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斎藤祐馬×伊藤羊一(2)大企業の中でも自立してウィルで生きていく

投稿日:2016/09/27更新日:2019/04/09


リーダーシップの出現メカニズムを解き明かす本連載。前回はトーマツベンチャーサポート事業統括本部長の斎藤祐馬さんに、ベンチャー支援を志したきっかけや、新規事業を立ち上げる際に必要なステップについてお話を伺いました。今回は、ミッションを見つけ、その熱量を維持し続けるコツを教えていただきました。(文: 荻島央江)

<プロフィール>
トーマツベンチャーサポート株式会社 事業統括本部長 斎藤祐馬氏
1983年生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業。2006年、監査法人トーマツ(現・有限責任監査法人トーマツ)に入社。公認会計士としての業務の傍らベンチャー支援に注力。2010年、社内ベンチャーとしてトーマツベンチャーサポート株式会社の再始動を手掛け、28歳で事業部長に就任。2014年から現職。数千社を超える企業を支援する。今や起業家の登竜門と呼ばれる、ベンチャー企業と大企業をマッチングする早朝イベント「モーニングピッチ」発起人。著書に『一生を賭ける仕事の見つけ方』(ダイヤモンド社)

人生の山と谷がミッションを探すカギ

伊藤: ビジネススクールで勉強してMBA(経営学修士)を取得しても、そこから何をしたいのか分からないという人は、結構います。そういう人が自分のミッションを見つけるためにはどうしたらいいですか。

斎藤: ミッションのタネは人生の山(良いとき)か谷(悪いとき)のどちらかにあることが多いです。そうした人生の山や谷を味わった経験を僕は原体験と呼んでいます。自分のミッションを見つける第一歩は、原体験を掘り起こすことにあります。

伊藤: 具体的にどうすればいいのですか。

斎藤: 僕たちはよく「原体験ワークショップ」を実施しています。そのときに使うのが、心理カウンセリングの現場で使われている「感情曲線」です。横軸に年齢とこれまで経験してきた印象深い出来事を、縦軸に感情の揺れを置きます。そのとき感じた感情がプラスなら横軸より上に、マイナスなら横軸より下にプロットして、曲線で結ぶ。感情曲線を見れば、人生の山と谷がどこにあるかが一目瞭然です。これを使って自分の原体験を探すわけです。

原体験を探し当てたら、自分が何に喜びを感じ、何をつらいと感じるのかを検証します。そこから自分の人生で重要な価値観を2つのキーワードに落とし込みます。僕の場合は「挑戦」と「笑顔」です。挑戦することが好きだし、挑戦する人を応援して、その人の笑顔を見ることが僕の喜び。この上なく生きている実感がわきます。

こうして原体験と価値観がはっきりすれば、自分が取り組むべきミッションが見えてくるはずです。僕の場合は、父の独立・起業が最初の大きな原体験です。原体験の種類は「谷」です。父のように悪戦苦闘する経営者を支援して、その周りにいる家族や関係者の暮らしを守りたい。それが僕のミッションの原型になりました。

感情曲線が大きな山や谷を描く人ほど、生きるエネルギーが強い。僕はそれを熱量と呼んでいます。

伊藤: そう考えると、斎藤さんにとって高校受験の失敗や、大学卒業後2年間は必要な体験だった?

斎藤: そうですね。人は苦しいとき、自分の将来やいかにあるべきかを深く考えますから。逆に、強い体験がない人はもっとチャレンジしたほうがいいと思います。実際、原体験ワークショップで感情曲線を書いてもらうと、あまりマイナスに振れない人がいます。たぶんそういう人は挑戦が足らない。

伊藤: チャレンジしないから失敗もしない。

斎藤: 深い谷がある人は、必ず強い原体験があります。もしかしたら波が少ない人は修羅場を経験して、自分で谷をつくるぐらいのほうがいいのかもしれません。

個人の目標で終わらせない

伊藤: ミッションが定まったら次はどうすればいいですか。

斎藤: 起業家の場合、大体100人にプレゼンテーションすると事業になると感覚的に思っています。個人の人生のミッションも同じで、仮決めでいいので自分のミッションを決めたら、100人に話してみるといいと思います。話すことでミッションは磨かれ、徐々に本質に近付いていきます。そこまでやると、みんな目がきらっと輝いてきますよ。

僕自身、今も自分のミッションを語り続けています。相手の反応を見ながらフィードバックを取り込み、日々ブラッシュアップされています。

伊藤: ミッションを伝えるときのポイントはありますか。

斎藤: 個人、会社、業界、社会へと目線を上げていくことです。僕の場合なら、「公認会計士になりたい」「ベンチャー企業の支援をしたい」だけだと個人の話なので、周りを巻き込めない。個人的な想いから目線を上げて、トーマツという企業としてもこれに取り組むべきだと話すだけでも違いますよね。さらに業界、社会とレイヤーを上げると、My StoryがOur Storyになります。単に自分がやりたいだけから、周囲の共感を得て、みんなで一緒に社会課題を解決しようというストーリーに変わります。

もう1つ重要な要素が「なぜ今やらなければいけないのか(Now)」です。たとえ重要でも緊急ではないことだとみんな本気で取り組んでくれず、優先順位が低くなる。重要かつ緊急だと伝えるために、これは今やるべきだと強く訴える必要があります。この「My-Our-Now」のフレームワークは「コミュニティー・オーガナイジング」と呼ばれる手法を僕なりにアレンジしたものです。

採用が下手な社長はMy Storyだけ、あるいはOur Storyだけ話しています。Our Storyだけでは聞き手に響かず、My Storyだけでも共感を得られませんから、My StoryとOur Storyの両方を伝えることが大切です。さらにNow、緊急性を強調します。例えば、2020年の東京五輪までしか日本経済は持たないかもしれない。今こそベンチャー企業が育つ土壌づくりに取り組まなければならないといった具合です。

伊藤: 伝え方も大事なんですね。

斎藤: ビジョンやミッションで秀でる人は最初こそ遅れをとっても、何年かやっていくうち周りをうまく巻き込んで、形にしていることが多い。そのあたりから「自分がやらなければ」という使命感が生まれ、本物になる。最初からそれが分かっている人はあまりいなくて、走っているうちにいつしか使命感が芽生えるようです。

伊藤: My StoryはMy Story、使命感は使命感で降りてくるのではなくて、My Storyで走っている間に、Our Storyができていって、社会から必要とされているとなったら、最終的に使命感に昇華していくイメージでしょうか。斎藤さんの場合はどうレイヤーが上がっていったのですか。

斎藤: 最初はベンチャーというキーワードだけでした。でもやればやるほど大企業の課題が見えてきたし、行政や海外まで手を伸ばす必要があると感じました。そこまで影響を及ぼすには、ストーリーをよりハイレイヤーにしていかなければなりません。例えば、日本経済のためにと掲げると外国人社員を巻き込みにくい。

伊藤: いろいろな人を巻き込むためにも、レイヤーを上げていかざるを得ない。

斎藤: そうだと思います。最近は世界を見据えて取り組んでいます。

伊藤: そのときMy Storyはどうなっているのですか。

斎藤: いわばOur Storyはビジョンで、My Storyはパッション。登るべき山がビジョンで、その原動力、エンジンとなるのがパッションです。何かをするときにはビジョンとパッションの両方が必要です。多いのは、パッションはあるけど、それがいろいろな方向に分散している人。そういう人はベクトルを1つにぐっと絞っただけで突き抜けられます。

熱量が高い人に会いまくる

伊藤: 斎藤さんは最初からベクトルが絞られています。大事にしていたことは何ですか。

斎藤: 熱量のコントロールです。社内には熱量を下げる人も多い。自分でコントロールしないと、熱量が消えちゃうんです。

伊藤: コントロールって、どんなふうにするのですか。

斎藤: 僕の場合は自分の沸点を高く保つために、週に最低五人、とにかく熱量が高い人に会いまくっています。大企業はとかく熱量が低い人が多い。そういう人たちと日常的に接していると、自分の熱量も下がってしまいます。とにかく熱量を高く保ち続けないと。

伊藤: 熱量が高い人はどこにいますか。

斎藤: 起業家に圧倒的に多いのではないでしょうか。だからビジネススクールなどでいろいろな講師の話を聞くのは意味があると思います。

伊藤: ビジョンをはっきりさせて、それを洗練させながら、パッションを維持するために自分で薪をくべ続けるわけですね。

斎藤: 熱量の高い人と会う以外にも、起業家の本を読んだり、誰かにミッションを語ったりしています。結局、事業ってWhy(なぜやるか)が重要。熱量がないとWhyは生まれません。ノウハウは専門家などアドバイスをもらえばいい。大事なのはWhyです。

日本発世界一のプラットフォームを目指す

伊藤: そんな斎藤さんでも熱量が下がることはないですか。

斎藤: 3月ぐらいに周りの仲のいい人に、「昔はマグマがふつふつと上がってくるような熱さだったけど、今はちょっと煙が出ているような感じだね」と言われたことがありました。

確かにその通りで、日本のベンチャー企業が世界になかなか出ていかないことや、事業として売り上げを伸ばすことに日々追われていて、熱量が下がっていました。そこで日本という枠組みを超えて、世界で展開するという新たな目標が見えてきて、そこからもう再び熱量が上がってきました。

伊藤: だから斎藤さんの話すグローバルという言葉がすごいエネルギーを持っているわけですね。

斎藤: ミッションを見つける上で大事だと思っているのは、誰の笑顔が見たいかということ。誰の笑顔を見ることが、自分の生きている実感につながるのかを定義できれば、時代や環境が変わってもミッションを見失わずにすみます。トーマツベンチャーサポートの場合も、ベンチャー企業だけでなく、広義の意味での「挑戦する人」への支援が中心軸になっています。

最初の頃はベンチャーと大企業、ベンチャーとメディア、ベンチャーと金融機関をつなぐことが大きな課題でした。そこは今、ある程度見えてきています。一方で、日本企業はグローバルでの最先端のイノベーションを取り込むといったことをやらないと今後勝てないでしょう。ではどう戦うか。僕らが手掛けているベンチャー企業と大企業をつなぐマッチングイベント「モーニングピッチ」のような仕組みを世界中に張りめぐらせて、世界最先端の情報を僕らが集めて日本企業とつなぐ。それができれば、日本企業は勝つ可能性があると思います。

伊藤: トーマツベンチャーサポートで世界一のプラットフォームをつくるわけですね。

斎藤: 日本発世界一の仕組みをつくることが今の僕のミッションです。トーマツが属するデロイトネットワークは、150を超える国や地域で事業を展開しています。その中で、僕らのようにベンチャー企業と大企業をつなぎ、大企業の新規事業創出を促したり、政府や自治体と共同プロジェクトに取り組んだりしてベンチャー企業を支援しているのは、調べてみると日本のトーマツベンチャーサポートだけだったんです。世界中のコンサルティングファームを探しても、我々が知る限りはほかにありません。僕らはこのサービスを既に7カ国で展開し、20カ国への展開を進めています。

デロイトという世界の看板で、ベンチャーより速いスピードで動けば、世界は変わるんじゃないかというのが僕の仮説です。今、トーマツベンチャーサポートの人員メンバーを150人まで増やしました。さらに国内外で数百人規模のタレントを採用育成し、また彼らが20名規模のチームを作り世界で存在感を発揮する会社を作っていくことを目指します。

伊藤: 勝算があるのですね。

斎藤: トーマツベンチャーサポートは東京からスタートして、わずか1年半で全国23の都市で活動するまでになりました。このときのポイントは3つあります。

1つ目が情報提供。「モーニングピッチ」を東京で始めて、このフレームワークを「やってみませんか」といろいろなところに発信しました。2つ目が人材育成。各地域から東京に受け入れて育てて戻します。そして3つ目がコンサルティング。東京から人を派遣して、立ち上げる。この3つをやり続けたら一気に広がったという成功体験があります。だから今度はこれを海外でもやれば、このモデルは一気に世界展開できると思います。実際、2020年までに20カ国を目標に展開し始めているところです。

伊藤: 最後に何か読者に向けて、アドバイスはありますか。

斎藤: 僕の中でいつも使っているフレームワークで、will-can-mustの輪でいうと、例えばコンサルタントの場合、稼がなければいけないwillと、それをデリバリーできるというcan、能力だけで生きている人が目立ちます。世の中をこうしたいというwillで生きている人は少ないのではないでしょうか。

お金をもらって言われた通りにやるという仕事だとそうなりやすい。僕がずっと心掛けていたのは、上司を株主と捉えることです。自分を起業家に見立てて、ただ言われたことをやるのではなく、自分が提案したことをやる。最初は9割言われたことをやって、1割自分のやりたいことをやる。徐々に自分がやりたいことを増やしていって、最終的には自分のやりたいことだけで食べていけるようにします。「これをやりたい」とプレゼンテーションをして、そこに投資をしてもらって結果を出す、このサイクルです。大企業の中にいても、自立して自分のウィルで生きていくのが最も大事だと思います。

インタビュー後記

斎藤さんは、物腰は柔らかいですが、内に秘める熱量がとても高くていらっしゃいます。お会いし、話をする都度、いつもその熱量に刺激を受けて、私自身も熱い気持ちになります。

人に熱を伝播することは、ビジネスリーダーとしてとても大事な力です。こうした力は、先天的な資質と見られがちですが、決してそうではなく、後から鍛えながら身につけていくことが可能なのだな、と、今回斎藤さんからお話を伺って感じました。そのためにはまず、リーダーとしてあるべき、とされる定石を愚直にやること。

・willを大事にして、志を決める
・自分の人生を振り返り、自身の情熱の源泉を探る
・人と会う、ということを決め会い続けるなど、行動に落とし込む
・人に伝える
・志を大きく育んでいく
・自分を導き、チームを導き、社会を動かす

人を、社会を動かすリーダーになっていくには、こうしたことを「意識して行う」ことが重要であり、それがまさに斎藤さんが実践されていることです。

では「意識して行う」とは、どういうことでしょう。斎藤さんは、自身の考え、行動の全てに意味をもたせています。自分はこう思う、何故ならば、こういう経験があったからだ。これが必要だ、だからこれをやるのだ、大事なことは3点あって、これとこれとこれだ、等々。

自身のエネルギーを高く保つために、目標をもってまずはやってみる。そこまでは皆さんおわかりと思います。そこからが大事で、行動したあと、自身を見つめる。そしてそこに意味をもたせる。意味があるから、確信を持ってさらにことを進められる。これをサイクルで繰り返す。これが「意識して行う」ことの本質かな、と感じました。

斎藤さんの高いエネルギーレベルを見習って、私も「意識して行う」プロセスを実践しようと思います。

そしてこのインタビューをお読みになり、さらに深く学びたい、と思われた方は、ぜひ、斎藤さんの著書「一生を賭ける仕事の見つけ方」を読んでみてください。

斎藤さん、ありがとうございました。

<関連書籍>
一生を賭ける仕事の見つけ方
斎藤 祐馬
ダイヤモンド社
1500円(税込1620円)
 

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