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濱松誠×伊藤羊一(1)有志の会One Panasonicから7.5兆円企業を変える

投稿日:2016/06/30更新日:2021/10/26

活躍中のリーダーたちにリーダーとして目覚めた瞬間を問い、リーダーシップの出現メカニズムを解き明かす本連載。第7回はパナソニックで組織や部門を横断してメンバー同士の交流を図る会「One Panasonic」を主宰し、大企業の中から変革を起こそうと模索し、行動されている濱松誠さんにお話をうかがいました。(全2回)

<プロフィール>
One Panasonic代表 濱松誠
1982年京都市生まれ。大阪外国語大学卒業。2006年松下電器産業(現パナソニック)に入社。海外コンシューマー営業、インド事業推進を経て、12年に社内公募でコーポレート戦略本社 人材戦略部に異動。パナソニックグループにおける人材戦略の立案や人事諸制度の設計・運営を担当する傍ら、同年、組織や部門を横断して社員同士の交流を図る有志の会「One Panasonic」を立ち上げる。16年3月から、コミュニティサービス事業、コンサルティング事業、旅行事業などを多角的に展開するパス社に出向。資本関係のない国内ベンチャー企業への出向はパナソニック初のケース。

始まりは内定者と社員の懇親会

伊藤: この企画を始めたときから、いつか濱松さんをお呼びしたいと思っていました。濱松さんのように大企業にいながら、通常の組織の指示命令系統とは異なるところでリーダーシップを発揮して組織を動かし、その動きが外からも見える格好で活動している人は極めて珍しいですから。はじめに濱松さんが立ち上げた「One Panasonic」について教えてください。

濱松: One Panasonicは、組織や部門を横断して社員同士の交流を図る社内の若手有志団体です。社員の志・モチベーションの向上、知識・見識の拡大を目的とした、組織・年代を超えた人的ネットワークの構築をミッションとし、面白くて新しい商品やサービスをどんどん生み出せる土壌をつくることを目指しています。分かるようで、よく分からないですよね?

伊藤: そこが非常に面白いと思っています。大企業の中で何かやろうとするとき、「これは××が目的です」と言い切る説明が必要になる。ただ、そういうふうに表現できるものはあまり面白くないことが多い気がします。一方で、簡単に言い表せないものは、大きな組織においては簡単に受け入れられないけど、ユニーク。One Panasonicはまさにそんなムーブメントであり、集団であり、いろいろな解釈ができると思います。なぜやろうと考えたのですか。

濱松: 内定者時代に先輩社員と接する機会がなかったことが、そもそものきっかけです。入社前に様々な職種の先輩社員と話してみたかったのですが、当時はそうした機会がありませんでした。ベンチャー企業などではそれこそ社長と話したり、食事をしたりしているのにと、何だか悔しかった。そんな思いを後輩にはさせたくないと、入社1年目の2006年、同期に声をかけて内定者と社員との懇親会を開催しました。初年度の参加者は内定者20人、社員20人の40人でした。

バブル世代入社の方々は同期が約2000人います。それに比べると我々は同期が約500人と少ない。何せパナソニックは売上高約7.5兆円、従業員数は約25万人、4つのカンパニー、38の事業部という巨大組織ですからね、各部に配属される新人は1人か2人。これは他の日本の大企業もそうだと思いますが、部署には20代の先輩社員もあまりいなくて、新入社員は結構孤独なんです。それもあって何か若手社員のコミュニティーをつくりたいとも思っていました。

内定者懇親会はその後6年間続け、11年までに延べ人数約400人が参加するまでになりました。気が付いたら、若手社員のネットワークができていたというわけです。

伊藤: そこからOne Panasonicへと発展していった?

濱松: はい。12年にパナソニック、パナソニック電工、三洋電機が統合したことが契機になりました。風土の異なる3社が一緒になるのですから、それは大変なことです。当時、会社は社員の心を一にしようと「One Panasonic」というスローガンを掲げていました。「会社もOne Panasonicと言っているやん。僕らも何かやろうや」と、現場レベルでの一体感を醸成すべく12年3月に新生パナソニックの若手社員200人を集め、One Panasonicというイベントを開催しました。これが有志の会「One Panasonic」のスタートでした。

当日は土曜日の昼の1時から夜の9時まで話をしたり、飲んだり食べたり。無理やり呼んだのではなく、集まりたい人が集まったので、そのときの写真をみると、参加してくれたみんながすごくいい表情をしています。

会には大坪文雄社長(当時)も来てくれました。「10分でもいい」と伝えていましたが、結局5~6時間いて若手社員と話していました。一般社員と社長は普段なかなか接点がありませんからね。200人の若手の熱量をトップに伝える、トップの思いをダイレクトに社員に伝える橋渡しができたのではないかと思います。

今や参加者の総数は2000人を超えました。One Panasonicはあくまで有志による自主的な活動であるものの、社長をはじめ経営幹部の理解を得て活動しています。

大企業社員は社内人脈を持っていない

伊藤: 具体的にどんなことをしているのですか。

濱松: 大企業の強みは有形無形の資産、リソースを豊富に持っていることです。これしかない。これしかないのに、気付いてない人が多い。恐らく社員の9割は理解していないでしょう。それに加えて、社員同士がつながっていないから活かせていない。そこで我々は人と人をつなげるコネクターの役割を務めています。

大企業に勤務する社員の場合、まず社内の人脈がありません。無いと言えば語弊があるかもしれませんが、同じ部署、同期のつながりぐらいしかありません。社外に出て名刺をばらまくのもオーケー、話すのもオーケーだけど、社内に人脈がなかったら意味がない。

伊藤: 社外に目を向けることももちろん大切だけど、社内の人脈がないと会社では何もできませんよね。

濱松: そうなんです。イントラプレナー(社内起業家)として活躍したいとか、社内で何かしたいという人は絶対に社内の人脈をつくるべきだと思います。どの部署にどんな人がいるという情報は社内のイントラネット上にありますが、それだけではダメで、人脈がなければたぶん活用できない。リアルの強みが生きると思っていて、そこから何か新しいものが生まれるはずです。

そこでOne Panasonicでは、社内での人脈構築やモチベーションの向上を狙って「全体交流会」と「テーマ別交流会」の2つを実施しています。全体交流会は「交流と学び」を主題に、東京、大阪、名古屋、福岡で3カ月に1回開催。毎回、100~200人の社員が集まります。社長を筆頭に経営幹部のほか、社外から著名人を招き、情熱がほとばしるような話をしてもらっています。これは主に縦のつながりをつくる、いわば闘魂注入系の会です。

横のつながりをつくるテーマ別交流会では、ロボット部やブランドデザイン部などの部活動をはじめ、ハッカソンや女子会、社外の同世代の人たちと触れ合う他社交流会などを展開しています。

縦と横のつながりは比較的すぐにできますが、斜めもつくらないといけない。そのための試みが「ようこそ先輩」です。

トップや社外の人に来てもらうこと以上に難しいのが、部課長層などミドルの方の巻き込みです。One Panasonic参加者の平均年齢は30歳くらい。45歳の人であれば15歳下の人間が集まるコミュニティーに飛び込むようなもの。自分自身に置き換えると、僕は今33歳だから15歳下は高校1年生。その輪の中に入っていくのは正直難しい。そこで彼らが参加したくなるよう、ミドルの方が若手社員に自身の経験を語る「ようこそ先輩」を企画しました。「先輩、僕らにちょっと話をしてください」と声をかければ、「行ってやろうか」となる。「話したい」というミドルの方は多く、断る人はほぼいません。

伊藤: 車座になって話を聞くのですか。

濱松: そうです。先輩社員には自己紹介やキャリアの話、失敗談、あと若手社員へのアドバイスをしてもらいます。それを20分×3セットとか、就活のブースの社内版といったイメージです。土曜日もしくは日曜日の開催ですが、休日出勤扱いにはもちろんなりません。先輩社員も含め、参加者からは参加費を徴収しています。

伊藤: それでも人が集まるのですね。

濱松: はい、いつも150人は来ます。これはいい取り組みだと思うので、ほかの会社でもぜひやってほしい。ただし人事が主導しても広がらないんじゃないかなと思います。

伊藤: 人事が主催したらオフィシャルな研修になっちゃいますよね。有志の会One Panasonicというオフィシャルなラインじゃないからこそ、こうした取り組みが生きるところはありますよね。

濱松: 非公式のほうが自由に楽しいことができるなと思っています。

公式と非公式のムーブメントがシンクロする

伊藤: 公式の会じゃなくて、有志でスタートしたことが成功要因として大きいのでしょうか。

濱松: そうだと思います。何を成功とするかは難しいところなのですが、One Panasonicのように何となくのムーブメントになって2000人がつながるというところまでだったら有志でできます。でも会社を変革したり、仕組みに再現性を持たせたりというのであれば、やっぱり会社の制度にしないといけない。もしくは有志で取り組んでいるメンバーが会社側とより連携するといったことが求められるのではないかと思っています。

伊藤: 恐らくこれが会社のオフィシャルなムーブメントとして始まると、拒否反応を示す人がいそうです。理想的には、非公式な有志で始まり、賛同者が増えて、結果的に公式になっていくみたいなイメージでしょうか。

濱松: まさにその通りです。「やっぱりこれって大事じゃん、社外でも言われている。動いていないのは社内のみなさんだけですよ」というムーブメントというか、社内世論のようなものをつくる。それからいきなり会社の取り組みにするのではなく、会社の取り組みと我々の取り組みをコラボさせる。それがうまくいけば、将来的に会社の取り組みになるかもしれないし、いずれにせよ活動に広がりが生まれるのは間違いありません。

伊藤: 会社の動きと有志の動きは違うところから始まっているものの、徐々にシンクロしていく。それがオフィシャルになるか、オフィシャルにならないかは重要ではなくて、互いによい影響を与え合うことが肝心で、そのためにやっているわけですよね。

濱松: そうです。そういう意味では、いわゆる特命担当に近いのかもしれません。

伊藤: 大企業の社員はこうした取り組みに対して参加意欲は高いけど、決して自分がファウンダーにはならない。「自分はそういうポジションじゃないからできない」という人が多いんじゃないかという気がします。でも濱松さんはそれをやってのけた。どうして濱松さんはできたのか。こうした取り組みができる人、できない人の差は何でしょうか。

濱松: 元々の性格もあるかもしれませんが、仲間ができたことが何よりも大きかったと思います。1人でやっている限りは濱松が何かやっとるわみたいな感じで終わってしまいますが、仲間が増えてくると周囲からも認められ、様々なことにチャレンジできる。ではどうやって仲間を見つけたかというと、先ほど話した内定者懇親会を6年間、継続したことが結果としてキーだったなと思います。

伊藤: 仲間を増やせたのは懇親会を続けてきたからで、それが続けられたのはやっぱり思いがあったから?

濱松: そうですね。社内で同じような活動をしている人はいました。だけど数年程度で終わってしまい、続かない。今回、それなりのプラットフォームは構築できたので、あとは後輩がどういう形にせよ、このネットワークを大事にしてくれるだろうと思っています。

会社や組合が縦、横、斜めをつなげるコミュニティーをつくってくれていたら、僕は内定者のときに困らなかったし、新入社員のときに孤独を感じることはなかった。キャリアで悩んでいる若手が辞めることもなかったかもしれない。文句を言うなら自分たちでつくろうと思って、たまたま僕と何人かが協力して立ち上げて、そこに特にトップが共感してくれたからOne Panasonicがある。今の運営メンバーとは「やれるだけやろうな」と言っています。
(後編はこちら)

https://globis.jp/article/4477

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