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履くだけで効果がある高機能シューズ。市場を席巻したメーカーの戦略とは

投稿日:2015/01/12更新日:2019/08/15

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金7、銀14、銅17、合計38個という日本の五輪史上最多のメダルを獲得したロンドンオリンピックも幕を閉じた。寝不足になりながらも日本選手団の応援をし、他の国の選手に負けないこの日本選手の強さとは何かに想いを巡らせた読者も多いことであろう。

2012年のオリンピックも女性の活躍をよく目にした。バレー、サッカー、卓球、バドミントン、競泳、そして3つの金メダルを獲得したレスリング。小原、伊調、吉田の金メダルを手にするまで顔色一つ変えずに戦う姿に、冷静さと「勝つ」ことにこだわり続ける精神的な強さを感じた。特にオリンピック3連覇を達成しても極度に興奮せずにはっきりとした口調でコメントする吉田には、王者になるものの威厳と風格があった。今回のオリンピックでも、多くのドラマがあったが、筆者は吉田の強さが強烈に印象に残っている。

そこで今回は、その「強さ」を企業に当てはめ、「企業の強さ(競争優位性)」とは何かについて考えたい。今回取り上げるのは、スポーツ用品メーカーのリーボックである。

アディダスの傘下に入ったリーボックの反攻

リーボックは1980年代に「フリースタイル」や「ステップリーボック」などのフィットネスシューズ、そしてバスケットシューズの「ザ・ポンプ」を市場に投入し、一世を風靡した。リーボックのフィットネスシューズは、'80年代のエアロビクスブームやアメリカ・ニューヨークなどのOLが通勤用にも着用したことをきっかけに幅広く認知され、売上を伸ばすこととなった。

しかしその後、リーボックの牙城であったバスケットシューズ、女性のフィットネスシューズでの分野にも、ナイキ、アディダスなどの競合他社が台頭し初め、リーボックは2006年にアディダスの傘下に入ることとなる。

その3年後の2009年。リーボックは「イージートーン」というトーニングシューズを発売。世界中で爆発的な売れ行きとなる。日本でも2010年3月より大々的にTVCMが流され、一時は品薄が騒がれたほど市場を席巻した。アメリカではイージートーン人気により、クリスマスシーズンにはシューズ販売トップ3にリーボックがランクインするほどであった(Reebok Annual Report 2010)。

先行するMBTと、どう戦うか

「トーニングシューズ」というのは、靴の裏に様々な工夫を施し、履いて歩くことで、体型の引き締めや姿勢の改善ができるといわれるシューズであり、その元祖はMBT (マサイ・ベアフット・テクノロジー)である。マサイ族の歩き方を観察し、学術的見地から製品開発をしたと謳うMBTは高付加価値のシューズとしてファンを増やしていた。

今回のトーニングシューズブームの火付け役となった「イージートーン」は、そのMBTのシューズの価格を大きく下回る価格で市場に投入された。さらに、MBTはその商品の特性ゆえに認定されたトレーナーの指導を受けて正規販売店で購入する必要があるが、「イージートーン」は、普通の靴屋で購入可能であった。またTVCMでは「バランスボールのテクノロジー」という言葉を使って、誰にとってもわかりやすく機能を訴求。価格・チャネル・製品特性とも手軽に購入できる仕組みにしたのが効を奏し、市場に受け入れられ、リーボックの売上拡大にも大きく貢献した。

●売上高        (単位:100万ユーロ)

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※Adidas Group HP financial_dataより

自社の強みに、競合はどう対応するか

「イージートーン」の発売に当たり、リーボックは、これまで築いたブランド認知に加え、流通チャネルやPR力といった自身の「強み」を発揮しているといえよう。リーボックはMBTと同じような売り方をするのではなく、多くの人々が手軽に購入できるようにしたことで市場を一気に広げている。矢野経済研究所のデータによると、国内におけるトーニングシューズのメーカー出荷数量ベースでは、'09年は67万足、'10年には193万足、'11年予測では351万足と急激な勢いを見せている(週刊「エコノミスト」 2011年11月15日号)。

この勢いに対し、マーケットの先駆者であったMBTはどのような反応をみせるだろうか。

自社の強みを考える際には、自社の本来の強みを事前に自覚しながら、競合の次の出方がどうなるのかを考えることが肝要なのである。つまり、競合が模倣をしてくるかどうかという視点が肝心である。

その点において、リーボックの「イージートーン」の打ち出し方は、MBTが模倣をするとしても模倣しにくいものであったことが読者にもおわかりいただけているであろう。

販売の仕方、販売網、価格、その商品のわかりやすさなどどれをとっても、模倣ができないわけではないが、模倣をするのに時間がかかる。たとえばトレーナーの指導なしで販売しても大丈夫か、その際トレーニングを受けたトレーナーに対してはどのように対応すべきか、そもそも正規販売店のみで販売をしてきたが一気にその販路を広げることができるのかなど、解決すべきポイントがある。この間に、「イージートーン」はさらに市場を拡大していくのである。ここに企業の強さの源がある。つまり、どれだけ競合と「差」をつけられるかということが「強み」の中に必要な要素となるのだ。

競合は1社だけではない。強さは瞬間風速だけではない

手軽に購入でき、手軽にフィットネス効果を味わえる「イージートーン」は、通勤などの隙間時間を有効活用して美脚・ヒップアップ効果を手に入れたいと思う心をつかんだ。時代のニーズに合わせて、エアロビクスからトーニングへと関わり方を柔軟に変更しつつ、フィットネスシューズというリーボックの強さの原点に戻ってきたように感じる。社会のニーズにマッチした「イージートーン」は様々な媒体にとり上げられ、「女性のフィットネス=トーニング=イージートーン」というイメージを植え付けることにいち早く成功した。

しかし、競合は、MBTだけではない。

先に示した市場の拡大は、リーボックだけの功績ではなく、その後、スケッチャーズ、プーマ、ニューバランスなどの市場参入も影響している。リーボックに続くメーカーは、採用しているテクノロジーにはそれぞれメーカーの特徴があるが、価格帯、販売方法などについてはリーボックと大きく変わらない。つまり、追随が始まっているのである。これがリーボックの「強さ」を脅かす存在になる可能性があることは想像に難くない。

「強さ」は瞬間風速的に吹けばよいのではなくて、いかに持続的に維持できるかが勝負である。さもなければ、泥沼の戦いに自ら入ることになる。したがって、リーボックにとっての勝負は、ここからだといえよう。

いかに「トーニング=イージートーン」の座を守れる施策をとり続けられるのか。そしてさらにその先に「フィットネス=リーボック」のブランドを打ち立てることができるのか。そこが競争優位が持続的になるか否かの分かれ道になる。パフォーマンスを追求するアディダスとの棲み分けをしながら、ZIGTECH 、REALFLEXなどのプロダクトとともにアクティブスポーツやカジュアルスポーツのブランドイメージをどのようにリーボックが構築していくのか今後注目したい。

大手航空会社は、なぜLCCを模倣できないか

さて、ここで競争優位性の構築で成功した有名な業界をご紹介しよう。日本でも今年就航が相次ぐローコストキャリア(LCC)業界である。

LCCのさきがけは、アメリカのサウスウェスト航空。それまで高かった航空運賃を下げ、低価格のチケットを販売し始めた。それにより、飛行機が身近な移動手段になり、飛行機移動の市場を拡大することに成功。低価格チケットを提供するために、機内サービスを有料化、空港使用料の安い郊外の中小空港を使用し、同一機種を一括購入し機体購入費も安くするなど様々な施策をとっている。

このサウスウェスト航空の成功に対して、大手の航空会社はどのような反応を示したか。

結論から言うと、大手航空会社がLCCスタイルの模倣に成功することはなかなかできなかった。たとえば、今までフルサービスを提供していたお客様を大事にするあまりサービスの有料化に簡単には踏み切れない。大空港をハブ空港として利用しメンテナンス施設も併設させている大手航空会社にとっては中小空港利用への変更も一苦労。さらに、様々な距離の路線ごとに適切な大きさの機体を要する大手航空会社が機種を1種類に揃えることなどできない。このような理由から大手航空会社のLCCスタイルへの変更には時間がかかった。

この「競合にまねされにくい仕組み」こそ、持続的な競争優位の構築には必要になる要素なのである。

読者が努める競争優位性とは何だろうか。構築するように日々活動を立案し、実施しているだろうか。構築し続けているかどうか一度確かめてほしい。

<今回のポイント>

◆自社の強み(競争優位)とは、与えられるものではなく自ら構築するものである

◆強みは、企業の特長ではなく、顧客にとって価値のあるものを提供することの中に作られる

◆優位性を構築する施策を策定する際には、競合が模倣しにくいものかどうかを常に考えておく必要がある

2012/8/21にNumberWebに掲載された内容をGLOBIS知見録の読者向けに再掲載したものです。

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