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スキマなし。マクドナルドのプロモーション戦略

投稿日:2009/07/03更新日:2024/10/18

昼下がりの風景

不景気でファストフードが活況だ。マクドナルドはとりわけ快走中である。その店内を昼下がりにのぞいてみると、100円メニュー、120円メニューを組み合わせて食べたり、テイクアウトしているランチ価格抑制派の姿がずいぶんと目に付く。この人々が、マクドナルドの快進撃の一翼を担っているのは間違いない。

しかし、低価格ランチ客のみではダメなのだ。もっと幅広い客層を確保し、さらに、その客がたまにではなく頻繁にきてくれるようでなくては。なぜなら、この顧客層は何もしなくても来店してくれる代わりに、客単価が低い層だから。

かつてマクドナルドは価格破壊によって「デフレ時代の勝ち組」と言われたが、その後ブランドイメージの低下と収益性の悪化で長く苦しんだ。その経験から、低単価・低収益メニューと高単価・高収益メニューのバランスを取る、マージンミックスに最も慎重になっているのだ。

マックでDS

そんなターゲットの一つが親子連れだ。2009年6月19日に、「マックでDS」キャンペーンが始まった。マクドナルドへニンテンドーDSを持って行くと、人気ゲームキャラクターのダウンロードやスタンプラリーなど様々なサービスが無料で受けられるのだ。

継続的なプロモーションではあるが、7月17日までの第一弾の目玉は、DSのポケモンソフトを持参すれば、オリジナルキャラクターである、幻のポケモン「ジラーチ」の配信が受けられるというもの。ポケモンにはまっている子供にとっては垂涎の的だろう。

さらにスタンプラリーの設計が面白い。同社のニュースリリースによれば、Wiiウェアの新作ソフト『乱戦!ポケモンスクランブル』に登場する「ポケモンのおもちゃ」を、コレクションラリー画面で8匹集めると「チーズバーガー」、16匹集めると「ビッグマック」のクーポンをプレゼントします、という。

来店ごとにポケモンがたまるのだが、1店舗あたり1日1回しか利用できないため、マックを“はしご”する子供たちまで出てきそうだ。

DSやポケモンにはまっている子供を持つ世帯は多い。たぶん大変な騒ぎだろう。「ジラーチもらいに行こう!」「またマクドに行って、キャラクターをもらおう!」と来店頻度が高まったこと、必定ではないだろうか。

お昼ご飯を作るのがちょっと面倒なお母さんは子供に促され「まぁ、しかたないわね」と。お父さんも一緒の時は、手軽で安価なレジャーとして「じゃぁ行こうか」と子供の利害とも一致する。家族2人〜3人という高頻度の来店客確保ができるわけだ。

もう一つ並行して始まった「日本バラ色計画」がまた、よく出来ている。

日本バラ色計画

ニュースリリースによると、“バラ色でいくぜ”という「BIGMOUTH!」を掲げ「クォーターパウンダー」を食べて、不況で暗くなっているニッポンを明るく幸せな“バラ色”に塗り替えていこうという計画だという。

まぁ、平たくいえば、「クォーターパウンダーを食べましょう」と言っているだけなのだが、その持って回ったやり方が出色なのだ。

まずはキャンペーンオープニングイベントで、10〜20代女子に大きな影響力を持つ人気モデルの益若つばさとタレントの桃華絵里が登場。「バラ色缶バッチ」と「バラ色Tシャツ」を披露した。

「クォーターパウンダー・チーズ」バリューセットまたは「ダブルクォーターパウンダー・チーズ」バリューセットを購入すると、もれなくバラ色缶バッジがもらえ、スクラッチを削って当たりが出れば、バラ色Tシャツがもらえる。

さらに安室奈美恵を起用したCM・バラ色でいくぜ宣言「VS.」篇を展開。「ジブンに勝ちまくれ」「進化せよ」「ぜんぶ笑え」というメッセージ。そして、誰もいないライブ会場の静まり返ったステージ上で、二人の安室奈美恵さんが対峙。次の瞬間、強烈な頭突きを同時に繰り出したかと思うと、次々とド派手な必殺技を決め合い、最後は勝った方の安室さんがカメラに向かってキスをして立ち去る、というストーリー展開。超クールだ。

このバラ色キャンペーン、明らかに女子狙いだろう。高価格メニューであるクォーターパウンダーは、低価格メニューの利益率を補完するマージンミックスの要だ。しかし、メイン購買層は20代男性、サブが30〜40代の男性。確かに女子には手を出しにくいボリュームを感じさせる。そこでこの、バラ色だ。

「バラ色Tシャツ、って本当にこんなの着られるの?」と大人の男性から見ればちょっと躊躇しそうなデザインだが、そこは夏を迎えるこの季節。クォーターパウンダーにノリで手を出す若い女性、特に学生の心理を突いているといっていい。

部活に、夏フェス、海に山に、花火に祭りになんやかんや。そんな楽しい夏の日々に着用すれば仲間内でウケること間違いない。さらに、シャツが欲しくて、食べまくるほどに貰えるバッチ。かばんに無数についたピンクのバッチもまた、ウケる。「なにそれ。あんた食い過ぎだよ!」というコミュニケーションも設計されているように思える。

黙っていても食べてくれる男性層は置いておいて、クォーターパウンダーにハマッてくれそうな元気な女子のハートをつかむ戦略が「バラ色」なのではないか。無論、その女子につられて一緒に食べる男子の取り込みも狙っているのは間違いないが。

次はどう来る?

「マックでDS」を開始し、期間限定で「日本バラ色計画」を展開。これらのプロモーションには、「セグメンテーションのスキマを作らない」というマクドナルドの狙いが隠されている。そして、売上げ・利益を確保するには、客数を増し、客単価を上げ、来店頻度を高めることが基本の「き」であるが、マクドナルドのプロモーションでは、それがカッチリと整合性を持って、励行されているのである。

「マックでDS」の第1弾キャンペーンは7月17日まで。「日本バラ色計画」のバラ色Tのキャンペーンも7月16日まで。夏休み本番にはさらなるキャンペーンが用意されているのは想像に難くない。

手堅い支持層の低価格ランチ客とガッツリ食べたい男性客。それに、あしげく通ってくれる親子と、ノリでガッツリ食べてくれる女子を取り込んで、次はどこに行くのか。

夏休みに学生の利用は黙っていても増えるだろう。だとすれば、狙いは他の層。暑い夏場にちょっとあっさりヘルシーなメニューで、ガッツリ食べないお姉さん女子を狙うか、はたまた、暑さに負けるなと、ちょっと年齢の高い層に「土用のマクド」でも仕掛けるか……。

  • 金森 努

    グロービス経営大学院 教員

    東洋大学経営法学科卒。大手コールセンターに入社。本当の「顧客の生の声」に触れ、マーケティング・コミュニケーションの世界に魅了されてこの道四半世紀以上。コンサルティング事務所、広告を経て、2005年独立起業。 青山学院大学経済学部非常勤講師としてベンチャー・マーケティング論も担当。著書「図解 よくわかるこれからのマーケティング」(同文舘出版)「”いま”をつかむマーケティング」(アニモ出版)。共著書「CS経営のための電話活用術」(誠文堂新光社)「思考停止企業」(ダイヤモンド社)。監修「実例でわかる!差別化マーケティング成功の法則」(TAC出版)。雑誌への連載、講演多数。一貫してマーケティングにおける「顧客視点」の重要性を説く。

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