前回まで、転職や異動などで環境が変わったときに必要となる「アンラーニング」について解説してきた。今回はアンラーニングに欠かせないリフレクションについて解説していく。アンラーニング実践の方法を更に具体的に探っていこう。
「痛み」が伴うリフレクションが、アンラーニングのはじまり
リフレクションとは「自分の内面を客観的・批判的に振り返る行為」をいう。昨今、人材育成の手法としてだいぶ浸透してきた。アンラーニングにも有効とされている。その大切さを疑う人はいないだろう。
だが意外にも、「リフレクション」の適切な方法を知っている人は少ない。そこで前回に引き続き、もうひとつ私の経験談を紹介したい。
転職して初めて担当したプロジェクトが終わったときのことだ。先輩社員に「プロジェクトを通じた学びを振り返り、言語化しておくといいよ」と勧められた。当時の私はプロジェクト完了報告のようなものと受け取った。そして、プロジェクトで取り組んだ仕事を整理し、メーリングリストを通じて関係者に報告した。
メールを送るや否や、先輩社員から返信が飛んでくる。
「取り組んだ仕事を整理することも大事ですが、うまくいったこと・いかなかったことにも目を向けていきましょう。もし今後同じプロジェクトを担当したときに、今回よりも短い期間で成果を再現するためには何が必要なのかを考えてみてください。今度、1on1で対話しましょう」
私はすぐさま先輩社員にどういうことかと聞きに行った。すると、先輩社員は私を会議室に連れて行き、アンラーニングにつなげる「リフレクション」というものを、対話形式で丹念に教えてくれた。その中で、私は求められていたのは単なる振り返りではなく、深い内省を伴う「リフレクション」であったことに気づいたのだった。
この「リフレクション」という作業は、事実を書き出すことではない。そこから、どこが悪かったか、その原因は何か、と考えるのはもちろん、失敗だけでなく成功した点はどこだったか、などにも目を向けることが必要だ。大事なのは、今後同じような場面に直面したときに以前よりも成功確率を上げられるためにはどうすればよいかを考えることだ。
更に、アンラーニングにつなげるポイントとなるのは、自身にとって当たり前になっている信念や前提を根本的に問い直すところまで踏み込むということだ。今後、自分自身には何が必要なのか、何が不必要なのかを選択することが、アンラーニングでは最も重要だからである。ただ、こうした作業を一人で行うのは難しい。そのときは、周囲にフィードバックを求めたり、誰かにメンターになってもらったりすると良い――。
以上がアンラーニングにつなげる「リフレクション」だが、これを読んでどう思うだろうか。少しやり過ぎと感じるだろうか。しかし、この深いリフレクションにまで取り組まなければアンラーニングは実践できない、というのが個人の実感だ。
当時の私で言えば、プロジェクトマネジメントの進め方にアンラーニングすべきポイントがあった。前職のSIerでは、障害を起こさず、期日通りにシステムリリースすることが何より重要だった。そのため、明確に定義されたプロジェクト目標に対して、他のエンジニアとともにプロジェクトを確実に進めることが求められていた。
しかし、転職後のコンサルタントという職種では、そもそもの問題点が明確でないことが多かった。顧客からも、潜在的な問題点も含めて見つけ出すことを期待されており、顕在化された問題点を確実に解決するだけでは価値を感じてもらいにくかった。
いずれも顧客の課題解決に向けて、プロジェクトを組んで進めることには変わらない。また、前職で身に付けた「確実にプロジェクトを進めるスキル」は、転職後も変わらず重要だった。当時、私がアンラーニングすべきだったのは、「顧客から求められている要件に確実に応えることが価値である」という前提だったのだ。もちろん、私をリフレクションに導いたその1時間の対話は「痛み」が伴うものだったが、振り返ると、その時間があったからこそ、私は色々なものを手放せたと思っている。
アンラーニングを実践するには、過去、そして現在の自分を振り返る「リフレクション」が欠かせない。転職や異動など新しい環境に変わるときこそ、是非試して欲しい。
アンラーニングは成長し続けるための必須スキル
人は日々成長している。成功しようが失敗しようが、前進していることには変わりない。
だが、もしかしたらこんな時が来るかもしれない。たくさん歩いたつもりでも実は同じ場所で足踏みを繰り返しているのだ。そして、ふと隣と見ると、同じ地点からスタートしていた仲間は、ずっと先に行っている。
同じ経験を積んでも、大きく成長できる人と、まずまずの成長で止まる人がいる。その違いは、アンラーニングできているかどうかであり、更にはリフレクションが深いかどうかである。過去を振り返り、残すべきもの、捨てるべきもの、これを日々選別している人ほど、進歩できるはずだ。
進歩とは反省の厳しさに正比例する(本田技研工業 創業者・本田宗一郎)