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サステナブル経営研究 vol.3 ゴミ減量で儲かる、発想大転換 〜 ナカダイが促す「サーキュラー・エコノミー」

投稿日:2021/09/03更新日:2022/06/10

このシリーズではサステナブルな地球環境と社会づくりに貢献する日本企業を取り上げ、その戦略を分析します。第3回のテーマは産業廃棄物処理を手掛ける株式会社ナカダイ(中台澄之社長、東京都品川区)です。同社はゴミが出るほど儲かる業界構造を疑問視し、ゴミを減らしながら利益を創出する現在のビジネスモデルを構築しました。本稿ではその具体像に迫ります。

産廃処理業界の現状と課題

株式会社ナカダイ(以下、ナカダイ)は、群馬県内にメーン工場を持つ産業廃棄物処理業者です。同社のビジネスモデルを分析する前に、まず産業廃棄物業界の現状と課題について触れてみます。

企業は事業活動を通じて製品を生み出すと同時に、大量のゴミも発生させています。企業から出たゴミは、事業系一般廃棄物と産業廃棄物(以下、産廃)に分けられます。事業系一般廃棄物は、家庭から出るゴミと同じように、自治体で処理されます。産廃は、ナカダイのような専門業者が処理を行います。

産廃といっても、中身はさまざまです。廃棄物処理法では20種類の廃棄物に分類されます。オフィス机を製造する場合、原材料の合板、スチール、プラスチック、ゴムの端材が産廃として処理されます。

産廃がどのように処理されていくのか、サプライチェーンを見てみましょう。

企業から出た産廃はまず回収専門の業者が回収し、産廃処理業者へ運び込みます。企業は、産廃を処理してもらうために回収専門の事業者と産廃処理業者の両方と廃棄物処分の委託契約を結ぶ必要があります。ゴミを受け取った産廃処理業者は、まずはゴミを分類していきます。リサイクルできるもの、燃やすもの、埋め立てしかできないものを見分けていきます。

産廃処理業界の課題としては以下の3点が挙げられます。

・取り扱うゴミの量が増えれば儲かる業界構造

産廃処理業者はゴミのリサイクルを通じ、廃棄物の削減に貢献しています。とはいえ回収するゴミの量自体が増えれば増えるほど売上高は増加し、利益も拡大するといった矛盾した構造を産廃業界は抱えています。

・「リユース」しない産廃処理業者
リユースとは、不要になったものをそのままの状態で再利用することです。中古品販売店に陳列されるものがリユース品に該当します。廃棄物のサプライチェーンのなかで、リユースは環境負荷の低減に大きな意味を持つと考えられますが、小型家電を除き、産廃処理業者がリユースに携わることはこれまでほとんどありませんでした。

リユースが難しい廃棄物が排出されても、マテリアルリサイクル(素材を再度原料として利用する)やサーマルリサイクル(素材から石油代替燃料を取り出す)が行われれば、環境負荷の低減にはある程度、寄与します。廃棄物がそのまま埋め立てなどに回されれば、環境に大きな負荷がかかることになるのは言うまでもありません。産廃処理業者がリユースに関与することは、持続可能な社会の実現に向け非常に有益なことであると言えます。

・細かく分けられない商品の存在
ひとことに商品といっても様々な素材で構成されています。商品の設計段階で、ゴミになった時に原料を分別できるようにすることが理想的ですが、現実はそのような商品ばかりではありません。細かく分けられない商品のゴミが大量にあるなか、分けられるはずの商品があっても、見過ごされてしまうことが往々にしてあり、産廃処理業者のリサイクル率を高めにくくする要因となっています。

これらの課題のなかで、「分ける」作業に関してはAI(人工知能)による代替や機械化が極めて難しい部分です。重機を利用し、ゴミの塊をおおざっぱに分けることができても、形状や劣化度合いが異なるゴミの集合体からさらにAIやロボットを使って材料ごとに細かく分けることは、現行の技術では難しく、手作業に頼らざるを得ません。

「分ける」作業は人件費に直結します。時間と手間をかければかけるほど、産廃処理業者のコストは膨らみます。有価物(お金になるもの)だけをリサイクルし、他を焼却処分してしまうような産廃処理業者が多いのが、日本のリサイクルの現状でもあります。

驚異的なリサイクル率99%

ナカダイは業界の常識に反し、ゴミの量を減らしながらも利益を生み出す仕組みを確立した企業です。リサイクル率は99%に上り、一般的な産廃処理業者のリサイクル率(70%)と比較すると、いかに抜きんでているかがわかります。

同社は産廃処理業者のなかでも、「総合リサイクル業」を営んでいます。総合リサイクル業は、工場から出た様々な廃材、事務機器、オフィス家具などを含めた企業の産廃を一括で受け取れるのが大きな特徴です。木くず、繊維くず、廃プラスチックなど18種類にも及ぶ産廃処理の許可をほとんど取得していて、液体以外のほとんどの産廃処理を受け付けることができます。

ある産廃を扱うには、その産廃に対応した許可を自治体の長などから取得することが必要となります。木くずや鉄くずなど、廃棄物の種類ごとで産廃処理業者は専業特化しているのが通常です。1つの許可を取得するには1〜2年、自治体とやり取りする必要があると言われています。適切な処理態勢が整っているか、周辺環境への配慮がなされているかなど、厳しくチェックされます。

総合リサイクル業としての強みを持つナカダイは「多様な価値観と自由な発想で社会に貢献する」という経営理念と、「捨て方をデザインし、使い方を創造する会社」というビジョンのもと、廃棄物のサプライチェーンの終わりとなる「捨てる」と、その始まりとなる「使う」をつなぎ、新たな価値を生み出す「リマーケティングビジネス(同社の中台澄之社長の造語)」を展開しています。そのうえで産廃処理業者を「新たな素材を生み出す工場」として定義しています。

前述の通り、産廃処理業界はAIによる代替や機械化が難しく、手作業で「分ける」といった業務を抱える、労働集約的なビジネスだと言えます。分けにくい産廃を分けることに時間や労力を割かずに、埋め立て・焼却処分をしてしまえば、人件費の抑制は可能になりますが、ナカダイはあえて人件費をかけ、回収した産廃から資源を取り出し、社会的な資源として活用できるようにしています。中古オフィス家具や、廃棄物から取り出した素材の再販事業、リサイクル率向上に向けた企業へのコンサルティング事業などを展開し、収益拡大につなげています。

それでは、ナカダイの具体的な取り組みとして、次の3つを紹介します。

・中古オフィス家具のリユース
・「モノファクトリー」
・「ナカダイフィルター」

中古オフィス家具のリユースに挑戦

まず「リマーケティングビジネス」の具体策として、中古オフィス家具の再販事業をみてみましょう。

通常の産廃処理業者は、売れるかどうか分からない、しかも大型でかさばるオフィス家具をリユースしようと考えません。家電など、比較的小型でかつ高値で再販売が可能なものは価値があり、小ロットでも採算が成り立ちます。しかしオフィス家具は広大な保管スペースが必要になるほか、運送コストがかさむわりに、高く売れないので、薄利多売のビジネスになります。リユースされなかった中古オフィス家具はマテリアルリサイクルに回され、材料としてリサイクルできずに残ったものはサーマルリサイクル工程に進み、燃料として利活用できないものが埋め立てなどに回ることになります。

ナカダイは自社でオフィス家具をリユースする中古市場を運営しており、その規模は東日本で最大規模を誇ります。事業規模の拡大に寄与しているのは、次の3点です。

1)総合リサイクル業であり、ほぼすべての産廃を取り扱っていること
2)リサイクル率99%を達成していること
3)自社で育成した中古オフィス家具の「目利き人材」を引っ越し現場に派遣していること

ほぼすべての産廃を取り扱えることは、中古オフィス家具のラインアップ充実につながります。リサイクル率も100%に近く、仮に出品して売れなくても適切にリサイクルすることができます。環境負荷低減を目指す多くの企業からの引き合いを集めることが可能となり、結果としてより多くの中古オフィス家具を集められるようになります。

同社は「目利き人材」を引っ越し現場に派遣し、一定の品質が維持された中古オフィス家具を仕入れています。週に1度開催する販売会では、売れる中古オフィス家具を仕入れようと、日本全国から買い付け業者が集まります。高回転でオフィス家具がリユースされる状況を作り出しています。

【ナカダイの中古オフィス家具のビジネスサイクル】中古オフィス家具のリユースを行う業者はたくさん存在しますが、産廃処理の許可を持った業者はほとんどいません。リユース業者が販売できなかった中古品は、ゴミとして処分する必要が出てきます。ちなみに企業は事業活動に伴って生じた廃棄物を自らの責任で適正に処理しなければなりませんが、リユース業者に売却し所有権が移転すれば、リユース業者が産廃の排出者責任を持つことになります。法律上は、産廃処理許可を持たない事業者に産廃処理の委託を行うことはできませんが、法律のグレーゾーンに注目し、企業が処理責任を逃れるために中古リユース業者を悪用するケースもあるようです。

「モノファクトリー」が促す再循環

中古オフィス家具のビジネスとともに、リマーケティングビジネスの中心的役割を担うのが、ナカダイと併設された株式会社モノファクトリー(以下、モノファクトリー)です。モノファクトリーでは以下の機能を担っています。

�@ 循環型社会の構築に向けた商品・イベント企画
企業や自治体、美術大学などと連携し、廃棄物をゴミと捉えずに再生された素材として利用できるワークショップ・イベントなどを数多く実施しています。廃棄物を使ったアート作品としての素材を生み出しており、多くのアーティストに利用されています。

�A リサイクル率向上やコスト削減に向けたコンサルティング
廃棄物処理にあたっては、これまで多くの企業が処理業者に任せっきりにしてきました。産廃を業者に引き渡した後に、環境負荷を考慮して最適な形で分けられているか、企業側は管理しきれていませんでした。モノファクトリーは廃棄の前段階でのコンサルティング活動を展開しています。企業に対し、最適な廃棄物の分け方やレイアウトの構築方法などを提案しています。企業は廃棄方法を改善することで、最適なリサイクルを行うことによる社会的責任への貢献と、コスト削減の両立が可能となり、環境負荷を考慮したリサイクル率の向上が実現できるようになります。

「ナカダイフィルター」で広がる未来

ナカダイは廃棄物の回収から、サーマルリサイクルに至る各段階で、コストを抑えながら資源を取り出し、社会に再循環させるための独自手法を「ナカダイフィルター」と名付けています。顧客企業に「ナカダイフィルター」の活用を呼びかけ、処理コストの抑制という利点とともに、社会価値の向上に貢献できると訴求していいます。

同社のビジネスモデルは、産廃処理業者にとっての廃棄物の受け取り、すなわち仕入れが常に一定ではなく、産廃処理業者で生産された様々な素材を求める企業も常に一定ではないという難点があります。廃棄物の供給側の情報と、再利用を求める需要側の情報が不安定であり、かつコントロールが難しいことが、このビジネスを成立させるうえで大きな課題となります。ナカダイは供給側、需要側の両面で取引先企業を増やし、需給バランスの安定化を図っています。

同社のリマーケティングビジネスの概念は、ゴミとして廃棄されたものを、リユース・リマーケティングの観点から見つめ、これらをソーシャルマテリアルと称して、小さなコストで社会に再循環させようとするものです。社会への貢献は環境面にとどまらず、雇用創出にも寄与しています。なお、同社がリマーケティング事業で採用活動を行ったところ、60倍近くの倍率となったそうです。ナカダイでしかできない仕事に興味を持った求職者が多いことの証拠だと思います。

産廃の生み出す価値とは。自社の生み出す製品がゴミになる際、どのように資源の再循環がなされるべきか。多くの企業が考えるきっかけとなる記事となればと思っています。

担当教員(金子浩明)、サステナブル経営のフレームワークで解説

サステナブル経営を成立させるには、既存の社会経済システムの中で埋もれていたり、むしろマイナスだと思われていたりするものごとの中から「経済価値の源泉」を掘り起こし、磨き上げる必要があります。「経済価値の源泉」には3つのタイプがあり、これらの源泉から独自の新たな経済価値を生み出すには、バリューアップに寄与する3つのアプローチとコストダウンにつながる+1のアプローチがあります。このフレームワーク(※)に沿って、解説します。

※サステナブル経営についての企業分析のポイントとフレームワークの詳細はこちら

1. 曇った価値(⇒価値を引き出す)
ナカダイが回収した産業廃棄物は「ナカダイフィルター」によって、リユースマテリアルリサイクル_サーマルリサイクルという段階を経て、99%が再利用されます。このフィルターの特徴は「なるべく前の段階で拾う」ことです。ナカダイが開催するオークションに出品しても値が付かなかった、中古品としてリユース不可能な廃棄物も、可能な限り用途先を探すことにしています。例えば廃棄された木製のパレット(荷物を載せる台)は、パレットとしては買い手がつかないですが、それを家具の材料に転用したい人がいます。旧式の家電や業務用機械、店の看板なども、ドラマの撮影や、店舗装飾品へのニーズがあると考え、一部の廃棄物を保管しています。そのままの用途ではリユースしにくい廃棄物の潜在的な価値を引き出し、リユースに回す努力をしています。

2. 非価値(⇒価値を反転させる)
マテリアルリサイクルに回った廃棄物は、モノファクトリーによってアート作品や工作、工芸に使われる材料などとして販売されています。カバンの製造販売などを手掛けるユー・エス・エム、情報誌のモノ・マガジンと共同で制作した、自動車のエアバッグ生地を転用したバッグは、東急ハンズなどでも販売されました。リサイクル素材を使ったというストーリー性に加え、実用面で生地の強度が非常に高いことや、エアバックの模様のデザイン性などが話題になりました。

2017年には建築設計事務所のオープン・エーと、廃棄物から価値を引き出し製品化につなげる「THROWBACK PROJECT」を立ち上げました。廃材を活用した家具を受注生産して販売しています。体育の授業で使われる跳び箱をリメークしたテーブルとベンチのセットの価格は25万円以上するそうです。リユースだけではなく、リファービッシュ(再調整、修理)やリメークをすることで、ゴミを宝に変えています。

3. 新たに生み出された価値(⇒価値の拡張)
ナカダイはゴミを宝に変えるだけでなく、循環型社会の実現に向けたコンサルティングなどへと提供価値を拡張させています。1社で処理できる産業廃棄物の量には限りがありますが、コンサルティング業にはそうした限界はありません。全国にナカダイのメソッドを展開することもできます。中長期的にはコンサルティング事業と産廃事業の売上高比率を逆転させたいとのことです。

ユニークな自社定義とビジネスモデル

ナカダイは2000年代後半に、産業廃棄物処理業の定義を「廃棄されたものを処理する」から、「人が不要としたモノを最適な形で世の中の必要とする人へつなぐ」業種へと変えました。そのうえで自社工場を「製造業の工場」と再定義し、ナカダイは「素材を生産する会社」だと社内に徹底しました。大きな発想の転換です。

現在は自社の業態は「“捨てる”と“使う”をつなぐ“リマーケティングビジネス”」と定義し、事業コンセプトについては「使い方を創造し、捨て方をデザインする」としています。同社の自社定義のユニークな点は、ゴミの減量に伴う、既存の産廃処理事業の縮小とセットになっていることです。

社長の中台氏は、産廃処理業界はいずれ「情報産業」になると予想しています。廃棄物には製造された国や日付、製造方法といった情報が本来、備わっているはずですが、そうしたトレーサビリティが確保されていない廃棄物が多いのが現状で、リサイクルやリユースをするうえで障害となっています。中台氏は、こうした情報のプラットフォームを構築したいと考えています。ナカダイの自社定義とビジネスモデルは再び変わるかもしれません。

(中台社長と著者ら、左から金子講師、山口、中台社長、藤善)

※シリーズの記事はこちらです。

vol.1  「経済・社会の『二兎追う』フレームワーク」
vol.2  株式会社坂ノ途中 100年続く農業へ新規就農者と挑戦
vol.3  ゴミ減量で儲かる、発想の大転換 ナカダイが促す「サーキュラー・エコノミー」
vol.4 稼げる林業、資源保全も〜有限会社殿林〜
vol.5 「環境印刷」を広げた共感の輪〜株式会社大川印刷〜
vol.6 「伝統」を発信し、未来につなぐ〜株式会社和える〜
vol.7 中川政七商店、伝統工芸品のプラットフォーマー

 

引用文献:
捨て方をデザインする循環ビジネス(中台澄之著、2020年)
「想い」と「アイデア」で世界を変える(同、2016年)

参考HP:

資源循環政策を巡る最近の動きについて 経済産業省 https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/sangyo_gijutsu/haikibutsu_recycle/pdf/033_04_00.pdf

Pro & Cons Of Waste Incineration & Waste To Energy (Benefits & Disadvantages) https://bettermeetsreality.com/pros-cons-of-waste-incineration-waste-to-energy-benefits-disadvantages/

 

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