サステナブル経営研究vol.1 経済・社会の「二兎追う」フレームワーク

近年、ビジネスの世界でサステナブル(Sustainable)、サステナビリティ(Sustainability)という言葉を耳にする機会が増えました。このシリーズではサステナブルな地球環境と社会づくりに貢献する日本企業を取り上げ、その戦略を分析します。

本稿は、グロービス経営大学院教員の金子浩明の指導のもと、多様な業種で構成された5人の社会人大学院生(橋本、藤善、前平、山口、吉森)が約1年半かけて調査・研究を行った結果に基づいています。第1回は教員の金子浩明が、サステナブル経営を取り上げた背景と、企業分析のポイントおよびフレームワークについて説明します。

サステナブル経営とは

サステナブルという言葉を聞くと、地球環境保護を連想する方が多いかもしれません。本稿におけるサステナブル、サステナビリティとは、「人間・社会・地球環境の持続可能な発展」をあらわしています。

サステナブルがビジネスの世界で多く取り上げられるようになった契機は、2015年の「国連持続可能な開発サミット」です。その成果として「持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals=SDGs)」が採択されました。SDGsのゴールと目標には、地球環境保護に加え、社会(経済格差や社会格差)や人間(人権、教育、ジェンダー)、途上国の諸問題の解決が含まれています。

今回は地球環境保護を追求している企業を3社(殿林、大川印刷、ナカダイ)、伝統文化や地域産業の維持を追求している企業を3社(坂ノ途中、和える、中川政七商店)取り上げました。

取り上げた企業に共通しているのは、企業として「経済的利益」を追求していながら、それと同じくらいに「社会的利益」を追求していることです。本稿ではこうした経営を「サステナブル経営」と呼びます。長寿企業のことを指しているのではありません。 

経営戦略とビジネスモデルに着目

現代の大量生産・大量消費・大量廃棄の社会経済システムは、そこに参加している企業が利益を追求し、競争することで成立しています。それは人々に便利で豊かな生活を提供してくれますが、サステナブルではありません。サステナブルな経営を行うということは、こうした社会経済システムと距離を置きながら、あるいはそうしたシステムの問題解決を行いながら、私企業として利益を追求することですが、簡単なことではありません。

(なお、NPOは地域社会に対する社会的利益を追求する法人であり、私的な経済的利益の追求を目的としていないことから、今回は研究の対象にはしていません)

これらの企業が「サステナブル経営」を実現させている背後には、独自の理念や文化、経営者の人物像や信念に加えて、ユニークな経営戦略やビジネスモデルがあります。わたしたちは経営戦略とビジネスモデルに焦点を当てて分析します。社会的利益と経済的利益を両立させるには、高邁な理念や経営者の信念だけでは難しいからです。

※ビジネスモデルとは「誰に何を」「どのように提供し」「どのように儲けるか」を描いた「ビジネスの設計図」のことです。

サステナブル経営の法則

サステナブル経営を成立させるためには、既存の社会経済システムの中で埋もれていたり、むしろマイナスだと思われているものごとの中から「経済価値の源泉」を掘り起こし、磨き上げる必要があります。サステナブル経営の企業が掘り起こした経済価値の源泉には、A~Cの3つのタイプがあります。

A. 曇った価値 … 何らかの障壁や摩擦によって、価値が市場で認められていない。

例)優れた伝統工芸の技術を持つ職人がいるのに、そうした技術を使った商品が市場のニーズに合致していない、それが知られていない、流通経路に乗らない、など。(中川政七商店、和える)

B. 非価値 … 経済的な価値になるのか分からない。むしろマイナスとみなされる場合も。

例)使用を終えた製品、廃棄処分となったもの、製造ラインから落ちた部材などの廃棄物を素材として捉え、大量に保管。(ナカダイ)

C. コスト>価値 … 価値は認められるが、コストやリスクがそれを上回ってしまう。

例)印刷物に環境に配慮した材料を使い、環境に配慮した工程で印刷することは好ましいが価格が高くなる。そのため、多くの顧客は同じ品質ならば安い印刷を選ぶ。(大川印刷)

これらの源泉から独自の経済価値を生み出すには、バリューアップに寄与する3つのアプローチと、コストダウンにつながる「+1」のアプローチがあります。

1.価値を引き出す … 例)伝統工芸技術の価値を発見して、職人や生産者と共に磨く。(中川政七商店、和える)

2. 価値を反転させる … 例)産業廃棄物のリサイクル工場から、素材を生み出す工場に変える。(ナカダイ)

3. 価値を拡張する … 例)低環境負荷農法による新規就農者の支援および収穫された農産物の販売(個人宅への定期配送と小売店や飲食店への販売)から、農業生産者と利用者をつなぐインターネット上のBtoBプラットフォームサービスを展開。(坂ノ途中)

+1.  ローコストオペレーション

価値に関する3つの打ち手(1~3)には、緩やかな順序があります。最初に価値を発見して引き出し、それを反転させることでマイナスをプラスに変え、そうして生み出された新しい価値を別の価値と組み合わせて拡張させる、という流れです。

なお、最後に加えた「ローコストオペレーション」については、特に企業努力による製品差別化が難しい業界で重要です。今回取り上げた企業では、ナカダイや殿林が該当します。また坂ノ途中のような在庫管理が難しい業界も、オペレーションの重要性が高くなります。

価値の源泉と打ち手との関係

経済価値の源泉と経済価値を高める打ち手との関係を、次の図にように整理しました。ある製品やサービスが売れないのは、価格に価値が見合っていないからです。顧客に欲しがってもらうためには、価値を高めるか、コストを下げるかが必要です。

「価値を引き出す」ことは最初の一歩です。例えば、集められた産業廃棄物はそのままだと「ゴミ」ですが、そこから価値を引き出すことができれば、ある程度のリサイクルコストをかけることが可能になります。

「価値を反転させる」は、サステナブル経営の核となる部分です。有機野菜を例にとると、鮮度に問題が無くても、形が曲がったものや、旬を過ぎて収穫されたもの、市場であまり流通していない珍しい品種は、価値が低くなります。流通すらしないかもしれません。そのため、マイナスをプラスに変えるくらいの反転が必要になります。

「価値を拡張する」は、既に生み出された新しい経済価値を強化する打ち手です。そのため、すべての経済価値の源泉に関係します。この打ち手によって、生み出される経済価値が高まることがあります。坂ノ途中の場合、新規就農者と購入希望者をつなぐプラットフォームビジネスを展開することで、坂ノ途中を介して流通する農作物の量を増やしました。

ユニークなビジネスモデルと自社定義

サステナブル経営を実現している企業は、経済価値を高める3+1のアプローチを組み合わせることで、「独自のビジネスモデル」を構築しています。殿林のビジネスモデルは「補助金に頼らない林業」、「危険じゃない林業」というユニークな特徴を持ち、地産地消と規模の経済を同時に実現しています。同社の森永社長はこれを「殿林モデル」と呼んでいます。

また、これらの企業は自社のビジネスを既存の業界定義とは違う形で「再定義」しています。それは企業のミッションやビジョンと分かちがたく結びついており、自社についての物語(ナラティブ)の核になります。

自社の定義が変われば、その後のビジネス展開が変わり、働く社員の意識も変わります。大川印刷は「社会的課題を解決できるソーシャルプリンティングカンパニー」と自社を定義しています。印刷会社ではなく、ソーシャルプリンティングカンパニーと定義することで、環境意識の高い新入社員が応募してくるようになり、ベテラン社員の環境意識も高まりました。ナカダイは「廃棄物を処理する」のではなく「解体・分別して素材を生産する」と自社のビジネスを再定義しました。そこから発展し、「使い方を創造し、捨て方をデザインする」という事業コンセプト生まれ、新たな事業展開につながっています。従来の産業廃棄物処理業のイメージをくつがえしたことで、入社してくる社員のタイプも変わりました。

サステナブル経営を成立させている企業は、社会価値と経済価値を両立させる「ユニークなビジネスモデル」「ユニークな自社定義」という特徴を備えています。今回はシリーズの全体の概要を説明しましたが、次回からはサステナブル経営を実践している6つの日本企業を紹介し、その戦略とビジネスモデルを分析していきます。

※シリーズの記事はこちらです。
サステナブル経営研究vol.2  株式会社坂ノ途中 100年続く農業へ新規就農者と挑戦
サステナブル経営研究vol.3  ゴミ減量で儲かる、発想の大転換 ナカダイが促す「サーキュラー・エコノミー」

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