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グローバル化のための前提条件 -グローバル化と人事システム(2)

投稿日:2015/04/08更新日:2021/10/26

グローバル化に対応するとは、異文化すなわち多様な価値観に対応することである。人事システムを設計する上であらかじめ理解しておくべき点を整理したい。

グローバル化のための前提条件

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(1)基本としての「異文化の理解」

言うまでもなく異文化を理解することが第一歩となるが、どの程度の理解が必要だろうか。例えば、生産工場へ技術指導のために赴任するのであれば、基本的な会話ができ、技術を持っていれば十分かもしれない。治安の悪い地域のため、工場と宿舎の往復で街に出ることなく赴任期間が終了したというエンジニアの例もある。他方、現地で子会社のマネジメントを担う場合には、勤労についての価値観など、その国・地域の文化について熟知しておく必要がある。給与、職位、職種など、どの雇用条件を優先するかは文化によって違いがあるからである。

異文化を知る方法は、現地人や現地経験者からのレクチャー、研究者や専門家からの情報、あるいはリサーチ会社を通じてなどいろいろあるが、気をつけなければいけない点がある。「世界価値観調査」(WVS:World Values Survey。各国の社会科学者により行われる国際的プロジェクト。幸福度統計などが有名) でも指摘されているように、時間の経過とともに文化が変化するということだ。

特に、東南アジアでは高等教育を受ける人口割合が増え、親の世代のように家業を継ぐとか、女性だから家庭に入るといった価値観が薄れているようである。ある瞬間、ある一時代を切り取って、文化を論じるのは危険なのである。したがって、継続的に現地での価値観の変化に気をつけておくことが異文化を理解する上で欠かせない。

(2)異文化理解から多様性へ

文化を「共有された行動規範」と端的に表現するのであれば、確かに外国の文化は異文化である。しかし、さらに視点を広げ、多様な価値観を前提とすれば、企業の内部においても各組織が独自の文化を保有していると表現できる。

価値の多様性を訴える社会的動きが、近年特に注目されるようになっている。その点、長年にわたり新卒一括採用という方式で男性中心に組成されてきたわが国の企業組織のほうが、多様性を排除しているという意味で特別な存在なのかもしれない。このような特徴を持つ組織がそもそも多様性を受け入れることは難しい。例えば、都市銀行が合併してメガバンクとなる場合、同じ業種で同じ業務でありながら用語が違うという。仕事をスムーズにするためには、共通の用語集を作らないと行内でのコミュニケーションが成立しないというほど、独自の言語、文化の中で閉じているのである。

他方、日常的に多様性を当然のこととして動いている組織にとっては、異文化の理解はそれほど難しくない。相手は自分とは違う視点、考え方を持っていることが前提で、業務が遂行されることになるので、日常的に丁寧なコミュニケーションが必要となるからだ。つまり、多様性に開かれた組織である。急ごしらえで、異文化理解のための教育、研修を詰め込むよりも日常的に多様な人材のポートフォリオを組んでいることのほうが異文化理解には有効だ。

(3)多様性としての「ナショナル・インタレスト」(国益)の理解

進出先国には、その国民の利益を保護する法律や制度が存在する。とりわけ、外資系企業が続々と進出している国においては、国民の労働条件を向上させようとする法律が存在することは珍しくない。さらに言えば、現地では外資系企業が国内経済などに貢献することを期待している。進出企業が一方的に利益を獲得することは許されないのである。わが国においても、かつて外資が会社を設立する際に、資本構成に制限があったことは周知のとおりである。

このようなナショナル・インタレストを保護する法制度は、世界的にも徐々に整備されつつある。例えば、サウジアラビアは2011年に「ニターカート・プログラム」という雇用基準を示している。これはサウジアラビア人を雇用すること(特に若年層の雇用) を促進するもので、基準が守れないとワーキングビザの発給を止めるなどの制裁措置が取られる。あるいはタイやインドネシアなど、特定の職種に関し外国人労働者の受け入れを禁止している国もある。スイスやイタリアでは受け入れ人数をあらかじめ決めておき、それ以上は認めないという措置を取っている。いずれも、自国民の就労率を高めることを目的としたものだ。このような場合、進出企業としても現地における法律の理解も欠かせないため、どのような法案が議論されているか政治の動きにも注目する必要があろう。

また、その国の法律は文化を背景にしていることもある。例えば、年齢による差別を忌避するような文化では、米国など定年制を法律で禁止している場合がある。個人主義の強い国では、企業に相当程度の年金負担を求める法律もある。

特定の民族や集団の利益を主張する行為もある。アフリカのアルジェリアで日本企業も参加している天然ガス精製プラントが武装集団に襲撃されたことは記憶に新しいし、また中国の日系小売企業に対する収奪行為の映像をテレビで目にすることもある。

いずれの場合も、外交上の紛争がこじれて企業活動が妨害されたり、毀損されたりするという問題が生じる。企業組織がグローバルで活動するということは、経済のレベルに注力するだけでは不十分といえよう。

(4)「点」から「面」へのグローバル化

今後、「日本とその他の国」という2項対立的な発想ではグローバル化は進まないであろう。

これまでは、ある国に進出する上で、どのような戦略を練り人を処遇するかという活動が中心であった。しかし、特定の国の市場に進出するために、他の国での活動が求められるケースもある。

あるヨーロッパ系の家庭用品メーカーは、かつて日本市場でディスカウントすることでシェアを伸ばしていたが、その真の狙いは「競合企業が日本市場に集中している間に、他のアジア諸国の市場を開拓すること」であった。グローバル戦略は1国で完結するものではない。国という「点」ではなくグローバルという「面」でビジネスは展開されるのである。実際に、日本の競合メーカーは国内市場対応に追われ、アジア諸国への進出が遅れたという見方もある。

日本の自動車メーカーでもA国で生産し、B国で販売するということが行われるが、この場合、進出国を点と捉えるのではなく、点と点を結び面でグローバル市場を考慮しなければならない。そのような戦略を実施するための人材をどのようにそろえるか、複雑な方程式を解く必要がある。

次回は、グローバル人材を育成するためのトータルシステムを解説します。

労政時報に掲載された内容をGLOBIS知見録の読者向けに再掲載したものです。

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