投資家による「エンゲージメント(対話)」が企業に変革を促す 企業事例アセットマネジメントOne

前回は、気候変動などに影響を及ぼす企業からの投資撤退であるダイベストメントについて、既に日本企業も対象となっていることや投資手法としての課題について述べた。企業にとって機関投資家の投資撤退はインパクトも大きいが、一方で投資家にとって投資家としての権利も手放すことになり、当該企業に対して影響力を及ぼすことができなくなるデメリットもある。本稿では、対話を通じて企業経営に変革を促す、エンゲージメントについて取り上げたい。

責任ある機関投資家の原則「スチュワードシップ・コード」

エンゲージメントは、日本語では約束や契約などと訳されるが、機関投資家によるエンゲージメントという際には、投資先企業に対して行う「建設的な目的をもった対話」のことを指す。エンゲージメントは、投資家が短期的なリターンの追求ではなく、中長期的な視点から経営の変革に働きかけることで、当該企業の持続的な成長と企業価値向上を促すことを目的とするものである。エンゲージメントの手段としては、経営者との直接的な対話や株主提案、株主総会での議決権行使を含む場合もある。このようにエンゲージメントは、モノを言う投資家の役割であるといえる。

スチュワードシップ・コードは、対話を通じて企業の持続的成長を促すために「責任ある機関投資家」としてのガイダンスを規定したもので、企業と投資家によるコーポレート・ガバナンスへの取り組みが不十分であったことがリーマンショックを引き起こしたとの反省から、2010年にイギリスで策定された。これを模範として2014年に金融庁が策定・公表した日本版スチュワードシップ・コードは、その後2017年に改訂され、さらに2020年に再改訂版が発表されている。同コードでは、機関投資家がESG要素を含むサステナビリティの考慮に基づいて、企業とエンゲージメントを行い、企業の持続的な成長を促すことにより、中長期的な投資リターンの拡大を図る責任が明記されている。

参考:「責任ある機関投資家」の諸原則≪日本版スチュワードシップ・コード≫|スチュワードシップ・コードに関する有識者検討会

アセットマネジメントOneのエンゲージメントプロセス

国内大手の資産運用会社であり、GPIFの運用委託先でもあるアセットマネジメントOneは、スチュワードシップ活動に積極的に取り組む企業の一つである。昨年12月に投資先企業の温室効果ガス排出量が2050年までに実質ゼロになることを目指して立ち上げられたネットゼロ・アセットマネジャーズ・イニシアチブ(NZAM:Net Zero Asset Managers initiative)にも国内の資産運用会社として唯一、参画しており、気候変動問題に対しても強いコミットメントを示している。

参考:温室効果ガス排出量ネット・ゼロに向けてコミットメントを表明|アセットマネジメントOneウェブサイト

同社は、中長期的な企業価値向上と市場全体の底上げを目指して、エンゲージメント活動を実施しており、2018年度は620社に対してエンゲージメントを実施した。エンゲージメントの構成比を見ると、ガバナンスが27.5%と最も大きく、環境・社会と合わせると約58%がESGに関する内容であった。


出所:アセットマネジメントOneウェブサイト

アセットマネジメントOneのエンゲージメント活動において特徴的なことは、独自にESG課題を細分化していること、そしてマイルストーンを設定し、段階的なモニタリングを実施していることである。課題の細分化においては19の課題を設定しているが、取締役会・企業統治や気候変動、人権など従来のESG課題に加え、地方創生や地域社会、製品責任、生物多様性など、社会的な要請に基づいた課題が設定されている。

さらに、エンゲージメントの成果を適切に管理するまで、ESG課題の提示から、投資先における課題認識、具体策の実行から効果測定まで8つの段階でマイルストーンが設定されている。エンゲージメントでは、投資家の意見を聴取するのみで、それが経営に反映される保証がないため、実効性を問題視する意見もあるが、同社はきめ細かなフォローアップ体制を構築しており、実効性を強く意識したアプローチであるといえるだろう。

エンゲージメントは、企業の長期的な価値創造をテーマとして企業と対話する手法であるため、経営者が外部の声に耳を傾け、経営の変革に取り組む姿勢を持っているなど、対話の実施が効果を発揮する状況が整っていることが大前提である。本稿では取り上げていないが、企業が健全な経営を行うための行動規範としては、金融庁と東京証券取引所が策定するコーポレートガバナンス・コードが存在する。コーポレートガバナンス・コードとスチュワードシップ・コードが両輪として機能し、企業のサステナビリティへの取り組みを前進させていくことを期待したい。

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