企業買収における毒薬って何?

ポイズンピル

「企業買収における毒薬」というと物騒な感じがしますが、買収防衛策の1つであるポイズンピルを日本語に訳したものです。ポイズンピルとは、既存株主にあらかじめ「買収者のみが行使できない」ストックオプションを付与しておき、敵対的買収が起こった場合、買収者以外の株主がストックオプションを行使することにより買収者の持株比率を低下させ、支配権を獲得するために必要な買収コストを増加させることで買収を困難にさせる買収防衛策です。ポイズンピルは、買収者に対して文字通り毒薬を盛る効果があります。米国における代表的な買収防衛策の1つであり、ライツプランとも呼ばれます。

買収防衛策には大きく「予防型」と「対抗型」があり、ポイズンピルは予防型の買収防衛策に位置付けられます。なお、以前当コラムで紹介したクラウンジュエルは、対抗型の買収防衛策に該当します(参照:M&Aにおける焦土作戦って何?)。

日本では、会社法上などの規制により米国のポイズンピルと同じ仕組みは取れないため、同様の効果をもたらす対抗措置を日本版にアレンジした日本版ポイズンピルとして活用されています。日本版ポイズンピルには、「事前警告型」と「信託型」がありますが、コストの点等から「事前警告型」が採用されることが多いと思われます。

詳細については割愛しますが、日本版ポイズンピル(事前警告型)の導入には株主総会での決議が必要になります。また、実際にポイズンビルを発動する際にも、株主総会の決議が必要となる場合があります。

ポイズンピルの目的でありメリットは、敵対的買収から会社を防衛することです。しかし、ポイズンピルの発動により大規模な新株発行が行われると、株価の低下や株主の議決権比率の低下など株式の希薄化というデメリットが生じます。ポイズンピルの導入や発動について厳格な手続きが必要になるのは、株主の価値が棄損されるおそれがあるためです。

ポイズンピルは、敵対的買収から会社を防衛するメリットと同時に、株主価値を棄損するデメリットも強いる、まさにもろ刃の剣と言えます。そのため、本場米国においてもポイズンピルが発動された例は少ないです。ポイズンピルが予防型の買収防衛策に位置付けられるのは、抜かずの刀を称してのことでもあります。我が国においては、ライブドアのニッポン放送買収のケースのように、株主からの同意を得られず新株発行の差し止め請求に発展した事例があります。

そもそもポイズンピルが正当化されるのは、敵対的買収により企業価値が棄損されることを回避するためです。買収者の目的が、グリーンメーラーのように短期的な会社の売買によって利ザヤを稼ぐことであれば該当しますが、事業上のシナジー効果の創出を目的とした買収であれば、株主にとってはむしろ企業価値が高まる機会となり得ます。つまり、安易にポイズンピルのような買収防衛策を導入することは、経営者の保身となり、かえって企業価値を棄損させる弊害となります。

買収防衛策の導入について外国人投資家を中心とした批判が高まる中、金融証券取引法の改正により企業買収が難化した影響もあり、リーマンショック後の2009年には570社程度が導入していた買収防衛策ですが、2020年6月時点では310社程度まで減少しています。一方で、リーマンショック後のように、業績が悪化し株価が低迷すると企業買収が増加する傾向が見られます。最近では、新型コロナウイルスの影響を受けて、中堅企業などで買収防衛策を導入する例が見られるとも報じられています。

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