は上がらない』
『戦略的な事も大事だけど、“この会社はどうしたいのだろう”って自分なりに考えて、自分だったらどうするかをいつも考えている』
“結節点人材”は、役職として経営層に近く、基本的にはコンセプチュアルスキル(※物事の本質を把握する能力)を発揮して仕事をしている。そのため、経営者と同様の視座が必要となる。また、総論賛成、各論反対の経営と現場の軋轢が生じた場合においても、全社目線、中長期視点で必要と感じた事は、必ず実行に移すことに拘る信念を持っているのである。
自社の企業理念を理解し、「会社を通じて社会に貢献をしたい」という自らの志を重ねているため、それらの行動が周囲を動かす原動力となっているようだ。
�A当事者意識とおせっかい気質
・コンサルタント業/経営者・Tさん
『役割分担だけでは回らないようになってきた。ボールが落ちているのに気が付かない状況が出てきている感じ』
『敢えて、わからないのに専門外領域に踏み込んだりしている。自分の子供(会社、社員)のためなら何でもしたい』
・製造業/事業部長(経営企画)・Uさん
『卓球やテニスの場所取りとか企画とか。人をつなぐことを頑張ってやってきた。“誰もしないんやったらやるわ”という奴だった。誰かがやってくれるならすっと引く。誰もしてないなら一回はやろうと思う』
“結節点人材”は、自社に存在するヒエラルキーや各部署の役割や職務分掌を把握した上で、手つかずの状態で放置されている課題を見つけると、自分の担当業務の責任範囲ではなくても、思わず手を出しに行ってしまう「おせっかい気質」を持ち合わせている。
これは上述の「視座が高い」だけでなく、「視座の幅が広く、さらに相手の視座まで瞬時に近づける能力」があるとも言える。そして、「誰もやらないけれど、大切なことに手を出す」姿勢がいざという時に組織に助け合う風土を生む事を知っているのである。
ネットワーク-Skillとネットワーク-Willの相乗効果
これまで、結節点人材に必要な能力である「求心力」「翻訳力」「したたかさ(強かさ)」からなるネットワークの技術「ネットワーク-Skill」、そしてネットワークの根幹となるマインド「ネットワーク-Will」について述べてきた。
最後に、この2つの関係性と、“結節点人材”として成長し続ける仕組みについて解説する。
まず、ベースとなるのは「ネットワーク-Will」であり、「おせっかい気質」を持ち、職務分掌を把握した上で、ヒトとヒトがつながる事によって組織は機能することを意識し行動するマインドを持っている。そして、「求心力」によりネットワークを構築、維持することができ、「したたかさ(強かさ)」をもってネットワークを使い倒す。さらに「翻訳力」を駆使し、経営と現場の双方に認識のズレがない意思決定に繋げることが出来る。
この一連の流れは、短期的、単発的なものではなく、組織のPDCAを回す中で、連続的、継続的に存在することが今回の調査でわかった。つまり “結節点人材”は、この「ネットワーク-Will」、「ネットワーク-Skill」を常に実践しながら個人としても成長を続け、それが組織の成長にもつながっていると結論付けることが出来よう。
図-3.「ネットワーク−Will」と「ネットワーク-Skill」の関係性
以上が“結節点人材”に必要な「ネットワーク」の能力である。ご理解いただけただろうか。
次回はこれらの能力を備える“結節点人材”になっていくためには、具体的にどのようなキャリア形成を図っていくべきであるのか、事例をもとに考えていく。
(第4回に続く)