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島忠をめぐる買収合戦と株式市場の評価―ニトリとDCM

投稿日:2020/11/18

約1.9倍の株価になった島忠株

島忠をめぐるニトリホールディングス(ニトリ)とDCMホールディングス(DCM)の買収合戦は、ニトリによる高値での買収で決着がつきました。株式市場はこのTOB 合戦をどの様に評価していたのか、株式市場における3社の株価の推移を見ながら考えていくことにします。

DCMは10月2日に島忠との経営統合への合意を取り付け株式の公開買い付けを発表しました。これは島忠の経営陣からの同意を取り付けたいわゆる友好的な買収となります。経営統合の噂が出る前の島忠の株価は2900円程度でしたが、9月18日にNHKが「DCMが島忠に対して公開買い付けを行い、傘下に収める方向で調整を進めている」と報道したことから、島忠の株価は翌営業日の9月23日には3380円に急騰しました(上昇率は17.4%)。10月2日にDCMが正式に株式公開買い付け(TOB)を発表(買い付け価格は4200円)すると島忠の株価は4190円に上昇しました(上昇率は19.0%)。

その後、10月20日にニトリが島忠に対するTOBを検討しているとの報道があり、島忠の株価は10月21日に4805円に上昇しました(上昇率は14.5%)。10月29日、ニトリが島忠に対する株式公開買い付けを正式に発表(買い付け価格は5500円)すると、翌日、島忠の株価は5530円に上昇しました(上昇率は9.3%)。島忠の株価は1カ月半の間に、約2900円から5530円と1.9倍となったのです。

その後島忠はDCMにニトリを上回るTOB 価格を提示するか確認しましたが、具体的な金額の提示がないことから11月10日には大勢が決着し、ニトリは島忠の経営陣の同意を取り付け11月13日に島忠を完全子会社化すると発表しました。一方の島忠の岡社長は「ニトリから提示された価格はびっくりした。島忠を長期的に成長させるにはニトリとの統合が最善と確信している」とコメントし、高値がニトリのTOBを受け入れる決め手であったとしています。

ニトリ株は下落、高価格買収とシナジー期待薄

DCMの株価は、NHKのTOB報道で9月23日には1525円と13.2%上昇しました。更に、10月2日に正式にTOBが発表されると、島忠とDCMの両社とも株価が上がりました。9月18日からの累計では、島忠とDCM両社の時価総額は、それぞれ559億円、264億円増加し、合計すると823億円増加したことになります。これは、株式市場としては両社が統合されることで800億円を上回るシナジーが得られると評価したことになります。また、4200円というTOB価格であれば、島忠そしてDCM両社の株主ともシナジーを享受できるリーズナブルな買収であると評価したことを意味しています。

しかしながら、その後ニトリが島忠のTOBに参入するようだとの報道が10月20日にあり、島忠の株価は4805円に上昇しました。株式市場はニトリが4800円以上の高値をオファーするのではないかと予想したようです。この報道にDCMの株価は1318円まで下落しましたが、これは、TOBを断念せざるを得ないのではないかとの観測からTOBの噂が出る前の株価水準に戻ったことを意味します。

一方、ニトリの株価も22415円から21010円へと6%下落、時価総額はなんと1608億円も減少しました。10月29日にニトリが正式にTOB(TOB株価は5500円)を発表しても、ニトリの株価はあまり変動していないことから見て、株式市場はニトリが5500円近辺でTOBを考えているかもしれないと危惧したのではないでしょうか。

10月29日にニトリが正式に島忠のTOB(TOB株価は5500円)を発表すると、島忠の株価は5530円まで上昇し、その後はTOB価格である5500円前後で推移しました。一方、ニトリの株価に大きな変化はありませんでしたが、その後11月に入りTOB合戦が実質的にニトリの勝利で終わりそうとの観測から、島忠の株価はTOB価格の5500円に収束、一方ニトリの株価は高値でのTOBが現実的になったことから、さらに下落し11月10には20960円まで下落しました。

5500円のTOB価格は、島忠の株主にとってみれば実質的に1080億円の価値の増加をもたらします。一方、ニトリの時価総額は実質的に1914億円もの減少。ネットでは834億円のマイナスであり、市場はTOB価格そしてニトリと島忠の統合効果にはきわめて懐疑的なようです。また、ニトリの時価総額の減少幅がかなり大きいことから、株式市場はこれまでのニトリの株価は割高であったと評価したのかもしれません。また、DCMも実質的に189億円の時価総額を失っており、今回のTOB失敗の影響を株式市場は懸念しているようです。

  • 斎藤 忠久

    グロービス経営大学院 特別教授

    東京外国語大学英米語学科(国際関係専修)卒業
    米国シカゴ大学経済学部留学
    フランス・リヨン大学経済学部留学
    米国シカゴ大学経営学大学院修士課程修了(High Honors)
    学位:MBA

    株式会社富士銀行(現在の株式会社みずほフィナンシャルグループ)を経て、株式会社富士ナショナルシティ・コンサルティング(現在のみずほ総合研究所株式会社)に出向、マーケティングおよび戦略コンサルティングに従事。その後、ナカミチ株式会社にて経営企画、海外営業、営業業務、経理・財務等々の幅広い業務分野を担当、取締役経理部長兼経営企画室長を経て米国持ち株子会社にて副社長兼CFOを歴任。その後、米国通信系のベンチャー企業であるパケットビデオ社で国際財務担当上級副社長として日本法人の設立・立上、日本法人の代表取締役社長を務めた後、エンターテインメント系コンテンツのベンチャー企業である株式会社アットマークの専務取締役、株式会社エムティーアイ(東証1部上場)取締役兼執行役員専務(CFO)を経て、現在グロービス経営大学院特別教授(ファイナンス理論)。

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