単発の外注ではなく、チームの一員としてフリーランスを活用する動きが広がっている。ランサーズ株式会社はフリーランス・タレントプラットフォーム運営しているが、クライアントとフリーランスをマッチングさせるだけでなく、自社でも積極的にフリーランスを活用して成果をあげているという。19年末に社内でフリーランス15人のチームを立ち上げたクライアントマーケティング部 武田伸一朗氏に、フリーランスの力を最大限に引き出すコツをうかがった。(取材・文=村上敬)
―貴社はクライアントとフリーランスをマッチングさせるサービスを運営されています。社内でも業務にフリーランスを活用することがあるのでしょうか。
武田 多いですよ。いまランサーズ社内で仕事をしている人は約1000人いますが、
―8割がフリーランスは多いですね。
武田 以前勤めていた人材派遣会社でも、多くのアルバイトや派遣のスタッフと仕事をしていました。ただ、ランサーズは接し方がまったく違います。ランサーズでは社員とフリーランスが対等で、地位的なところも区別がありません。たとえばIR資料作成や顧客情報の管理など、機密性が高くて普通は社員にしか触らせない業務もランサーさんが担っていたりします。本当に社員もフリーランスも差がないのだと驚きました。
―立ち上げ当初の武田さんのチームは、武田さん以外全員フリーランスと聞いています。どんな業務を担当するチームでしょうか。
武田 インサイドセールスとカスタマーサクセスを担うチームです。私たちのもとには、電話やメール、WEB広告、イベントなど、さまざまなチャネルを通じてお客様からの問い合わせが届きます。それらのリード案件に対して最適なサービスをご提案し、差配するのがインサイドセールスです。お客様にとっては、インサイドセールスが弊社の最初の窓口。第一印象が全体の印象を左右するので、とても大切な仕事です。
また、一度使っていただいた後も、お客様にはぜひ継続してご利用いただきたい。そのためにはカスタマーサクセスも重要です。そこで昨年12月に、インサイドセールスの機能を引き継いで、新たにカスタマーサクセスの機能を加えたチームを立ち上げました。私はそのチームの責任者です。
短期間の立ち上げでは、最初からスキルを持った人材が必要
―なぜ武田さん以外、全員フリーランスなのでしょうか。
武田 もともとインサイドセールスは社員3人、フリーランスの方3人のチームでやっていました。ただ、社員はそれぞれ他の業務と兼任だったので、新たにチームを立ち上げるにあたり、私が一人で専任でマネジメントすることになりました。
メンバーについては、派遣や人材紹介も検討しました。しかし、コスト面で難しかった。他に直雇用という選択肢もありましたが、立ち上げのスピードを考えると無理でした。実は新チームの検討を始めた翌々月にはキャンペーンが予定されていて、それまでに15名のプロ集団をつくる必要がありました。スキルを持った人たちを1カ月で直雇用するのは、ほぼ無理です。短期間にスキルを持った人を集めるなら、やはりランサーさんに頼ったほうが早いと判断しました。
―実際、すぐに立ち上げができたのでしょうか。
武田 弊社サービスの有料オプションも使って募集をしました。「サポートとセールス両方の経験がある方」と高いハードルを設定したので不安でしたが、60名弱の方から提案がありました。そこからビデオ面談で私たちのカルチャーにフィットするかどうかを見て、15名を選びました。
オンボーディングの研修では、私たちが提供する複数のサービスについて、それぞれの特性を理解してもらうことに時間を割きました。逆にトークやメールの書き方など、セールスやサポートの基本は、みなさんもともと身に着けているため特に研修は行いませんでした。
おそらくそこが社員チームとの違いでしょう。社員は自社のサービスをよく理解していますが、全員がセールスやサポートのスキルがあるわけではありません。社内異動等で賄おうとしても、スキルを1カ月で身に着けるのは困難。社員中心にチームを立ち上げていたら、きっとキャンペーンには間に合わなかったはずです。準備は大変でしたが、セールスやサポート経験豊富なフリーランスの皆さんにご参加いただいたおかげで、スケジュール通り立ち上げできました。
―稼働は今年2月からでした。手ごたえはいかがですか。
武田 最初の1カ月は「こういう場合はどうすればいいか」というメンバーからのエスカレーションに対応するのに精一杯でした。しかし、2カ月目からはエスカレーションの数は大幅に減りました。驚いたことに、サポート業務につきものの顧客対応クレームも極端に少なかった。みなさん本当にプロなんだなと。
定量的にも成果は出ています。リード案件を各事業部に渡した数は、以前の3倍に。登録後に依頼に至る依頼転換率がアップしましたし、成約単価も10~20%上がっています。
「チーム・ランサーズ」の文化がモチベーションを高める
―なぜフリーランス中心のチームで成果を出せるのでしょうか。マネジメントで意識していることがあれば教えてください。
武田 メンバーは日本全国に散らばっていて、コロナの前からフルリモートです。1カ所に集まることはないので、コミュニケーションには気を遣っています。具体的には、定期的に1on1やチーム定例ミーティングをしたり、チャットにメンバー同士で雑談を楽しめる専用の部屋を作ったりしています。このあたりは直雇用もフリーランスも同じ。フリーランスだからと、特別なことはしていません。強いて挙げるなら、契約形態が業務委託(準委任)なので、契約外のことは頼まない、残業指示をしない等の法的な部分は気をつけているくらいです。
―一般に、フリーランスはジョブ型だと言われます。雑談など、業務に直接関係のないことはしたくない人も多いのでは?
武田 短期やスポットの仕事では、必要最低限のコミュニケーションで仕事したいというフリーランスの方は多いと思います。ですが、私たちのチームは週5のフルタイムで仕事をする方が多く、より密なコミュニケーションがあったほうが仕事しやすいと思います。また、メンバーは時間報酬で、1on1のミーティングは雑談でもきちんと報酬が出る時間に行います。
もちろん業務外のコミュニケーションは強制ではありません。それでもメンバー自身がコミュニケーションに積極的で、自主的に商品知識についての勉強会をしたり、リモート飲み会もやっています。みなさん、非常に意識が高いですよ。
―モチベーションが高いフリーランスが多いのですね。
武田 話を聞いていると、自宅で自分のスキルを活かせることに喜びを感じている方が多いですね。一方、ノルマ等は設定していないですが、それでも成果が出なければ継続が難しくなるというフリーランス特有の厳しさをもともと理解している方が多いので、その点もいい意味でプレッシャーに繋がっているのかもしれません。
もう一つ、ランサーズの文化もモチベーションにつながっていると思います。最初にお話ししたとおり、うちは社員とランサーさんの区別がなくて、「チーム・ランサーズ」なんです。たとえば以前は社員のみが対象だった社内の四半期に一度の表彰制度は、この夏からランサーさんも表彰対象になりました。日々の業務でも、そうした社風を感じてもらっているのかもしれません。
―最後に今後の課題や展望を教えてください。
武田 モチベーションともかかわるのですが、今後はランサーさんのキャリアアッププランを用意していきたいですね。継続的にやってもらうなら、同じことを繰り返すより、キャリアが変化したほうがやる気が出ると思うので。
具体的には、マネジメント側に入ってきてもらったり、ランサーズの他部署に関心があれば異動してもらったり。アイデア段階ですが、短期間でフリーランスのチームを立ち上げた経験を活かして、クライアントがチームを立ち上げるときにマネジメントのポジションで入ってもらうのも面白いですね。いずれにしても、ランサーさんに「一緒に働きたい」と思ってもらえる環境をさらに整えていきます。