実は手帳フェチの著者。手帳選びには長いこと苦労しており、さまざまな手帳を使った末にシステム手帳とは決別したはずだった。しかしある日、ドイツ製の2つの手帳に出会い、再び激しく“手帳ゴコロ”を揺さぶられたのだ――。マーケティング・コンサルタントの郷好文氏が、システム手帳にさすらう(このコラムは、アイティメディア「Business Media 誠」に2008年4月3日に掲載された内容をGLOBIS.JPの読者向けに再掲載したものです)。
多くのビジネスパーソンは年に1度、同じ時期に共通した悩みを抱える。確定申告か(そんな身分になりたい)、花粉症か(ついになってしまった)――。それは、1年お付き合いする手帳の選択だ。
筆者は毎年10月から11月にかけて、文具売場をさすらい、あれこれ時間をかけて選ぶ。20年近く使ったシステム手帳から脱皮して2年目、2008年はスリムな“おまかせ型”の手帳lを胸ポケットに入れている。
だがある日、システム手帳とは決別したはずの筆者の心を揺さぶる、2つの手帳がドイツから届いた。それは日本未発売のシステム手帳のサンプル。なぜ筆者の心が揺さぶられたのかというと、システム手帳に“自分だけの自由”を求めてさすらう“3次元の悩み”が見えてきたからだ。
ゴムバンドという自由、「X17」
そのドイツ製の手帳は、大きく分けて2つのタイプがある。1つは「X17」シリーズで、ゴムバンドでファイルするシステム手帳(冒頭の写真)である。皮革タイプや合成素材のカバーに、さまざまなリフィル・ノートをゴムバンドでパッチンとはさみこむ方式。いずれもシステム手帳とは違い、リングを使わずに中のリフィルを留めているので、当然スリムだし、文字を書き込むときにリングが手に当たって書きにくいこともない。
しっかりしたコート皮革のノートカバーの背部に、4つのゴムバンドを締める切り込みがあり、ラバーバンドをかけてノートをページの真ん中で留める(右の写真)。サンプルに付いてきたノートは見開き1週間ダイアリーの半年分2冊、インデックス付き自由ノート(罫線なし)、そして2.5ミリメートル方眼だが、ほかにも12カ月ダイアリーや罫線入り、楽譜など合計11種類があり、組み合わせ自在だ。
ノートサイズは写真のA5以外にA6とA7があり、鞄に入れるか携帯するか、それも自由に選択できる。その組み合わせの特徴から「Book-by-Book-System」(1冊1冊組み合わせ)と呼ぶ。ゴムバンドはかなりしっかりしたもので、ノートがブラブラと揺れることはない。A5ノートを束ねたような形だが、実際に使うとなかなか繊細な造りで好感が持てる。
スリムな金属棒という自由、「X47」
もう1つの「A6 Timer」(下の写真左)は、「X47」シリーズの主力商品だ。リフィルのサイズは世に普及する6穴システム手帳の95×170ミリ(幅×高)に比べ、X47は98×145ミリ(幅×高)と、少しタテが短く幅はほぼ同じ。
こちらもBook-by-Book-Systemで自分仕様のリフィル構成ができる。サンプルはスケジューラ2冊と方眼紙の3冊だが、最大4冊まで収納可能。注目はその“バインディングシステム”だ。システム手帳といえば「KRAUSE」のごついバインダー金具が真ん中に居座り、上下のレバーを押してガッチャンと開け、リフィルを入れ替える。だがX47では“スリムな金属棒”でノートを留めるのだ(下の写真右)。
ブック側の筒の棒をノート側の受け軸に挿入する。「こんな細い棒で大丈夫なのか?」と不安を感じたが、ブックだけを持ってブラブラさせてもびくともしない。「この細い棒、どこかで見たことがあるなあ」と思ったが、時計バンドを留めるバネ棒と同じで、手首の激しい動きでバンドは外れないだろう。この機構の採用で、バイブルサイズと比べて厚さ3分の2、重さ2分の1程度を達成した。
筆者所有のシステム手帳ファイロファックスは約90枚のリフィル+透明ポケット数枚(上)。X47は34P×3冊で約100枚(下)
システム手帳vs. Xシリーズ
ラバーバンドといい時計バンドといい、なぜそんな素材や機構を手帳に採用したのか? 開発元のX17 GmbhとX47 GmbH、両社のCEO、Matthias Buttnerの説明を表にまとめた。
彼は10数年間、既存のシステム手帳の改善を続けてきた。その成果がバンドや時計軸という機能なのである。「厚くて重くて書きにくいシステム手帳を、なぜ使うんですか?」。Buttnerさんはこう問いかける。その問いは私の胸に刺さった。なぜなら筆者は“死屍累々(るいるい)のシステム手帳ユーザー”だから(下の写真)。
死屍累々(るいるい)のシステム手帳。(1)はバイブルサイズ。社会人なりたての頃からシステム手帳を愛用した(写真のファイロファクスは最近のもの)。そのうち外出することが多くなり、背広の内ポケットに手帳を入れたくて(2)のスリムサイズのバイブルに転向した。このサイズを4つほど買ったが、結局胸が重くて肩が凝るので使用中止に。次はA5サイズのシステム手帳(3)の時代に突入した。複数の仕事をオールインワンで管理したかった。これも薄いタイプや厚いタイプを、4つほど購入した。仕事も手帳も管理しきれなくなって放棄した。ちなみに(4)は超整理手帳で2年継続後、蛇腹紙を折りたたむのが面倒になってやめた。(5)は米国製の6穴手帳で、ほとんど使わなかった。インチという大ざっぱさが、どうも肌に合わなかったからだ。
筆者は仕事の合理性を追求する真面目なビジネスパースンなのか? はたまた手帳業界のイージーターゲットに過ぎないのか? いずれにせよ死屍累々なのは否定できないが、手帳と仕事の関係を整理してみたい。
手帳に求める機能は、基本的に2つの軸で説明ができる。スケジュール管理優先か、発想優先か、それが「段取り−アイデア軸」。手帳を携帯したいのか、バッグに入れたりデスクの上に置いたりしたいのか、それが「据え置き−携帯軸」。この2つの軸のどこかを優先して手帳の大きさや形が決まる。
だがこの2軸だけではシステム手帳の最大の特徴である“自分だけの手帳作り”を表現できない。もう1つの軸、「自分スタイル−おまかせ仕様」をタテに足す必要がある。システム手帳の最大の特徴は“自由”、リフィル選択の自由である。システム手帳派はこのタテ軸の“自分スタイル”を昇り、逆に能率手帳派は“おまかせ仕様”で満足する。
Buttnerさんの手帳は「もう1度、自由への旅をしないか?」と筆者に問いかける。さらに従来のシステム手帳を否定する、彼の商品開発魂が「今のシステム手帳では満足できないだろう?」と筆者の心を揺さぶってくる。ああ・・・自由なる手帳探しの旅が、再び始まるのだろうか。
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