変化が激しい現代におけるコミュニティの活用方法を探る本連載。5回目となる今回は、「コミュニティに参加すると、なぜビジネスパーソンの成長につながるのか?」がテーマです。そして、その成長の仕組みを「自己成長のメカニズム」として実例を交えながら紹介します。
※本連載はグロービス経営大学院に在籍したメンバー(大島さやか、角田由希子、中村知純、清末太一)が、田久保善彦講師の指導の下で進めた研究プロジェクト「コミュニティの創設・維持・発展」について、その研究結果をまとめたものです。詳細を7回に分けて連載し、皆さんが既に体感していることを言葉にすることで、より良いコミュニティライフを送るきっかけになればと考えています。
漠然とした成長へのあせりが、新たな成長意欲の芽生えに変わる
ここまでの研究をまとめると、コミュニティに入る人は、「VUCA」と呼ばれる社会環境の中で、何かしら身に付けておいた方がいいのではないかという漠然とした成長へのあせりを実感している人です。最初は消極的にコミュニティに参加しますが、参加を通して、「自己理解」「つながり」「知識やスキル」といった恩恵を受け、徐々に姿勢が積極的に変わっていき、以前は存在しなかった新しい成長意欲が芽生えるという構造があることがわかりました。(図1)
【図1】コミュニティ参加による自己成長のメカニズム「自己成長モデル」
研究で得られたこれらの事実から、現代のビジネスパーソンにとって、コミュニティとは、自己成長を実現させ、次の具体的な目標に進んでいく動きを生み出す「仕組み」そのものである、と私たちは結論付けました。
コミュニティ参加により、次の目標に動き出した2名の例
ここでは、コミュニティへの参加を自分自身の成長に活かした2名の実例を、「自己成長モデル」にならってご紹介します。(図2・3)
Kさん(男性):社内の「新規事業」コミュニティをきっかけに起業へ
一人目はKさん(男性)、大手企業社員。Kさんはまず、社内の「新規事業」コミュニティに参加しました。 もともとKさんは管理部門の仕事をしていましたが、この活動を通じて、「自分は企画を立案することがこんなにも好きだったんだ」という気付きを得たそうです。
そこで今度は、テーマを広げ、社外において参加するコミュニティの数を増やすことを決め、その全てに積極的な姿勢で臨み、企画立案と実行の場を多く得ることになりました。様々な挑戦をしたことが奏功し、多くの人に存在を知られるようになりました。
その結果、コミュニティで知り合った友人が関わるスタートアップ企業への協力を求められ、本業とは別にいくつかの仕事を並行させる「複業ライフ」の実現に至りました。
現在は、自ら起業した会社の経営に加え、別会社でもCOOを務めるなど、いくつかの職場で異なる役割を並行させています。また、こうした「複業ライフ」の推奨をテーマとするコミュニティの主宰者でもあります。
Kさんの場合、一つのコミュニティへの参加がその後のキャリアや生き方の変化にまでつながっています。消極参加からはじまったコミュニティ参加で自分が気付いていなかった「得意」を知る「自己理解」を得たことで積極参加に変わり、それをきっかけに別のコミュニティにも参加を拡げた結果、得るものがどんどん大きくなり、自己成長を成し遂げ、結果として生き方まで変わったことが分かります。
【図2】コミュニティの活用事例 ①(Kさん)
実は、Kさんが社内コミュニティのメリットと意義を実感しつつも社外のコミュニティに興味を持ち始めたのは、活動を重ねる中でどうしても「似た思考のメンバーが多い」というのを感じ取ったから、という背景がありました。
そうしたこともあり、インタビューでKさんは、「コミュニティは自己実現の為の道具であり、その使い分けが大事だ」と語りました。「道具」という表現が、一瞬、刺激的にも感じられましたが、コミュニティが持つ仕組みを100%活用しきる貪欲さと熱量の高さを表した、Kさんならではの比喩なのだと理解できました。
さて、Kさんが述べた、コミュニティの「使い分け」を分かり易く実行し、自身の成長に上手につなげていたのが、二人目として紹介するMさん(女性)の例です。
Mさん(女性):コミュニティを使い分けて、自分を成長させる
Mさんは、「自分らしさの探求」というテーマに惹かれ、一つ目のコミュニティに参加しますが、そのコミュニティでは「知見を得る」という以上の参加姿勢は持たず、インプット専用の場として活用しています。
続いて、夫の転勤による海外移住をきっかけに、同じ境遇の女性同士で意見を交わすコミュニティにも参加し、ここでは勉強会の登壇者に挑戦するなど積極的な参加者となることを意識しながら、インプットに加えアウトプットの場を大切にする姿勢で臨んでいます。
これだけでも十分な活動だと思いますが、驚くことに、さらに「キャリアアップ」という課題について深めていきたいと考えたMさんは、働く女性のキャリア支援をテーマとするコミュニティに運営者の立場で参加。このコミュニティについては、多くの企画立案を行うアウトプット最優先の場と位置付け、自己成長に活かしています。
一つのコミュニティ内で自身の役割を中心へと向かわせるのではなく、複数のコミュニティでの「関わり方」を使い分けて自己成長を実現させているのが、Mさんの事例の面白さでもあります。
【図3】コミュニティの活用事例 ②(Mさん)
ご紹介したKさんやMさん以外にも、コミュニティ参加を通じて自己を成長させ、次の目標に向かっていった方はたくさんいます。
Yさん(女性)は、様々なコミュニティに参加することで「自分が従来から考えていたやりたい事を行動に移す為のヒントを得られた」ことや、「キャリアには敢えて関連付けず、情報交換と刺激を得る場として選んだコミュニティが逆に自身の成長に役立てられた」ことを挙げてくれました。
これらの気付きを具体的に自己に引き寄せた結果、それまで自分としては勝手に「大それたこと」だと思っていた「副業」について、「やってみよう」と考えられるようになり、チャレンジを始めているそうです。
Aさん(男性)は、「自分は真ん中になって引っ張るよりも、真ん中の人を横で支える立場である方が居心地が良いタイプ」という自己認識を持っていましたが、グロービス経営大学院内に設立された、自身が勤務する業界の課題を研究するコミュニティに参加する中で、リーダーとコアメンバーの「ものすごい熱量」に刺激を受けた結果、「人に刺激を受けることで自分は変わっていけるのではないか」という思いに至り、同コミュニティのコアメンバーに立候補した、という経験を伝えてくれました。
Nさん(男性)は、コミュニティの中で多く発言するのを心掛けることで、「自分のことを他者に伝えるポイントを習得できた」と教えてくれました。それを繰り返していると、思いもしなかった別のコミュニティから講演のオファーを得る機会も生まれたそうです。
また、参加しているコミュニティに「足りない部分」を感じ取り、それを満たすための新たなコミュニティの創設に至ったという、自己実現に辿りついた成長の物語も話してくれました。
次回は、「良いコミュニティ」とはどんなコミュニティなのか、「良い」とするにはどのような運営の工夫が必要なのか、という問いに迫ります。