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「インクルージョン力」が役員の指名・報酬を変える――第4回コーポレートガバナンス・サミットレポート 後編

投稿日:2023/08/15

コーン・フェリーの柴田氏とグロービス西による、コーポレートガバナンスの課題について考えるセミナー、コーポレートガバナンス・サミット。第4回となる今回は「日本企業における役員の指名・報酬の実態と課題」と題し、コーポレートガバナンス論で著名な東京都立大学の松田千恵子教授を迎え行われた。前編に引き続き、後編では3名によるディスカッションの内容をダイジェスト版で紹介する。(前編はこちら)(肩書は登壇当時)

多くの取締役会では経営戦略の議論が十分なされていない?

最初にテーマとして上がったのは、取締役会の課題である。本来議論すべき経営戦略の議論が、現状は多くの企業の取締役会であまりなされていないというのだ。その実、単なる中期経営計画の進捗確認をするのみで、戦略議論には取締役会の2割ほどの時間しか占めていないとも言われている。

要因はさまざまだ。メンバー構成の問題かもしれないし、取締役会の戦略を議論するという機能に、周囲から評価がなされていないという場合もあるだろう。

更に言えば、より前提となる部分に関しても、取締役会自体が整備されていないポイントがいくつか見受けられるようだ。

「付議基準」が決まっていない

その1つが「付議基準」である。取締役会に細かな内容まで議案として上がってくるため、意思決定に時間を要し、戦略の議論に時間が割けないという上場企業などが圧倒的に多い。今後、この基準の引き上げが重要になってくるだろう。

社外取締役が機能しない構造をつくってしまっている

もう1つが「社外取締役への過剰な配慮」である。例えば、新任の社外取締役が選任された際、自社の経営戦略を理解してもらうために、時間を使ってレクチャーしなければならない。しかし「社外取締役の方はお忙しいので、そんなに時間を使わせるのは申し訳ない」と、過剰に気を遣い、社外取締役に必要な情報を提供できず、機能しない構造を作り出している可能性がある。

社外取締役として経営に深くコミットしてもらうことは、当然の責務である。実際に、社外取締役の方本人に話を聞いても「膝詰めで経営戦略について議論したい」という意向を持っている方が多くを占める。このように役員の能力や取締役会のメンバー構成も重要だが、それ以前に運営の問題もあり、早急に解決する必要があるだろう。

報酬を決める前に「CEOの価値とは何か」。選解任の基準を議論し、明確にする

次にテーマになったのが、調査レポートでもいくつか問題として上がっていた「日本企業のCEOなどの報酬」についてである。

仮に欧米の企業をベンチマークにして設定された財務的なKPIだけを見て、生み出している利益や売上額を見るのであれば、日本企業のCEOの報酬水準は低いといえるかもしれない。ただし、やっている仕事の価値という観点を見てみると、そうとも言い切れないところがあるようだ。
こうした事態はなぜ発生しているのか。それは「CEOの価値とは何か」「CEOは何ができなかったら解任されるのか」といった観点について、日本ではまだ十分に議論されていないからだ。それが明確でない限り、報酬水準を上げてはいけないのではないか、という意見があるのである。

また「選解任基準」もある程度明示的にすることが必要だという提案がなされた。企業理念と直結した経営者の資質、つまりはこの企業の経営者なら、こういうことはぜひ守ってほしい、やってほしい、ということがきちんと明示されていることが大事ではないだろうか。

CEOの指名では「多くの情報」と「多面的な評価」が必要に

CEOの指名プロセスにおいても、自社の価値観をきちんと体現できるなど、明示的な評価基準が重要だ。今回はこの点についても議論が交わされ、意見があがった。

意思決定に資する客観的なデータを数多く集める

まず意思決定に資する客観的なデータを数多く集めること。いずれにしても1つの情報だけで全てを客観的に捉えることはできない。

コンサルタントから見た後継候補者の特性、株主や執行側から見た特性など、様々な観点の情報を、できる限り多く集めて、それをもとにみんなで判断することが必要である。そして指名委員会は、それを総合的に意思決定に繋げる場として機能する状況をつくることが最も大事だと言える。

多面的なデータを集める

加えて重要なのが『多面的な評価』と言える。社内だと上司、同僚、部下の評価、そしてもう1つは社外のステークホルダーの評価である。例えば顧客、役員を送り込んだ研修で一緒になった他社の人などの第三者評価を取り込んでいく必要がある。

外部人材が即戦力として活躍できるためには、インクルシブネスな組織力が求められる

ここまで役員を決定するにあたっての水準についてみてきた。ではそういった水準を満たす人材を役員とするには、どうすべきか。役員を機能としてみた時に重要度を増すのが「外部人材の招聘」である。
外からマネジメントポジションもしくは重要なポジションに人材を招き入れられるかどうかは、今後の企業の課題となってくることは、今回の調査レポートでも提起された点である。企業が外部人材の採用へ積極的に取り組む、もしくは今後取り組もうとしたときに、何に気をつけるべきだろうか。

高いパフォーマンスを出すためのインクルージョン力

登壇者が異口同音に提案したのが、組織における「インクルージョン力」である。

取締役はもちろん執行側の役員も外部から招聘して機能させるということは、日本企業のカルチャーにおいては非常にチャレンジングなことである。経営の作法さらには業務の作法まで各企業で違うなかで各役員を即機能させるのは、非常に高いハードルだからだ。
そのようなハイコンテクストな意思決定が求められる環境では、全く価値観の異なる役員が高いパフォーマンスを出せるだけのインクルシブネスな組織を持てるかが、非常に重要だ。これまでの日本の企業は、まだそのレベルは求められてなかったためできていなかったが、今後そこをどう乗り越えるかが大きな論点になるだろう。

人材に経営者としてのインクルージョン力を身に付けさせる

また「内部人材が経営者としてトレーニングされていない点も大きな課題である」という意見も挙げられた。

今のままだと、どうしても外部から人材が入ってくることに対して、『よそ者が来た』的な抵抗感があったりする。「外部人材の採用も考えたら、どうですか」と、提案しても、まるで外部から人が攻めてくるような捉え方をされてしまうことが企業によってはある。だが、前述のようにインクルシブネスな組織をつくる重要性が高まる中では、経営者としてD&I(ダイバーシティ&インクルージョン)の考え方を身に付けねばならないのだ。
やはり、トレーニングを通じた発想の転換が必要だろう。

人事などは経営層を見て動くところがあるので、トップが変わらなければ、全体の意識も変わらない。トップが言い、若い人も声を出す。そして外部の人が入ってきて、横から物を言う。このように、あらゆる人が意見を発信していくことが重要なようだ。

内部人材の成長スピードの遅れが課題感に。外部人材とは10年のギャップがある

また「内部人材の育成スピードの遅さに対しても懸念がある」といった声もあがった。

基本的に内部人材は、外部と同じスピード感を持つことができていない。外部人材と内部人材で競争原理が働いていないのである。
特に大企業になればなるほど、この傾向が顕著に表れる。外部人材だと30歳ぐらいからどんどん経営経験を積んでいるにも関わらず、大企業の内部人材であればスタートは40歳を超えてからだ。この10年のギャップは非常に大きい。

30代から選抜して人材を輩出していく。アサインメントをするだけでなく、しっかりと引き上げてファーストトラックを作っていく。それによって外部と競争できるような人が育っていく。

こうした動きを現実としていくためには、経営層の誰かが牽引していく必要がある。それでも現在求める人材がいなければ、外から取ってくる。外部人材の招聘とある意味横並びで、人を育成することを本気で考えないといけない時期にきている。

最後に

新たな役員の指名と報酬に取り組もうと考えている皆さんへメッセージをいただいた。

<柴田氏より>

「社外から人材を招聘する、特に役員クラスについては、ある種強引に進めていかない限りは、社内登用の力学は崩せません。モノカルチャーの日本企業で実行するのはなかなか難しい。欧州企業のベストプラクティスから学ぶのも1つの方法です。

例えば、この場は何を議論し、何を議論しないのかをしっかりと決めたり、どういう態度で臨むべきかを明確にしたりと今まで暗黙知でやってきたルールを明文化し、そのルールに則って集団運営をしていくという努力が必要だと思います。

私たちは同質性が高い組織で育ってきたので、そういう努力はこれまで必要ありませんでした。しかし、外部の力を取り込んで多様性を担保するなら、今後は避けて通れないと思います」

<松田氏より>

「私からは、3つのことをお伝えしたいと思います。

1つ目は、我が社のベストプラクティスを作るんだという意気込みで取り組んでほしいということです。自分たちの問題なので、自分たちなりの、ベストな改善を日々行ってほしいと思います。

2つ目は、チームとして考えるということです。経営チームを考えたときに、どういうフォーメーションが必要なのかという意識があるだけでも、大きく変わってくると思います。その中で特に意識してほしいのは、社外取締役もチームの一員だということです。個人ではなくて、チームとしてきちんと監督していかなければいけない。今後、そういうチームがつくれるかが肝になります。

3つ目は、やはりガバナンスがワークするのは、1つに「マネジメントの覚悟」、2つに「覚悟したマネジメントとその他の方々との信頼感」だと思います。それを醸成することを、トップ(役員)の仕事として、ぜひやっていただきたいと思います」

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