ESG投資市場でのリスクー脱炭素社会へ向けて実施される「ダイベストメント(投資撤退)」

前回は、拡大するESG投資市場について説明したが、ESG投資の普及は企業のサステナビリティへの取り組みを後押しする一方、企業にとっては、取組みが遅れたり表面的な取組みだけに留まったりすれば、市場や競合から取り残されるリスクともなり得る。日本におけるESG投資の拡大は、GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)のようにユニバーサルオーナーといわれる大規模な機関投資家の影響が大きかったが、本稿では、投資家の行動変容からESGの潮流を捉えたい。

日本企業も直面する投資撤退のリスク

企業のESG情報を投資に反映させる手法にはいくつかあるが、その一つが、倫理的・道義的に問題のある企業を投資対象から除外するネガティブ・スクリーニングである。これは、倫理投資/責任投資(RI)の時代から主流であった手法だが、当初は、アルコールやたばこ、ギャンブルを扱う企業や武器製造に関わる企業を投資対象から排除するものであった。

近年では、気候変動問題への関心の高まりや脱炭素社会への移行といった世界の潮流から、特に石炭や石油などの化石燃料を扱う企業にまでネガティブ・スクリーニングの対象が広がっている。こうした企業の株式や債券を手放すことで、投資している金融資産を引き揚げること(ダイベストメント)が欧米を中心に行われており、日本企業もこうした事態に直面している。

約30基の石炭火力発電所の新規増設計画が進行中である日本において、新増設計画に関与する電気事業者は、海外の機関投資家のダイベストメント対象になっている。例えば、世界最大級の政府系ファンドであるノルウェー政府年金基金(GPFG)は、2004年に倫理ガイドラインを策定し、それに基づいた投資を実施しているが、日本においても複数の電力会社に対して既にダイベストメントを行ったことが明らかとなっている。

参考:石炭火力発電から撤退する世界の動きと日本|インフォパック

気候変動問題に取り組む国際的なNGOである350.orgによれば、化石燃料ダイベストメント運動へのコミットメントを表明している機関投資家の運用資産総額は、2019年9月の時点で 11兆米ドル(約1,185兆円)を突破しており、今後、化石燃料からの脱却が本格的に行われなければ、これからも多くの企業が対象となっていくだろう

参考:$11T and counting: new goals for a fossil-free world

大手商社は脱石炭に向けて動き始めている

こうした海外機関投資家の動向を踏まえ、国内の大手商社も既に具体的な決定と施策を打ち出している。丸紅は、2018年に石炭火力発電事業及び再生可能エネルギー発電事業に関する取組み方針として、脱石炭火力発電へのプロセス策定、新規石炭火力発電事業への取組み、再生可能エネルギー発電事業への積極的な取組みの三点を決定した。2019年10月には、石炭火力発電事業3案件からの撤退およびその進捗状況を公開している。

三井物産は、2030年までに発電事業において再生可能エネルギーの比率を30%に引き上げることを目標としている(2019年時点で15%)。2018年7月には、石炭事業のうち、一般炭について新規資産の積み増しを行わない方針を公表、2018年12月には気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)に賛同を発表し、オーストラリアで保有する燃料炭の鉱山権益の売却を決定した。

このような大手商社の動きに、国内のNGOも目を光らせている。三菱商事は、ESGデータブック2018にて、新規の石炭火力発電の開発を行わない方針を表明したものの、同方針については「既に当社として開発に着手した案件を除く」ものであったことから、NGOからは方針として不十分であるとの共同声明も出された。一方、2019年12月には、オランダの再生可能エネルギーに定評のある電力会社であるエネコの買収に向け、優先交渉権を獲得するなどの動きも見られる。

ダイベストメント対象拡大の可能性と課題

2020年10月には菅首相が所信表明演説において、2050年までの脱炭素社会を実現することを宣言したこともあり、石炭火力発電事業を行う企業からのダイベストメントも引き続き避けられない選択肢となるだろう。今後、日本における投資撤退の対象は電力事業会社に限らず、自動車産業や航空産業、鉄鋼業などに広がっていく可能性も考えられる。一方で、ダイベストメントは投資対象を狭めることにも繋がるため、受託者責任の観点から、投資リターンへのネガティブな影響を問題視する声もある。また、一部の機関投資家が投資を引き揚げたとしても別の投資家によって新たな投資が行わることで、事業が存続し、結果として投資撤退した意味を為さなくなる、などの問題も考えられる。次回はESG投資の手法として主流になりつつある投資家による企業との目的を持った対話、エンゲージメントについて取り上げる。

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