倒産は恥じゃない

新型コロナウイルス感染の拡大が止まりません。観光、運輸、宿泊、イベント、飲食をはじめ、ほぼ全ての産業に甚大な被害を及ぼしています。多くの企業から「2、3か月で資金が枯渇し、倒産する」という声が挙がり、政府は緊急金融支援の諸策を講じています。その中で、「売上がなくなって従業員に給料が払えなくなっても家賃や銀行返済を続けなければならないのだろうか?」と疑問に感じる事業者も多くいるでしょう。

そこで今回はその疑問に関連し、企業破綻における「会社更生法」「民事再生法」、米国の「チャプター11」の制度設計を考察します。

事業再生制度発展の背景

日本の倒産法はもともと、債権者(お金を貸した方)の取り立てを公正・スムーズに進めるための法制度として設計されていました。破綻に瀕した会社の救済においてはメインバンクを中心とする銀行が大きな役割を担っていました。対して米国のチャプター11(Chapter 11)という法制度は、大幅な債権カットと新たなスポンサーの資本投入を通じての事業再生(再生できる事業を継続させる)に力点がありました。

バブル崩壊後の「失われた10年」といわれた1990年代後半に不良債権が増加する中で、銀行は「貸し剝がし」と呼ばれる債権回収に走らざるを得なくなり、緊急事態における事業救済という以前の役割が果たせなくなりました。

その状況下の2000年4月に施行されたのが民事再生法です。米国のチャプター11に近く、(大企業向けの会社更生法より)使い勝手がよく、迅速に手続きが進められる新制度だと言われています。また2003年には政府出資ファンドの産業再生機構が設立され、カネボウやダイエーなどの事業再生に積極的な役割を果たしました。

今回のコロナ不況で大打撃を受けている日本航空(JAL)は、過去にも2002年のSARSや2008年のリーマンショックの影響で経営破綻しています。2010年に会社更生法を申請、大幅な銀行債権カットと企業再生支援機構の3,500億円出資を受け、稲盛会長のリーダーシップの下で事業再生を果たしました。

その後、中小企業円滑化法が制定され、銀行からの融資継続を受けやすい環境になり、法的手続きに入る企業数は減少しました。それでも、ゴルフ場や地方旅館、メガネスーパーやジーンズショップOSADA、食品スーパーのサニーTSUBAKIなどの小売業で、民事再生法適用事例が報じられています。

倒産は債務者保護のため?

米国では倒産は “filing for bankruptcy protection”とニュース報道されます。倒産が「プロテクテョン=保護」と呼ばれるのは、この制度が会社(債務者)を債権者の強引な取り立て行為から守り、事業に必要な取引の継続を促す仕組みを備えているためです。代表的なメカニズムとして「自動的停止」と「DIPファイナンス」が挙げられます。

1. 自動的停止
不思議な言葉ですが英語の “Automatic Stay”の直訳で、債権者が我先にと取り立てに殺到するのを一旦全部止めることを指します。倒産を申請し裁判所の手続きが開始すると、全ての債権回収が自動的に原則禁止されるのです。

会社が倒産しそうになると取引先が倉庫にトラックを乗り付けて在庫を取り返しに来たりオフィスに乗り込んでパソコンなどの金目のものを押収したりする、銀行が倒産しそうになると預金者という債権者が押し寄せて取り付け騒ぎになる、という光景を思い浮かべる人が多いでしょう。このパニック的行動により本来継続可能な事業まで行き詰まる本末転倒を防ぐ、これが自動的停止の目的です。

倒産申請は会社への死亡宣告ではなく、「皆さん冷静に、落ち着いて行動しましょう。早い者勝ちは認めません」というアナウンス効果とともに患者を救急医療室に搬送する手続き、となぞらえることができます。

2. DIPファイナンス
これまた難解な用語です。DIP(=Debtor In Possession、占有債務者)、つまり破綻に瀕した会社への緊急救済的融資を指します。倒産法制上、DIPファイナンスは倒産手続き開始前に発生していた他の債権より優先的に弁済されます。この仕組みにより、手続き開始後に提供される融資は比較的回収可能性の高い債権になるのです。

会社の資金繰り不安が高まると、これまでは翌月末決済で仕入れに応じてくれた取引先が現金決済を要求したり、銀行が追加融資に消極的になったりするのが通常です。こうなると会社の資金繰りはますます苦しくなって悪循環にはまり、再生の目処がたたなくなってしまいます。呼吸器や血液を提供してくれる人や業者は優先的に保護すべき、これがDIPファイナンスの制度設計です。

DESという債務再編策

倒産法制度とは異なりますが、事業再生において債務弁済負担を軽減する手法として、DES(デット・エクイティ・スワップ)すなわち負債(債務)と株式(資本)の交換、があります。返済義務のある負債を返済義務のない株式に転換することにより会社の当面の資金繰りを楽にし、その代わりに将来業績が改善して利益を産めるようになった暁には配当や売却キャピタルゲインが得られる、という取引です。

2010年のJAL会社更生においては、従業員はリストラされ銀行は大幅債権カットされましたが、その後業績がV字回復した結果、3,500億円を出資した企業再生支援機構の株式の価値は株式再上場により6,600億円に増加しました。

日本ではリスクテイクに慎重な金融機関が多くJALのケースを含めDESはあまり活用されていませんが、欧米では一般的な手法です。債務の返済猶予・減免を金融機関や家主が渋る場合に、提案してみる価値はあるかもしれません。

倒産は戦略的選択肢

日本において、倒産は恥と捉えられ、経営者は失敗者の烙印を押されて再起不能となるのが通常です。他方欧米では倒産は事業経営者にとっての「債権者との交渉における選択肢の1つ」とドライに割り切る一面があります。米国の航空会社は過去30年の間何回もチャプター11を申請しつつも、その多くは事業を続けています。

今回の新型コロナの影響で公演ができなくなったカナダのサーカス劇団シルク・ドゥ・ソレイユについて先日ロイター通信は「借金の返済をめぐり、破産申請の可能性も含めて債務再編の選択肢を模索している」と報じました。

「借りた金を返すのは当たり前」という社会規範の浸透は日本社会の誇るべき美徳ですが、家賃や借金返済ができずに経営者を自殺に追い込む風土は行き過ぎでしょう。

今回の新型コロナは多くの事業者を死にたい気分に追い込むかもしれません。銀行や賃貸物件の家主と粘り強く交渉し信頼関係をベースに支払い猶予に応じてもらうことが経営者としての最優先事項ですが、民事再生法などの法制度を理解し、倒産を恥と決めつけず活用する姿勢も事業経営者として大切です。

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