社内ベンチャーから「体験特化型」ふるさと納税サービスが生まれた理由【ROOTs/シュレスタ翔太氏】

前回までの連載では、札幌市をフィールドに地方創生に取り組むリーダーの想いを聞いた。共通するのは、当事者意識を持ち、当たり前のこととして地域の活性化に向き合う実務家の姿だった。今回からは一転、首都圏から地方創生に取り組むリーダーに焦点を当て、インタビューを実施。まず、株式会社ROOTs 代表取締役CEOのシュレスタ翔太氏に話を伺った。シュレスタ氏は、所属企業のグループ横断の社内ベンチャー制度で体験型返礼品に特化したふるさと納税サービスを提案、「さといこ」の運営をスタートさせたばかりだ。

地域にもヒト・カネの循環という風通しが必要

本田:早速ですが、なぜここまで地方創生にコミットしているのでしょうか。

シュレスタ:まず、僕は日本人の母とネパール人の父とのダブルです。2歳まで母親の地元である新潟県の小千谷市上片貝という地域で育ちました。今では限界集落と呼ばれる規模の村ですが、自分の原点であり、年に1回は行く大好きな場所です。祖母と叔父がいますが、跡継ぎがいません。「このままでは家がなくなってしまう」と考えた時に、「この家を残したい、村が少しでも長続きしてほしい」と思いました。そこから地域の持続可能性について調べ、自分の想いを地方創生に繋げられないかと思ったのがきっかけです。

地域という分野にはもともと興味がありました。新潟県中越地震がきっかけとなり、大学では建築を学び、建物と地域の関係性も考えていました。家は風を通さないと悪くなりますが、地域も同じだと思っています。ヒトやお金が出入りしないとあっという間に衰退していってしまう。「じゃあその2つを同時に入れ込む方法は?」と考えていた時に、社内ベンチャー制度を通じて、自分の想いも含めビジネスでカタチにしてみたいなと思いました。振り返るとすべて祖母の家がきっかけですね。

本田:社内ベンチャーに応募するに当たって、どんなことを考えましたか。

シュレスタ:入社当初からこのシステムは知っていて、ずっとやってみたいという気持ちはありました。ただ、日々の業務に追われ、結局6年間アイデアも考えずにいました。そこから一歩脱したいと思い、「とりあえず何か考えてみよう」と動いたのが昨年です。

広告会社の業務はとても幅広く、多岐にわたるクライアントのビジネスサポートをしながら様々な業界のことを知ることができます。それゆえに、「もっと深掘りしたい」「クライアントと自分の興味をあわせて何かしたい」という気持ちが自然と出てきます。当時の僕は、地域をテーマにしたビジネスを、どうにか「手段」にできないかと考えながら業務をしていました。

自分のインサイトを実現するビジネスモデルを考えた

本田:なぜ今のビジネスモデルを思いついたのでしょう。

シュレスタ:僕はとても自分勝手なので、自分のインサイトがアイデアのベースになりがちです。祖母の家を、あの地域をなくしたくない、あの場所が少しでも長く続いてほしいという想いが第一でした。一方で「お金はないけど色々な地域へ行ってみたい」というさらに身勝手な自分の願望を両立できるものを考えました(笑)。

浮かんだアイデアをサービスとビジネスにしていく過程では、人が動きやすくなる仕組みを考えつつ、日本中の知らない地域で色んな文化や体験をできるといいなと。そうした時に、税の控除がされるふるさと納税制度とリンクしてこのサービスを組み立てました。

本田:自分が本当にやりたいことを形にしたというのが面白いですね。

シュレスタ:本当に自分は無知で、「ビジネスモデルって何ですか?」くらいの人間だったので(笑)。図解されたビジネスモデルの本を読んだらものすごく面白くて、広告会社の仕事とは違う視点というか、少なくとも当時の僕にはそういう目線がなかったので、ハマりました。実際に事業が回っている様子と構造を想像しやすくなった気がします。そこから「自分のインサイトを実現できる仕組みづくり」と「地方創生のための経営資源探し」を起点に事業計画をスタートしました。

本田:経営資源はどうやって見つけたのですか

シュレスタ:大学時代の親友が突然解雇されて相当落ち込んでいたので、励ますために彼の地元へ一緒に行ったんです。千葉の九十九里浜の近くで、おいしい定食屋さんやサーフスポット、道の駅など色々連れて行ってくれて。初めての街を地元の人の紹介で回るのがすごく楽しかったし、紹介してくれている彼もまたとても楽しそうでした。

その時、「地元の人しか知らないゴールデンルートやオススメのスポット」って経営資源になり得るかもしれないと想いました。自分でモデル図を描いてみて、じゃあその人たちにお金が落ちるにはどうすればいいんだろうと考えました。誰かが買いやすい方法や買う理由はないかと思った時に、「仕組みとしてふるさと納税がある、じゃあこれで払えればいいんだ」みたいな感じで、ガチャガチャしていたらほぼ今のビジネスモデルになった、という具合です。

ビジネスモデルを知ると広告会社で働くのはもっと楽しい

本田:サラッとやってのけたようで、実は苦労があったのでは。

シュレスタ:この仕組みを思いついてからベンチャー制度の締め切りまで1〜2週間ぐらいしかなかったので、地域の制度と課題を集中的に勉強してエントリーしました。一次審査通過した後は3、4ヶ月かけて20以上の自治体にヒアリング調査を行いました。想定で作ったビジネスモデルを持っては自治体担当者に話し、このサービスの受容性やビジネスモデルとしての確度を上げる作業を積み重ねました。

通常業務と並行するのは大変だったのですが、応援してくれる人が社内にいたのが救いでした。また、取締役の小口がこのフェーズから参加してくれたのが大きいですね。とても1人ではできなかったと思います。

一方、並行するのは悪いことばかりでなく、クライアントの事業の仕組みを解像度高く、ビジネスモデル・儲け方として見ることができるようになったのは楽しかったです。このクライアントはここで儲けている、産地がここだから工場はここに置いて、これで運んで、ここで利幅を出すんだ…と学べる機会が広告会社の通常業務には実はたくさんあったことに気づきました。事業スケールのためにどこで工夫しているか、広告会社という立場だから見られたことは多いです。

僕みたいに「ビジネスモデルって何?」みたいな人は少ないとは思いますが、もしそういう人がいたらクライアントのビジネスモデル・稼ぎ方をきちんと理解すると日々の業務が随分と楽しくなると思います。

その人のルーツを盛り上げることで地域の持続可能性を創っていく

本田:コーポレートミッションに込めた想いを教えてください。

シュレスタ:会社名のROOTs(ルーツ)には原点、故郷、ふるさと、人の軌跡、自分の根っこ、という意味を込めました。僕のルーツが祖母の家であり小千谷市にあるように、地元や何となく旅行に行ってすごく好きになった場所、現地の人と話していいなと思った場所など、人にはそれぞれ“今の自分を形成したルーツ”があると思っています。そんな一人ひとりのルーツに関わるすべての人たちを支援したいと思い、「地域に根を張るすべての人を支援する」をコーポレートミッションにしました。

すべての人のルーツを盛り上げることで地域の持続可能性を創っていきたいと考えていますが、昨今、過疎化によってなくなっていく文化や生活がたくさんあります。水田・稲作や豪雪地の生活というライフスタイルも祖母の住む地域からひとがいなくなれば、日本からは確実に減っていく。その土地にある記憶や文化がなくなるのは非常にもったいないことです。

すべてに共通して言えることですが、新たに「立ち上げる」ということよりも、「維持・継続」する方が遥かにエネルギーが必要。地域に根ざすための知恵と工夫が詰まったライフスタイルや文化は次の世代にも知ってもらいたいですし、地域での経済活動を継続することを支援したいという想いが一番大きいです。

本田:ふるさと納税といえば、過剰な返礼品競争がニュースにもなりました。現行制度に対してどんな課題を感じていますか。

シュレスタ:法改正もありましたし、課題はたくさんあると思います。まさに今、ふるさと納税は過渡期。利用者も増え、ニーズも価値観も少しずつ変わってきています。そこに対応するために自治体の方も知恵を絞っています。本来の意図を踏まえて考えれば、この制度自体はとても画期的な素晴らしい制度だと思います。

そんな中で私たちROOTsは、地域の特産品などのモノが動くだけじゃなく、「ヒトが動くふるさと納税」を目指しています。既存への対抗軸ではなく、「これも1つの正解」と思ってもらえるサービスと文化を作りたいです。

本田:「さといこ」を通じて今のふるさと納税のカバーしきれてないような部分を補完していきたいということですね。

キーワードは「観光以上、移住未満」

本田:地域活性のために、観光を入り口にして交流人口を増やし、最終的には移住人口を増やすという流れがある中で、「さといこ」は観光と移住の中間を狙っているように見えます。

シュレスタ:ROOTsでは「観光以上、移住未満」をキーワードにしています。「都市部一極集中の是正」という最終ビジョンは世の中の取り組みと同じです。

一方で「観光以上、移住未満」は幅が広く、随分と曖昧な領域で、同時に非常に重要な領域と思っています。観光から移住を決意するまでの道のりは長く、時間もかかります。1つの街に行って、家を見てすぐに決まることではありません。そこで大事になるのが、現地で実際に生活をしている人たちの情報を正確に、肌で感じ、把握できることです。

これを実現するには、観光よりも現地の人と一緒に何かしてみるのが最も有効です。つまり現地での生活や生業の「地域体験」です。百聞は一見にしかず、Webでいくら調べるよりも、実際に現地でやってみると知れることは山程あります。いずれは自分のライフスタイルを決め、どこかに移り住んでみようと思う人を、密度が濃く、かつ費用負担の軽い「地域体験」の積み重ねでサポートしたいです。

本田:地方創生において外部の人が果たせる役割は。

シュレスタ:外の目をもって「ここが魅力的、これはそうではない」と正確に伝え、自らの良さがわからなくなっている地元の人に「自分たちの地域の良さ」を再認識してもらう。これが外者の役割と考えます。

今の私たちは地域体験が経営資源であり、同時にこれは地域の経営資源です。返礼品なので商品という言い方はよくないかもしれませんが、地元の方だけで商品を魅力的に発信するには限界があります。

また、何回か行くと「自分もそろそろ中の人」という気分になることがありますが、実際は移住しないと中の人にはなりきれません。勘違いはしないよう心がけています。常にニュートラルな視点で、全国の他の地域を知っているからこそ見えることがたくさんあると思うので、ROOTsはあくまで「外者だからこそできること」をどんどん探していきたいと思っています。

本田:例えば、一番のおススメは。

シュレスタ:天橋立がある京都の宮津市では、「手ぶらで行くと漁船に乗って漁師しか知らないスポットへ行って釣りができる体験」があります。漁師さんは漁船も漁自体も生活の一部で特別なことではないですが、漁船に乗ったことがない人の方が多いだろうし、初心者でもすごく釣れそうなイメージがあるから、1回やったら釣りが好きになると思います。実際、人気もあります。

本田:日常を切り取ったものが体験プランになっているんですね。それが観光以上、移住未満であると。観光だと特別感があるし、移住だと無機質。少しスパイスが加わったような日常の瞬間を切り取りたいのですね。

シュレスタ:そうですね。例であげた京都は観光も非常に盛んなエリアですが、そうじゃない場所では特に“地元の方とスキルや経験”を資源と捉え、魅力的な地域体験を作ろうとしています。観光地じゃなくても、人材と経験とアイデアでカバーすることは十分可能です。

仮説検証、軌道修正を早い速度で

本田:読売広告社時代にスキルもたくさん身につけられたと思うが、今の仕事の中で役に立っていると感じるものがあれば教えてください。

シュレスタ:入社から3年半、営業職をやりました。仮説を持ってどんどん顧客へぶつけに行くスタイルの人が多い部署でした。その後マーケティングの部署も経験しましたが、今回の立ち上げでは自治体にアタックして正しいビジネスモデルをあぶり出していく工程でその経験が非常に役に立ちました。いわゆるPDCAを速く回すことは、広告会社だからこそ学ぶことができたと思います。その時に大事なメンタルも十二分に鍛えられました。あとポジティブであることも。

本田:グロービスでも仮説を自分なりに作り、それを検証していくことが大事だと伝えています。

シュレスタ:アドバイザーの方がまさにこれを言っていて。「仮説を持って調査ヒアリング、顧客に当てて軌道修正・再考するっていうことグルグル回していくことが事業計画だよ」と。ここで答えを見つけて、その後に見えてきた事業を数値化して、時間と金額の観点で組み上げていくのが数値計画だと教わって、なるほどなと。

当然それまでに事業計画書も数値計画書も書いたことなどなかったので、どう書き出すのかもわかりませんでしたが、それでも自分なりに言語化、図式化してみることが大事で、その繰り返しで着実に進んでいきました。

仮設検証したものさらにグルグル回してみることで、「精度が高まっている」「ただのアイデアではなくなっている」と実感できました。現在の事業でも全く同じで、検証を繰り返す日々です。市場の流れを把握する事も含め、現場で顧客との対話から得られたことに間違いなかったと思います。

実現したいのは地域に飛び込むハードルを下げる仕組み

本田:これから地方創生に関わりたいと思っているビジネスパーソンに向けて、何かメッセージがあれば。

シュレスタ:大事な場所に足を運んでみてほしいです。日々仕事をしていると忘れがちですが、空気とか匂いとか、自分に流れるなにかを肌で感じてほしいです。ふと立ち返る原点にもなると思います。僕の場合は、自分の好きから生まれたアイデアだったので、そう思うのかもしれませんが、好きでい続けてほしい。

本田:「さといこ」を通じて実現していきたい地域と人との関係性は。

シュレスタ:僕は生まれてこのかた、ほぼずっと日本にいます。30年日本にいても知らないことがまだまだたくさんあります。見たこともない景色も、知らない生活の知恵も、見たことのないお祭りもたくさんあります。

やりたいことは2つあって、1つはそんなまだ知らない日本を「さといこ」を通じてまずは知ってもらうこと。「さといこ」では、“知る”から生まれた興味や関心を次の“行動”として実現しやすい仕組みを作っています。旅行やおでかけには“移動”と“お金”という2つのハードルがあるので、まずはこのサービスで“お金”のハードルをなくして、興味を持った地域にどんどん飛び込めるようにしていきたいです。

もう1つは、地域の方に自分たちの良さを改めて把握してもらいたいです。彼らのライフスタイルは日本の最も重要な文化そのものです。地域の一人ひとりが輝き、そこでの営みを継続するサポートをしたいです。

僕は地方創生に最適解はないと思っています。どの地域にも通じる万能ないい制度や仕組みはありません。地域ごとの課題が同じであることはなく、どこかの正解を別のどこかでも使う、というやり口が通用しないのが地方創生だからです。

ただ、このふるさと納税制度の中においては、1つの在り方として、間違ってはいなさそうな兆しが見えてきた気もしています。まずはそれを1つずつ確かめていきます。この事業を通して、本質的な日本の地方創生の一拍目を掴みたいです。

まとめ

自分のインサイトを実現するためにビジネスモデルを創り出したシュレスタ氏の話を聞き、起業家が持ちうるマインドについても考えさせられました。納税者が地域を訪れ、その地ならではの「体験」を共有した時、地域と人にどのような関係性が構築されるのか、そこに新しい価値があるように思います。税収の奪い合いとも指摘されるふるさと納税に対して、シュレスタ氏が体験特化型の返礼品サービスを通じてどのような一石を投じていくのか、今後も注目したいです。

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