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品ぞろえの豊富さは良いか?悪いか?

投稿日:2015/09/15更新日:2019/04/09

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今回は店舗の「品ぞろえ」について考えてみましょう。品ぞろえは充実していた方が良いに決まってるだろう!と思ったあなた。少し深掘ってみましょうか。

顧客の立場からすると、店舗の品ぞろえが豊富な店の方が良さそうに思えるのではないでしょうか。例えばアパレル店は、様々なスタイルのアイテムを扱っていて、しかもサイズという問題があります。特にボトムズについては、どれだけデザインが気に入ったとしても、ウェストのサイズが1インチ(約2.5cm)合わないと、その商品を買いたくても買えません。筆者もたまにジーンズなどを買いに行きますが、なぜか自分のサイズだけが品切れしていたりすることもあり、そういう時は「ついてない!」という気分になってしまいます。靴も同様で、気にいったデザインの靴があっても、自分に合うサイズがないということが起こりがちです。

仮に、似たような業態の同じ程度の広さの店舗が2店あったとすると、顧客の立場からすれば、気にいった商品を見つけられる可能性の高い、品ぞろえの良い店に行きたくなるでしょう。顧客のニーズに応えるのはマーケティングの基本でもあります。

では顧客のあらゆる要求に応えられる品ぞろえをしておけば、商売繁盛に繋がるのでしょうか。実際のビジネスでは、そうとは限りません。

第1に、品ぞろえの豊富さは顧客に対する提供価値の1つではありますが、顧客はそれだけを求めているわけではありません。「欲しくなるような商品そのものがそこにある」ということも重要な価値なのです。例えばセブン-イレブンは、アイテム数そのものは他のコンビニと劇的に差があるわけではありません。それにもかかわらず、日商では他のコンビニを数十%上回ります。この差は、POSの有効活用による死に筋商品の排除や、弁当や総菜に代表されるPBの開発能力、そしてスピーディな品ぞろえの変更に負う部分が大です。品ぞろえだけを豊富にすればいいというわけではないのです。

第2に、ある品を棚に並べると、他の品を引っ込めざるを得なくなります。ある程度はレイアウトの工夫で対応できますが、面積あたりにおけるアイテム数には限界があります。つまり、ある品を棚に置くことは、別の商品を売る機会を奪うことになるのです。「面積当たりの売上げ」が重要な小売ビジネスでは、この観点は重要です。品ぞろえの豊富さだけを気にしてしまうと、本来もっと売れるはずの商品の販売機会を奪うことにもつながりかねないのです。これを機会費用の考え方といます。何かを選ぶと、別の何かをする機会が奪われてしまいます。その機会との比較が重要です。

なお、バックヤードに在庫を置いておけば、こうした販売機会ロスを避けられるのではという考え方もあるでしょう。しかし、在庫を増やすことは、ファイナンス的には運転資本(ワーキングキャピタル)が増すことになります。資本調達コストはタダではありませんから、その分、コストがかかることになります。貸し倉庫などを利用しなくても、在庫を増やすだけでコストが発生するという点は重要です。

アイテム数が増えると管理コストが増すという点も重要です。昨今はITの進化によって在庫管理のためのコストは以前に比べればずいぶん下がりました。それでも現場では販売のためのセールストークが必要な場面があったりするので、アイテム数が増えると大変です。売り手はどこに何があったか覚えておかなければいけませんし、商品の特徴をちゃんと頭に入れておかなければなりません。そうした教育コストはばかになりません。もしこの部分をさぼると、接客レベルが低下し、顧客満足度が下がり、リピート率が下がってしまう可能性もあるのです。

このように品ぞろえを増やすことには、メリット以上にデメリットの側面も存在しています。それでも多くの小売店は、気がついたら品揃えを増やし、より多くの顧客ニーズに応えようとしてしまうものです。多くの顧客を取り込みたいがゆえの小売店の「性(さが)」と言えるのかもしれません。こうした性向を理解した上で、マーケティング面、オペレーション面、ファイナンス面などを勘案し、最適な品ぞろえを模索しなくてはならないのです。

ちなみに、品ぞろえをあえて劇的に絞ることで成長を遂げた企業に、ユニクロを展開するファーストリテイリングがあります。最近でこそユニクロも品ぞろえを増やす傾向がありますが、SPA(Speciality store retailer of Private label Apparel、製造小売)を取り入れて急拡大した90年代後半は、「ユニセックス、ノンエイジ、ベーシックカジュアル」をスローガンに、徹底的に品ぞろえを絞り込みました。トップスについては、S、M、L、LLの4つのサイズしか置かないということにもこだわりました。それでも日本人の90%以上はカバーできるという割り切りです。これは、気がついたら品ぞろえが増えてしまいがちな小売業界では画期的な発想でした。ユニクロはそれによって規模の経済性を実現し、あっという間にアパレルNo. 1企業となったのです。

皆さんも、何か買い物の機会があれば、ぜひその店舗の品ぞろえをビジネスの観点から採点してみてください。

なお、今回はリアル店舗を前提に議論しましたが、Amazonのようにリアル店舗とは違う小売ビジネスを創造し成功した企業も存在します。ある常識がどういう条件下で成り立つのかについても意識することが大切です。

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