日本は、日本で働く外国人にどのように映っているのか?――インド人高度人材の声を聴く#1

現在、多様な人々が国を超えて活躍の場を広げている。中でも特に注目されているのは、インド人の躍進であろう。Google、Microsoft、IBM、Twitter、Adobe、CHANELら世界的リーディングカンパニーの社長にインド人が就任している。

一方、日本に目を向けると、外国人が活躍する土壌が整っているとは言い難い。外国人就職率*1は37%に留まり(文部科学省2021)、及び高度人材*2における外国人比率は1%を切っている(e-Stat2019)。

 *1:日本国内の大学(学部・院)を卒業・修了した外国人留学生の、日本国内企業への就職率のこと。
 *2:我が国の産業にイノベーションをもたらすとともに、日本人との切磋琢磨を通じて専門的・技術的な労働市場の発展を促し、我が国労働市場の効率性を高めることが期待される人材のこと。(内閣府の定義による)

そこで、本エッセイは複数回に渡り、外国人、中でもインド人にフォーカスを合わせ多国な人々との協業によるイノベーションのヒントを探っていく。

※注:本エッセイは高度人材として日本企業で働くインド人21名への対面インタビュー、及び113名のWebアンケート回答がベースとなっている。これらは筆者が収集した範囲の情報であり、全インド人の考えではないこと、加えて、彼らの考えは彼らが出会った日本人に留まっていることを予めご了承いただきたい。

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では、日本に住み、日本企業で働く、インド人高度人材は日本をどのように見ているのだろうか。第1回では仕事の進め方、コミュニケーション、価値観の3つの切り口から整理していこう。

 

1) 仕事の進め方

インドには“ジュガード(Jugaad)”という生きる知恵が浸透している。ジュガードとは、“限られた資源を活用し、工夫によって新しいモノを即席で創り上げる”こと。この概念はインド人リーダーの活躍に伴い、世界的注目を集めている。そのような社会で生きてきた彼らにとって、日本人の仕事の進め方は下記のように映るようだ。

<プロセス重視で仕事を進める>

日本人は、プロセスを重視して仕事をする印象を持たれている。具体的には、PDCAの確認や報連相の徹底、マニュアル重視などを指す。高品質を担保する順を追った仕事の進め方は、「混沌の国」とも形容されるインド出身の彼らにとって、斬新な概念なのかもしれない。

一方で、「マニュアルは過去の実績をもとに作られているため、現在や未来を見据えていないこともある」という声も上がる。提案を「マニュアルに記載がない」と拒否されることへの苦労に言及する人もいた。

<国内の論理をベースにグローバルビジネスを組み立てる>

製造業で働くインド人数名からは、顧客ニーズを意識したビジネス戦略が不足していると指摘があった。

例えば、インドを市場として、インド人の購買欲を刺激するには「宣伝のインパクト→価格の適正さ→品質の良さ」の順で優先順位をつけるべきだとの声がある。しかしながら、日本企業はどの市場に対しても「品質の良さ→宣伝のインパクト→価格の適切さ」の優先順位で戦略を立てているように見えるのだという。

一方、徹底的に市場特性やインド人のメンタリティを研究しつくしているのが韓国企業だ。例えばLGやサムソンなどの韓国企業はインド市場を席巻し、日本は後塵を拝している。こうした近隣の海外企業の戦略に目を向けない、アンテナの低さも危惧されているようだ。

 

2)コミュニケーションスタイル

インドは世界的に見ても多様性に富んだ国である。宗教はヒンズー教、イスラム教、仏教、キリスト教など。加えて公用語は17言語で、複数の民族が共存している。よって自分の隣人は、自分とは全く異なるバックグラウンドを持つ可能性が高い

生まれた瞬間から多様性にあふれた環境にある彼らにとって、質問を投げかけあって相互理解を図りながら、相手に応じ柔軟にコミュニケーションを図ることこそが生き抜く術なのである。この能力が、インド人がグローバルで評価されている理由だと語る人もいた。そんな彼らからすると日本人のコミュニケーションは下記のように映るようだ。

<ニュアンスを読み取ることを相手に期待する>

ある大手日本電機メーカーでセールスエンジニアとして働くインド人のコメントである。

「営業に行くと【検討します】と言われるので、検討してもらえるものだと思っていたが、それは【お断りします】という意味だということに気づくのに、時間がかかった」

日本において、「何を本当は伝えたいのか」を婉曲表現から読み取る能力が必要であることは、複数の人が言及していた。日本企業とのやり取りがあるIT企業などでは、「ブリッジエンジニア」という職が存在することもある。ブリッジ=橋を架けると名が付くその職は、日本語と英語、さらに日本人のニュアンスが理解できる現地人が、「今の発言の真意は××であるので、我々は〇〇をすることが求められている」と他のメンバーに伝える役割を持つ。このような職がなければ仕事が進まないという事実は、日本のコミュニケーションはグローバルスタンダードから程遠いことを示唆しているのかもしれない。

<自分よりも人の話を聞くことを優先し、反論への耐性が弱い>

インド人は、日本人は聞き上手で協調性があり、チームワークが必要とされる仕事が得意であることを高く評価している。ただし、他者の意見を尊重するということは、裏を返すと反論すること、相手と異なる意見を言う/言われるに対する耐性があまり強くないことを意味する。素朴に上司と異なる意見を伝えると、会社の中で疎まれるとの声もあった。 

「私は、日本人とは違う意見を言うことに価値を貰い、採用されたのだと考え、入社当初は自分がインドの大学院で学んだ知識をベースに当社技術に意見をしていたが、私が意見をすると反論とみなされ、協調性がないと評価される。だんだんと意見を言わない方が上司に評価されることに気づいた」

この特徴を語る時に多くのインド人は“Harmony”(調和)を使用する。聖徳太子の十七条憲法にも言及された「調和」を尊ぶ精神は、今の日本にも脈々と生き続けており、インド人はそれを日本人らしさだと捉えているのだ。

 

3)生き方

インド社会には、カルマカルマヨガの概念が染み渡っている。

カルマとは日本語で“輪廻転生”を指す。また“因果応報”という考えもあるが、つまり現世で善業をすればいつか自分に還元されるという考え方を持っている。インド人はカルマの精神のもと、助け合う。友達、家族との距離が極めて近く、自分の状況や悩みを共有し、助けを求めることに抵抗があまりない

続いて、カルマヨガとは“結果に一喜一憂せずに、目の前のことに集中して行動をすること” を意味する。まず、動こう、という精神である。そのような考え方で生きてきたインド人からすると日本人は下記のように映るようだ。

<他者と距離がある>

日本人は一人一人が比較的独立して生きており、家族や友達にさえ甘えない、頼らないと見えている。「家族が居ても孤独に見える」という声があったが、逆に「家族が居れば孤独ではない」との考え方は、家族同士の結束が極めて強いインド人の特徴かもしれない。

一方、こうした特徴からインドでは色々な個人情報が意図せず共有されてしまうことも多い。来日してからは解放感を覚え、自由を満喫しているインド人も一定数存在する。

<失敗が成功への道とは認識されづらい>

インド人は明日何が起こるか分からないという感覚を強く持ちながら生きている。だからこそ様々なことに挑戦し失敗をしない限りは、成功に近づけないという考え方をする人が多い。対して日本では最初から成功確率が高いと証明できなければ、挑戦もさせてもらえないことも多い。

「インドは数学の国。確率論的に言えば、失敗経験が成功確率を上げていく。失敗は極めて論理的に正しい成功への道なのだ」

というコメントもあった。

<価値観の軸が外側にある>

インド人は自分の人生の中心に“自分”や“家族などの身近な人”を置き、その幸せの追求に貪欲である。あるインド人は、次のように考察していた。

「日本人は価値観の軸を自分の内側ではなく外側、つまり他者との調和、会社からの評価に置いている。日本人は軸がないという人が居るが、ないのではない。軸が自分の外側にあるから、それが見えにくいだけである」

他者を気遣う精神が、世界に誇る日本のホスピタリティを生んだ。一方で、他者からの評価が得られなくなった時に自分の拠り所をどこに置くかわからなくなってしまう儚さもあると言える。

 

日本をメタ認知し、自らを見つめ直す

以上がインド人から見た日本人観である。文化の違いに良いも悪いもないが、インド人の意見が正しいわけでも間違っている訳でもない。インド人の主観的な指摘を全て受け入れる必要もない。しかしながら日本人/日本という国が、日本人以外からどのように見られているのかを知ることは、自分たちをメタ認知し、見つめ直す上で重要なことではないだろうか。

次回はマネジメントにフォーカスを充て、インド人が分析する日本人のマネジメントのあり方について論じていく。

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