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高い視座から全体像を捉えていますか? ―『世界はシステムで動く』

投稿日:2015/05/30更新日:2019/04/09

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日本でもベストセラーとなった『世界がもし100人の村だったら』の原案となったコラム「村の現状報告」の執筆者でもあり、システム思考(システムズ・シンキング)の第一人者でもあるドネラ・H・メドウズの『世界はシステムで動く――いま起きていることの本質をつかむ考え方』を紹介する。最初の草稿が書かれたのはすでに20年以上前で当初は仲間内だけで読まれていたとのことだが、2008年にアメリカで書籍化され、今年2015年にようやく日本でも翻訳版が出された。今でも本質をついた考察に満ち溢れた1冊だ。

システム思考については、グロービスMBA用語集では以下のように説明している。

「独立した事象に目を奪われずに、各要素間の相互依存性、相互関連性に着目し、全体像とその動きをとらえる思考方法。(中略)例えば、米ソ冷戦においては『アメリカが軍備増強』すると、『脅威が増すため、ソ連も軍備増強』し、さらに『脅威が増して、アメリカも軍備増強』するという状況だった。それぞれの立場では合理的かもしれないが、システム全体でみると合理的ではない。このような、いたちごっこを食い止めるためにも、高い視点に基づいて全体像を捉えるシステム思考が求められる」

日本ではシステム思考と言えば、ピーター・センゲが『学習する組織』(原題:The Fifth Discipline)で紹介した5つの要素の筆頭として認識されている方も多いだろう。実は今回紹介するメドウズとセンゲはMITの同僚であり、盟友、親友でもあった。MITがシステム思考の梁山泊となったのも頷ける話である(厳密にはシステム思考にもいくつかの流派はあるがここでは割愛する)。

さて、システムは、一国の経済や政治を説明することもできるし、生態系や個々の生物個体をこれで説明することもできる。システム思考の急所は、ちょっとした構造の違いがシステムの動きに大きな影響を与え、そしてそれが人々を驚かせたり困惑させたりするということだ。たとえば、あるレベルまでであれば魚を効果的に獲る装置を改良することに問題はないが、行きすぎると生態系を破壊することになってしまう。これは実際に魚を獲っている人間からは見えない風景、事象であり、かなりの洞察を必要とする。多くのシステムでは、要素間の影響が非線形(単純な比例関係ではない関係)であることも話をややこしくしている。

優秀な人々が必ずしも根源的な問題点を探り当てることができないというのも面白い現象だ。かつて、メキシコから米国に不法に脱出する移民が絶えない時代があった。当局では、これに対し、監視強化で対応しようとした。当時の大統領は、本質は米国とメキシコの経済格差にあり、それが解消しない限り監視強化は意味がないと喝破したが、議会はその声を無視し、米国は相変わらず不法な移民の問題に悩むことになった。

では、一般のビジネスパーソンはこの思考法をどのように使いこなせばいいのだろうか? そのヒントが書かれているのは本書の主に後半である。本書は7章構成になっているが、実は最もエキサイティングと私が感じたのは6章「レバレッジ・ポイント システムの中で介入すべき場所」と7章「システムの世界に生きる」、そして翻訳者の小田氏の解説である。誤解を恐れずに言えば、5章までは準備運動で、メインは6章と7章、そして解説で触れられている問題解決への活用法である(メドウズの愛弟子アラン・アトキンス氏作成の、実務での応用の仕方が、小田氏の解説付きで「初級レベル」「中級レベル」「上級レベル」とレベルごとにまとめられている)。人によっては前半、少しばかり退屈に感じられる個所があるかもしれないが、そこは我慢して読み進め、後半に期待してほしい。

私が個人的にも好きな6章では、システムのどこをいじることが最も有効かを解説しており、システム思考を学ぶ人々のバイブルにもなっている。ここで取り上げられている12の要素のうち、最も重要でないのが数字(補助金、税金、基準などの定数やパラメータ)というのは意外かもしれない。重要ではないものから重要なものの順にカウントダウンしていくと以下のようになる。

12 数字
11 バッファー
10 ストックとフローの構造
9 時間的遅れ
8 バランス型フィードバックループ
7 自己強化型フィードバックループ
6 情報の流れ
5 ルール
4 自己組織化
3 目標
2 パラダイム

最後の最も重要なものはここには書かないので、本書で確認してほしい。上記で注目されるのは、「目標」が3位と上位に入っていることだ。目標の正しい設定こそが、枝葉末節のHOW論よりもはるかに大事というのは直感的にも頷けるだろう。そして2位の「パラダイム」。ものの見方を変えることが問題の本質に迫る近道なのだ。

システム思考は簡単ではなく、ややとっつきにくいテーマではあるが、解説や付録が親切なので、ぜひそれも参考に読み通していただきたい。

『世界はシステムで動く』
ドネラ・H・メドウズ著、小田理一郎翻訳
1,900円(税込2,052円)

 

  • 嶋田 毅

    グロービス経営大学院 教員/グロービス 出版局長

    東京大学理学部卒、同大学院理学系研究科修士課程修了。戦略系コンサルティングファーム、外資系メーカーを経てグロービスに入社。累計150万部を超えるベストセラー「グロービスMBAシリーズ」の著者、プロデューサーも務める。著書に『グロービスMBAビジネス・ライティング』『グロービスMBAキーワード 図解 基本ビジネス思考法45』『グロービスMBAキーワード 図解 基本フレームワーク50』『ビジネス仮説力の磨き方』(以上ダイヤモンド社)、『MBA 100の基本』(東洋経済新報社)、『[実況]ロジカルシンキング教室』『[実況』アカウンティング教室』『競争優位としての経営理念』(以上PHP研究所)、『ロジカルシンキングの落とし穴』『バイアス』『KSFとは』(以上グロービス電子出版)、共著書に『グロービスMBAマネジメント・ブック』『グロービスMBAマネジメント・ブックⅡ』『MBA定量分析と意思決定』『グロービスMBAビジネスプラン』『ストーリーで学ぶマーケティング戦略の基本』(以上ダイヤモンド社)など。その他にも多数の単著、共著書、共訳書がある。
    グロービス経営大学院や企業研修において経営戦略、マーケティング、事業革新、管理会計、自社課題(アクションラーニング)などの講師を務める。グロービスのナレッジライブラリ「GLOBIS知見録」に定期的にコラムを連載するとともに、さまざまなテーマで講演なども行っている。

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