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「良いコミュニティ」をつくる鍵は?ーコミュニティのススメ 第6回 

投稿日:2023/10/20更新日:2023/10/27

変化が激しい現代におけるコミュニティの活用方法を探る本連載。6回目の今回は、多くの人が「このコミュニティは良いコミュニティだな」と感じるのはどんなコミュニティなのか?そしてそんなコミュニティを立ち上げて運営していくには具体的に何をすれば良いのか、について見ていきます。

※本連載はグロービス経営大学院に在籍したメンバー(大島さやか、角田由希子、中村知純、清末太一)が、田久保善彦講師の指導の下で進めた研究プロジェクト「コミュニティの創設・維持・発展」について、その研究結果をまとめたものです。詳細を7回に分けて連載し、皆さんが既に体感していることを言葉にすることで、より良いコミュニティライフを送るきっかけになればと考えています。

「良いコミュニティ」に求められる基本要素

これまで所属してきた「いいな」と感じるコミュニティを思い浮かべてみてください。笑顔に溢れ、創意工夫があり、互いのコミュニケーションが密で、刺激的な雰囲気があり…などなど、さまざまなイメージがあると思います。

「良いコミュニティ」と感じる要素は何でしょうか?アンケート及びインタビュー調査の結果、重要な要素は次の3つ

  1. 様々な人と出会い、触れ合える場であること(多様性)
  2. 安心して自ら参画できる場であること(心理的安全性)
  3. 幅広い知識・スキルが習得できる場であること(自己成長)

にまとめることができました(図1)。

自分を受け入れてくれる安心感のある場で、多くの人とのつながりから、自己の成長につながる、そんなコミュニティが多くの人にとって「良いコミュニティ」と感じるようです。ただ、これを実現するのは簡単ではありません。なぜならば、心理的安全性と多様性は、「トレードオフの関係」になりやすいからです(図2)。

だから、この両立こそが、「良いコミュニティを創る鍵」と言っても過言ではありません。ここでいう心理的安全性は「組織や集団の中で、非難や拒絶の不安がなく発言できる環境」として定義づけて、これ以降の話を進めていきます。

【図1】 良いコミュニティの要素

研究チームによるアンケート調査結果より作図

【図2】 良いコミュニティとは

研究チームにより作図

コミュニティにおいて多様性を獲得するには

ではコミュニティにおいて「多様性」を獲得するということはどういうことでしょうか?

  • 多様な人を集めること
  • 多様な人を活かすこと

この2つを意識する必要があります。ただ闇雲に人を集めるだけでは、一部の仲良しグループで集まり、逆に多様性が失われてしまう現象が起きてしまいます(図3)。この状況になると、コミュニティ内に温度差が生じ、大量の「幽霊部員」発生につながります。だから、多様な人を集めるのと同時に、ひとりひとりが活躍できる「場」を提供することが、多様な人を「活かす」上で重要な要素になっていることがわかりました。

【図3】 賢い集団から無知な集団へ

引用:マシューサイド(2021)『多様性の科学』

コミュニティにおいて心理的安全性を獲得するには

次に、心理的安全性の高いコミュニティとはどんな状態のコミュニティを指すのでしょうか?一部分だけが盛り上がるコミュニティはそれ以外の居心地が悪くなるので、全体としての心理的安全性は下がります。参画してくれる多くの方に「居心地が良い」と感じてもらえるコミュニティこそが、心理的安全性を担保したコミュニティと言えるでしょう。ではどうすればその状態に近づけるのでしょう?

最もシンプルな考え方は「ザイオンス効果(図4)」です。「好感度を上げるには、ただ接触回数を上げればよい」という考え方であり、コミュニティに参加してくれたメンバーに対して、できるだけ多くの人たちと触れ合える機会をたくさん作ると良いことを示しています。参加のハードルをできる限り下げ、誰でも気軽に簡単に参加できる、そんな場を多く、継続的に提供していくことで互いの信頼関係が醸成されていきます。

【図4】 ザイオンス効果

Psychological Bulletin, 106(2), 265–289.より作図

こうして、多くの参加者に居心地がよいと感じてもらうことができれば、次に「参加者がやりたいことに挑戦できる場」を提供することで、参加者の自発性が生まれ、コミュニティの活性度が高まってきます。

つまり、コミュニティにおいて心理的安全性を確保するということとは、

  1. 参加者同士で気軽に話せる場がある
  2. 困ったときに助け合える場がある
  3. やりたいことに挑戦できる場がある
  4. 新しいこと・人を歓迎する場がある

この4つを兼ね備えることが大切であり、これが実現できれば、「多様な人を活かす」ことにもつながります。(図5)

【図5】コミュニティにおける心理的安全性の作り方

出典:石井遼介(2020)『心理的安全性のつくりかた 「心理的柔軟性」が困難を乗り越えるチームに変える』

コミュニティ規模と温度差の壁を超えろ!

コミュニティが小さいうちはうまくいっていても、コミュニティの拡大フェーズに入ると途端にうまくいかなくなることはありませんか?

図6はコミュニティ規模とアクティブ率(コミュニティイベントの50%以上に参加するメンバーの割合)の関係性を今回の研究で調査した結果です。やはり人数を増やせば増やすほど、アクティブ率が下がってくる、いわゆる「温度差の壁」現象が確認されました。

小規模であればコミュニティ創設者の想いが隅々まで行き渡るのですが、多様性を求めて規模を拡大するにつれて、どうしても想いが届かない方が出てきます。この「温度差の壁」を超えるためには、「創設者の想い」に共感してくれる「熱量の高いコアメンバー」の存在が必要不可欠になります。

【図6】コミュニティ規模とアクティブ率の関係性

熱量の高いコアメンバーが担う最大の役割は、様々なイベントにおけるリーダーシップ発揮です。そこで新しいメンバーを歓迎したり、既存のメンバーとのコミュニケーションの中心的役割を果たしたりすることで、コミュニティの風土醸成の一翼を担ってくれます。これらの積極的な活動により、熱量の低い、冷めた人も感化されて、アクティブ率が上昇します。そうすると、コミュニティ全体の熱量を高めることができ、その熱に引き寄せられて多様な人が集まってきます。ここで、心理的安全性を高く維持して、多様な人を活かすことができれば、コミュニティ全体の活性度が上がり、良いコミュニティになるのです。

この一連の流れは焚き火を大きくしていくプロセスに類似しています。(図7)初めは創設者の小さな火から。コアメンバーと共にその火を炎に変え、その暖かさ(心理的安全性)で多くの参加者(多様性)を呼び込むことで炎に薪をくべていく。薪は一定期間で燃え尽きますので、この新陳代謝を常に維持するためには、新しい参加者を呼び込む仕組みも重要になってきます。安定した暖かな炎を維持することが、コミュニティ運営の肝です。そんなイメージでコミュニティ運営を捉えてみてください。

【図7】良いコミュニティを作るための鍵は何か?

出典:マシューサイド(2021)『多様性の科学』、石井遼介(2020)『心理的安全性のつくりかた 「心理的柔軟性」が困難を乗り越えるチームに変える』、その他インタビュー結果より研究チームにて作図

20人程度の少人数コミュニティであれば、コアメンバーがリーダー1人でもうまく回ります。ですが、人数が増えれば熱量の高いコアメンバーの数ももっと必要になります。我々のインタビューでは、1000人規模でアクティブ率が極めて高いコミュニティでは、およそ50名のコアメンバーが常に稼働していました。そのコミュニティはどんどん新たなコアメンバーを募集し、多様性と新陳代謝を確保しています。

小規模コミュニティでは「リーダーの熱」が、大規模コミュニティでは「コアメンバーの総熱量」が「温度差の壁」を超えていく鍵となっています。

最終回の次回は、実際にコミュニティを立ち上げる際にどんなことに注意すればいいのか?そしてこれまでの7回の連載を通じて我々が皆さんにお伝えしたかったメッセージは何なのか?について触れていきます。

第7回につづく

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