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その比較に意味はある? -不適切な比較対象

投稿日:2011/04/13更新日:2019/08/15

問題です

以下のAさんの問題は何か。

「今回の震災による事故を見ても、原発は確かに問題が多いエネルギーと言える。しかし、考えてもみてほしい。原発は危険だと言われているが、実際に数字を調べると、原発事故で亡くなった人は、人口当たりに換算すると、実は、自動車や飛行機事故で亡くなった人よりもはるかに低い比率だ。つまり、自動車や飛行機は原発よりもさらに危険なものということができる。我々は自動車や飛行機を受け入れているのだから、原発を受け入れることに何ら問題はないはずだ。それとも、原発に反対する人は、自動車や飛行機にも乗らないというのだろうか?」

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解答です

今回の落とし穴は、「不適切な比較対象」です。「不適切な比較対象」にはさまざまなバリエーションがありますが(たとえば、以前と測定方法が変わったにもかかわらず、そのまま比較してしまう、あるいは、定義の微妙に異なる数字同士を比較してしまうなど)、今回は特に、本来比較すること自体にあまり意味がない対象と比較することで、聞き手の判断を迷わせるケースを取り扱います。

今回のケースでは、一見すると、Aさんの言うことはもっともなように思えます。あまり考える時間がない場合などは、「ああ、そうなのか」と思わず納得してしまう人もいるかもしれません。

しかし、よくよく考えてみると、原発の危険性の比較対象として、自動車や飛行機を選ぶことが妥当と言えるでしょうか。確かに、「文明の利器」という意味での共通項はありますが、自動車や飛行機は乗り物であり、エネルギー源としては、決して原発を代替するものではありません。

本来、もし原発の費用対効果やリスクリターンについて議論するのであれば、他の代替エネルギー、たとえば火力発電や太陽光発電などと比較した上で、費用対効果、リスクリターンを議論しなくては意味がないのです。

自動車や飛行機との比較が出てくるのはその後です。たとえば、仮に原発の費用対効果、リスクリターンが意外に低く、他の代替エネルギーに置き換えるほうが良いといった結果が出たとしましょう。とは言え、現実的には、雇用等の問題もありますし、安定的な電力供給の責任もあるので、一気に原発を止めることは不可能です。

その時に、では、原発が文明の利器としてどのくらいのリスクがあり、それは許容しうるのか、という議論をするのであれば、自動車や飛行機との比較は十分に意味を持ってくるでしょう。あるいは、煙草やアルコールと比較することで、どの程度のリスクがあるのか、その絶対値の感覚を知ることにも、ある程度の意味は出てきます。

拙いのは、他の代替エネルギーとの比較なしに、いきなり自動車や飛行機、あるいは、煙草やアルコールとの比較を持ってくることです。要は議論が一つ飛んでしまっているのです。

もっとも、現実には、あるエネルギー技術の費用対効果、リスクリターンを見極めるのは容易ではありません。なぜなら、原発事故のような事故は、あまりに頻度が低く不確実性が高いため、説得力のある定量化が難しいからです。たとえば、たとえ過去にチェルノブイリ以上の事故がなかったからと言って、本当にこれから先もそうであるかはわかりません。極端な話、テロリストが9.11のときのような破壊工作を行うと、今回の福島第一原発以上の事故が起きないとも限りません。そのリスクをどう見極めるかは、非常に難しい問題なのです。

また、他のエネルギー技術の費用対効果、リスクリターンの評価も簡単ではありません。たとえば、火力発電であればCO2の排出効果をどのように将来の費用に置き換えるのかは簡単な計算ではありません。また、太陽光エネルギーについては、技術進化によって、どの程度コストダウンが進むのかを推定しなくてはなりませんが、それも決して簡単ではありません。

そうした難しさはありますが、まずはしっかり比較すべきものから順に比較を行うことで、感情論に流されない合理的な意思決定をしたいものです。

注)本コラムはあくまで思考力強化のための題材として書いたものであり、著者のエネルギー政策に関する私見を反映させたものではありません。

  • 嶋田 毅

    グロービス経営大学院 教員/グロービス 出版局長

    東京大学理学部卒、同大学院理学系研究科修士課程修了。戦略系コンサルティングファーム、外資系メーカーを経てグロービスに入社。累計150万部を超えるベストセラー「グロービスMBAシリーズ」の著者、プロデューサーも務める。著書に『グロービスMBAビジネス・ライティング』『グロービスMBAキーワード 図解 基本ビジネス思考法45』『グロービスMBAキーワード 図解 基本フレームワーク50』『ビジネス仮説力の磨き方』(以上ダイヤモンド社)、『MBA 100の基本』(東洋経済新報社)、『[実況]ロジカルシンキング教室』『[実況』アカウンティング教室』『競争優位としての経営理念』(以上PHP研究所)、『ロジカルシンキングの落とし穴』『バイアス』『KSFとは』(以上グロービス電子出版)、共著書に『グロービスMBAマネジメント・ブック』『グロービスMBAマネジメント・ブックⅡ』『MBA定量分析と意思決定』『グロービスMBAビジネスプラン』『ストーリーで学ぶマーケティング戦略の基本』(以上ダイヤモンド社)など。その他にも多数の単著、共著書、共訳書がある。
    グロービス経営大学院や企業研修において経営戦略、マーケティング、事業革新、管理会計、自社課題(アクションラーニング)などの講師を務める。グロービスのナレッジライブラリ「GLOBIS知見録」に定期的にコラムを連載するとともに、さまざまなテーマで講演なども行っている。

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