変化が激しい現代におけるコミュニティの活用方法を探る本連載。第6回では、コミュニティづくりにおける要所は「心理的安全性」と「多様性」であり、それを維持拡大していくには「創設者の想い」と、それを伝播する「コアメンバー」の存在が必要であることを明らかにしました。最終回の第7回では、具体的にどうすれば、これらを実現できるのか、そのための活動のヒントを紹介していきます。
※本連載はグロービス経営大学院に在籍したメンバー(大島さやか、角田由希子、中村知純、清末太一)が、田久保善彦講師の指導の下で進めた研究プロジェクト「コミュニティの創設・維持・発展」について、その研究結果をまとめたものです。詳細を7回に分けて連載し、皆さんが既に体感していることを言葉にすることで、より良いコミュニティライフを送るきっかけになればと考えています。
コミュニティの立ち上げにおける3つのフェーズ
コミュニティを立ち上げるには、次の3つのフェーズがあります。
1stフェーズ :創設者の「想いの火」をコアメンバーに広げる
2ndフェーズ :想いを形(ビジョン)にする
3rdフェーズ :共感してくれる仲間を集めていく
インタビューやアンケート結果から、うまくいっているコミュニティは、そうでないコミュニティと比べて、それぞれのフェーズで違う特徴があることがわかりました。ここでは、うまくいっているコミュニティがやっていたことを紹介します。
1stフェーズ うまくいくコミュニティでは、コアメンバーが自然に集まる
コミュニティ創設は、創設者の「想いの火」がスタートになります。コミュニティの規模を広げていくにはこの想いの火を受け止めて、さらに拡大してくれるコアメンバーの存在が必要不可欠となります。ではコアメンバーはどのように集めれば良いのでしょうか?
アンケート調査結果に興味深い示唆があります。コミュニティ運営がうまくいっている群とうまくいっていない群で最も差が出たのは、「創設者自身がやりたいことを身近な仲間に相談しているうちにコアメンバーが自然に集まった」という部分でした。(図1)(この部分のみ統計的に有意差あり)
コミュニティ設立のために個別に声をかけたり、創設者以外が人を集めたりするより、創設者自らが、想いを周囲に打ち明ける中で、「自然発生的に」コアメンバーを増やしていくプロセスがとても重要だという示唆です。想いの火を大切に、ここは時間をかけてじっくり、炎へと変化させていくフェーズです。創設者が、想いを周囲に打ち明けることで、何をやりたいか、どんな状態を目指したいかも少しずつ明確になっていきます。
【図1】 コミュニティ創設時の人の集め方
2ndフェーズ :うまくいくコミュニティのビジョンは、みんなの共感を得ている
想いを周囲のコアメンバーと話している中で、そのコンセプトがある程度定まってきたら、それを言語化しビジョンとして掲げることで、コミュニティの方向性や特徴が決まってきます。
その際、うまくいっているコミュニティではどんな事に気を付けているのでしょうか?アンケート結果(図2)からは、「参加者の共感を得られるメッセージに言いかえた」という部分に最も大きな差がつきました(統計的に有意差あり)。
創設者の独りよがりではなく周囲と相談しながら、参加してくれる人の立場に立って共感してくれる言葉に言い換える事がうまくいく秘訣のようです。
また、「精緻に作るのではなく空白を意識する」という部分にも差がついています(統計的に有意差あり)。最初からルールを固めるのではなく、遊びの部分を残しておき、その空白部分をみんなで埋めていく、そんな意識が重要なのかもしれません。
【図2】
3rdフェーズ :うまくいくコミュニティでは、一気に人を増やさない
創設者の「想いの火」をコアメンバーに伝播させ、そしてその想いをビジョンとして掲げた後は、コミュニティへの参加者を増やしていくフェーズに入っていきます。創設直後は、うまくいっている群でもそうでない群も、身近な人から集めたコミュニティが多く存在していました(図3左)。ですが、インタビューで深く調査すると、うまくいっている群では「あえて」狭く集めているケースが多くありました。
ここからの示唆は、「最初から闇雲に集めすぎない」ということです。炎に薪をくべる際に、一気にくべると酸欠で炎が消えてしまうのと同じように、コミュニティも一気に広げる事で心理的安全性が担保されにくくなり、温度差の壁が生じる可能性が上がります。
創設期は、じっくりと人を集め、コアメンバーの熱量を高く保つ事ができれば、一定期間が過ぎてコミュニティが安定した頃に、SNS等を通じて一気にメンバーを募ることも可能になってきます。実際、うまくいっている群では創設してから一定期間が経過した「維持期」に、広く集めることができていました(図3右)。
そして、「ザイオンス効果(第6回 参照)」を狙って、新規加入メンバーの歓迎イベントや既存メンバーとの交流など、コミュニケーションの機会をできるだけ多く設けることで、集まって来てくれた人たちに、「この場所は安心できる」と感じてもらえるようにします。定期的に参加者の声を取り入れ、コミュニティを改善しながら、参加者自身が自由に使える「空白」を提供することで、参加者の自発的な行動を促し、コミュニティの活性化につながっていきます。こうして、コミュニティが無事立ち上がり、活性化したより大きなコミュニティとなっていきます。
【図3】
まとめ
第1〜7回の連載から、環境変化に対する漠然とした不安やあせりを、コミュニティとの出会いにより解消し、自己実現へとつなげていく道のりを体感いただけましたでしょうか?極めて変化の激しい現代だからこそ、ひとりではなく多くの人とのつながりの中から価値を生み出し、新たな成長への一歩を踏み出していただければと思います。
「狙いを定めて矢を射ても、届く頃には的が動く」、そんな激動のVUCA時代です。複雑性を増し続ける課題を解決するには、ひとりではなく多様な能力を持った人々で協力し、問題解決に挑むことが重要です。孤軍奮闘するのでなく、チームやコミュニティで互いに支援し、高めあい、大きな変化のプレッシャーをイノベーションの力へと変えることが、VUCAを生き抜くための鍵となるのではないでしょうか。多くの人とのつながりから価値を生み出し、新たな成長への一歩を踏み出していただければと思います。
【図4】 まとめ
本連載では、複数の人が相互に関係するコミュニティを研究してきましたが、突き詰めれば1対1のつながりが全ての起点です。「たった一つのつながりが人生を変える」そんなことも目の当たりにしてきました。運営者は多くの人を集めなければならない、という想いもあるかと思います。ですが、ひとりでも共感してくれて、そしてひとりでも信頼して参画してくれる人がいれば、それが「よいコミュニティづくり」の第一歩です。互いの想い・小さなつながりのひとつひとつを大切にし、そのネットワークの力で、これからの人生をより明るいものにしていただければと思います。