楽天、EC送料無料化に垣間見るプラットフォームの成長と競争政策

楽天グループは7月、楽天市場の出店者に対して、一定額以上の購入で送料無料とする制度に原則参加を義務づけました。なぜ楽天は出店者からの反発を受けながらも送料無料化にこだわるのでしょうか。楽天市場のビジネスモデルであるプラットフォーム戦略と、そこに待ったをかける競争政策から見ていきます。

送料無料化を巡る出店者と楽天の2年にわたる攻防

7月1日、楽天グループ(以下、楽天)はECモール「楽天市場」の出店者に対し、取扱商品数などの契約変更時に一定額以上の購入で送料無料とする制度(以下、送料無料化)への参加を原則義務化しました。同制度をめぐっては、これまで反発する一部出店者が楽天へ対抗する組織「楽天ユニオン」を結成したことや、公正取引委員会(以下、公取委)による東京地裁への「緊急停止命令」申し立てなどに発展したことのほか、過去2年以上にわたって、楽天自身が度重なる制度の施行と撤回、延期を繰り返してきました。

そして、今回の原則義務化は、出店者5万4千店(2021年1月時点)の85%が同制度へ参加済という圧倒的支持の中で決行されました。このことは、反対派を含む残り15%に相当する出店者約8千店に決断を迫ることに他なりません。楽天は、なぜこれほどまでに送料無料ラインの統一にこだわるのでしょうか。プラットフォームの成長と競争政策の観点から読み解いてみましょう。

「楽天市場」の誕生と「ツーサイド・プラットフォーム」

1997年、都内のマンションの一室で誕生した「楽天市場」は、従業員わずか6名、13店舗での船出でした。海外で先行するアマゾンが自社で書籍を仕入・販売するECサイトとして始まったのに対し、「楽天市場」は小売業者と消費者をつなぐマーケットプレイスを志向していました。いわゆる「ツーサイド・プラットフォーム」と呼ばれる形態です。

「ツーサイド・プラットフォーム」とは、売り手と買い手など、2つの異なるグループが出会う機会を増やし、取引を促進する仕組みや場(=プラットフォーム)を提供するビジネスのことを指します。

創業時の楽天は、売り手である出店者として地方の小売業者に狙いを定め、彼らが全国で商売できる場づくりに力を入れました。零細小売の懐にも優しい月額定額の出店料、素人でも簡単に開店できるハンドブック、モールでの店舗運営をサポートするECコンサルまで付く手厚さで、先行するECサイトとの差別化に成功し、出店者は増えていきました。

出典:筆者作成

一方、買い手となる消費者に対しては、問合せやレビュー機能を充実させてネットショッピングの不安を解消し、個性あふれる店を探すウィンドウショッピング的な楽しみを醸成することで、会員数を増やしていきました。

このように、売り手と買い手の双方の声に耳を傾け、それぞれのグループの問題点を解消しながら、場の価値を高めることが「ツーサイド・プラットフォーム」の成長には不可欠でした。

ツーサイドからマルチサイドへ拡大するエコシステム 楽天の顧客は誰か 

上場直後の2001年に360億円だった同社の国内EC流通総額は、昨年度、年間4.5兆円にまで膨れ上がりました。前者は「楽天市場」を主体とする流通総額でしたが、後者は楽天がグループで保有するさまざまなEC事業の総額です。

ここでの疑問は、現在の楽天が最も重視する顧客は誰か?ということです。

楽天はこの20年の間に、積極的なM&Aや事業提携を通して、多面市場を担う「マルチサイド・プラットフォーム」へとエコシステムを拡大してきました。このことは、プラットフォームに占める「楽天市場」の割合を相対的に下げたと考えられます。

一方、楽天会員は「楽天スーパーポイント」のロイヤリティプログラムもあって、楽天が事業主体の金融サービス、書籍、旅行などにはじまり、提携事業であるネットスーパーや家電専門店など、楽天エコシステムのさまざまなサービスを利用しています。

いまや楽天のプラットフォームは「マルチサイド」でありながら、その商品・サービスの買い手は楽天会員が中心の「ワンサイド」なのです。つまり、”ツーサイド”の頃には出店者と会員の二者のバランスを取って場の価値を高めていたのに対し、”マルチサイド・トゥ・ワンサイド”とも呼ぶべき現在は、楽天の総合力で、会員の可処分所得に占めるプラットフォームの利用総額を増やすことがEC事業の成長に欠かせなくなったのです。

出典:筆者作成

このように、会員の声が他のステークホルダーより重視される状況下にあって、AmazonやファッションEC専業のZOZOなどと比較した時の「見た目の統一感のなさ」や「商品比較のしづらさ」、「複数店舗での購入で配送料が高くつく実態」などへの会員の不満が高まっていることに楽天は危機感を持っていました。

そのため、これまで店舗ごとの独自性と創意工夫で顧客との信頼関係を築き、ノウハウを蓄積してきた出店者が多くいることは十分承知の上で、「楽天市場」のユーザインタフェースやユーザエクスペリエンス(UI/UX)の改善や、先の「送料無料化」は、一部出店者の反対を押し切ってでも楽天が成し遂げたい喫緊の課題となっていました。

楽天に待ったをかける規制強化の波

そのような最中、2月1日に施行されたのが「デジタルプラットフォーム取引透明化法」です。同法の目的は、デジタルプラットフォームにおける取引の透明性と公正性の向上を図ることです。一般に、マルチサイド(多面市場)を担うデジタルプラットフォーマーは、革新的なビジネスを生み出す担い手である一方、ネットワーク経済性や低廉な限界費用、規模の経済などの特性を複合的に併せ持つことによる市場の寡占化や独占化が進みやすいことが問題視されました。EC事業者としては国内流通総額3,000億円以上を基準に、アマゾンジャパン、楽天グループ、ヤフーの3社が指定されました。

楽天にとっては、度重なる延期に見舞われた「送料無料化」の導入が、楽天による優越的地位の濫用による「楽天市場」の出店者への不公正な取引慣行と映りかねませんでした。

ここはなんとしても同問題に決着を付け、今後は出店者と楽天がともに歩調を合わせる体制を築きたいところです。そのため、同法に則って、「楽天市場」の出店者に対しては、運営の基本事項や取引条件を開示したほか、新たに設立した「楽天市場サービス向上委員会」を通して、出店者を代表する「楽天友の会」との間で定期的な意見交換を行うことを発表しました。また、行政からの要請に応える組織として「コマース渉外室」を設置しました。今後は、これらの運営状況を毎年、行政へ報告し、レビューを受けることとなります。

踊り場を迎えたEC OMOによる個別最適な消費社会で健全な市場形成の模範となれるか?

コロナ禍で数年かかる変化を先取りし、リアル消費回復の兆しが見えたEC市場はいま、成長の踊り場を迎えています。この先もう一度成長曲線を立ち上げるには、リアルの消費を取り込んで、OMO(Online merges with offline)、つまりオンラインとオフラインが融合した個別最適な消費社会を実現させることです。

この7月にアマゾン創業者のジェフ・ベゾスがCEOを退任したことは偶然ではありません。全世界・全産業のOMO化でクラウド需要がさらに拡大することを見込んで、新CEOにはアマゾンの利益の60%を稼ぎ出すクラウド事業の立役者を起用しました。

(出典)筆者作成

楽天はどうでしょうか。新規参入した携帯電話事業で、会員との物理的・心理的な距離をもっと縮めることで、楽天会員一人一人に個別最適な消費生活を楽天エコシステムの中から積極的に提案するOMOを実現したいと考えられます。しかしながら、世界的にプラットフォーマーへの規制圧力が強まるなか、OMOで個別最適な消費を実現するということは、楽天市場の出店者と会員を含むすべてのステークホルダーの間にこれまで以上の信頼関係が要求されます。なぜなら、密接にプロセスや取引条件を開示し、多種多様なデータを共有し、AIやアルゴリズムによって提供する顧客価値に理解が得られ、利益の配分にも納得感がある状態が不可欠だからです。

次なる成長曲線の立上げに向けて、楽天のビジョンと戦略に共感し、同じ夢を見られる仲間をどれだけ多く得られるか。健全な市場形成に期待がかかっています。

(出典)
楽天が年内に送料無料ラインを統一へ、『送料バラバラ』の不満に対応」日経クロステック(2019/1/30)
楽天に怒り爆発、「送料改革」に出店者が反旗」東洋経済(2019/11/1)
楽天「送料改革」、出店者が反発する根本原因」東洋経済(2020/1/23)
三木谷氏に反旗の『楽天ユニオン』代表に理はあるか」JBpress(2020/3/9)
(令和2年2月28日)楽天株式会社に対する緊急停止命令の申立てについて」公正取引委員会(2020/2/28)
楽天の通販『送料込み』 賛成の出店者が団体設立」日本経済新聞(2020/3/5)
楽天株式会社に対する緊急停止命令の申立ての取下げについて」公正取引委員会(2020/3/10)
楽天EC、送料無料を義務化 出店者の契約変更時に」日本経済新聞(2021/6/10)

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