海外拠点の組織の現地化を進めるにあたり、欠かせない要素とはどのようなものでしょうか。そして、日本から海外へ出向して仕事をする駐在員に求められる姿勢とは。本稿では、現地トップをはじめとする駐在員に求められる組織や地域への向き合い方について、グロービスアジアキャンパス プレジデントの葛山智子が解説します。(全2回、後編)(前編はこちら)
現地化のカギとなる「Diversity & Inclusion」
組織の現地化を行っていく上で重要なことが、今や多くの企業が取り組んでいる「Diversity & Inclusion(D&I)」の実践です。D&Iの取り組みこそ、トップが向き合うべき現地化のカギといえるのではないでしょうか。
D&Iは、従業員の国籍を多様にするといったダイバーシティだけを進めても、組織力向上にはつながりません。むしろ、ダイバーシティが高いだけでは組織パフォーマンスは下がるといわれています。多様なバックグラウンドの方々が活躍できるよう積極的に働き掛けるインクルージョンの取り組みもあってこそ、組織への好影響が出るといわれているのです。
従い、性別や年齢など属性面の多様性(ダイバーシティ)を高める活動だけではなく、お互いを尊重しながら一緒に仕事を進めて成果を出す(インクルージョン)組織になってこそ、真の意味で組織の現地化がなされたといえます。
その成果を出すインクルージョンの営みの中には、
現地化を考える際、忘れてはならないもう1つの要素-駐在員の能力向上
現地化に向けた組織変革というと、前回ご紹介したような現地スタッフの育成だけが着目されがちですが、実は現地化成功にあたって重要な要素がもう1つあります。それは、日本から出向してくる駐在員の能力アップです。この「駐在員が海外で成功するためのビジネス能力開発」がおろそかになり、現地化推進が滞っていることも多いのですが、意外に見落とされがちな点でもあります。
駐在員の言動は、その役職に関係なく組織開発や組織文化に与える影響が大きくなります。ですが、その駐在員自身が実は海外のビジネス環境で結果を出す難しさを感じている。そしてそこにソリューションが打てずにいると、現地の組織開発に貢献しづらくなってしまいます。
駐在員の能力開発における課題は2つあります。1つは、駐在員の能力開発が日本本社に任せっきりになっていることです。日本本社の人事が海外で「活躍」する厳しさを把握することは難しく、本社で駐在員向けに予算を組んで行われる研修の多くは、駐在員として活躍するための研修内容というよりは、駐在員になることが目的になっていることも少なくないようです。
2つ目は、能力開発の内容です。日本で駐在前に行われる研修も、海外現地での駐在員向け研修も、その内容は「商習慣」や「キャリアに関する違い」「働き方の違いによるコミュニケーションの違い」などに重きが置かれ、「海外でビジネスの結果を出す」ための能力開発が行われていないケースがあります。
一般的に、海外で結果が出ないのは、日本で慣れ親しんだ延長線上で仕事をしてしまうことに起因します。「海外でビジネスの結果を出す」ために必要なのは、日本で成功してきたパターンを海外で盲目的に使わないことです。日本で行ってきた意思決定軸や、スピード、カバー範囲と職務をそのまま海外でも行ってしまうと、現地の市場や成長スピードにあった意思決定ができない。海外で問われるマルチなタスク・広範な業務に対応できなくなる。自分自身の役職で果たすべき役割も狭く考えがちになって貢献ができないなど、ビジネスの結果を出すことができないループに陥ります。
駐在員のリーダーシップ開発課題は、異文化やコミュニケーションの課題だけに閉じるべきではありません。海外の特殊環境において柔軟に意思決定し、広い視野と高い視座で行うビジネス能力の向上にも目を向けた開発が必要だと思います。
海外拠点は現地スタッフにとって「居心地のよい組織」になるのではなく、「エンゲージメントの高い組織になる」ことが重要です。そのために、日本から出向する駐在員は、異文化コミュニケーションを習得するだけではなく、「海外で結果を出すためのチーム運営ができる能力」を徹底的に上げ、エンゲージメントが高まった現地化推進に寄与していくことが重要になると思います。
東南アジアの地に貢献することこそ、駐在員の役割
「自国を離れ、他国で仕事をしている私たちは、この地にどのような貢献ができるのか?」--私自身がいつも考えていることの1つです。他国で働けるのは、政府から労働ビザを発給してもらっているからです。であれば、海外で働く我々は、自社の業務という限られた範囲で自分自身の役割を定義するのではなく、この地に貢献してこそ駐在員の役割を果たしていると考える必要があるのではないでしょうか。
地域への貢献のためにも、より多くの方々がこの地からリーダーとして活躍し、さらなる世界を創っていただく。たとえ自社を離れたとしても、その方々が自社で学んだスキルを活かして社会でさらなる活躍をしていただければ、これほどに嬉しいことはないと考えることもできます。
自社から素晴らしいリーダーが生まれ、自分自身もリーダーとしてのさらなる高みを目指し、リーダーがこの地でさらに活躍する。そういうよきエコシステムの創造を、この地で皆さんと一緒に加速させていきたいと思います。