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顧客を想え!課題を考え抜け!ドトールとジョージアの広告の狙いは?

投稿日:2016/03/01更新日:2019/04/09

2月中旬ごろ、「ドトールのキャッチコピーが下手すぎる!」との話題がネットを駆け巡った。また、今冬、日本コカ・コーラが展開した「自販機+2℃キャンペーン」にも「意味あるの?」などという懐疑的な意見が散見された。では、それらの広告はどのようなターゲットに向けてどんなメッセージとして発信されたのか?そして、どんな自社の戦略課題を解決しようとしたのであろうか?

揶揄されながらも絶賛の嵐

ドトールの話題のキャッチコピーとは「コーヒーと ショートケーキ おいしい。」という店頭販促物に記されたもの。それを、あるTwitterユーザーが投稿したことから拡散が始まった。「下手すぎる」「小学生並み」と言われつつ、一方で「シンプルでいい」「食べたくなる」などの好意的な見方も多くツイートされ、3万以上のリツイートがなされ大きな話題となった。そしてツイートの多くが「結果的に大成功ではないか?」という意見に集約されていった。

ドトールの本来の狙いとは?

店頭の販促物に付けられたこのコピーが拡散し、世に広く知られたことはドトールにとって僥倖というものだろう。消費者の態度変容モデルAIDMA(Attention:認知→Interest:理解→Desire:欲求→Memory:記憶→Action:行動)で考えれば、Attention→Interestまでが大いに盛り上がり、一部のネットユーザーは食べたいという欲求(Desire)を喚起されるまでになっている。しかし、ネットの膨大な情報の中ではすぐにドトールの広告のことなど忘却されていくことだろう。つまり、記憶(Memory)の段階には至らない。だが、それは全く問題ではない。なぜなら、そこは同社が設定した課題ではないからだ。

ドトールがケーキを食べさせたいターゲットとは?

この場合、ドトールにとって自社の非ユーザーはターゲットではない。そこを増やすのはまた、別の課題である。ターゲットは自社の来店客である。さらに、最初からケーキ等のスイーツを食べる気満々の顧客もターゲットではない。その人は広告・販促物で行動を促す必要もないからだ。ターゲットは、節約のために(もしくはダイエットも兼ねているかもしれない)、「本当はケーキも食べたいけどコーヒーだけにしようと思っている人」である。その人を「やっぱりショートケーキもセットにして食べちゃおう!」と思わせることが目的だ。それ故、「とってもお得なケーキセット」という割安感を醸成する商品名と価格なっている。(ダイエットの場合も「安くなっているから」は自己正当化の理由になる)。

つまり、このコピーは店頭という「売りの現場」で「いかに来店客に購買行動(Action)を取らせるか」という一点のみに目的を集中させたものだ。故に、あまり凝ったり、考えさせたりするようなコピーではダメなのだ。小学生並み上等。それぐらいストレートであることが求められるのである。広告、コピーの巧拙はターゲットとその置かれた状況を考え、課題・目的を明確にしなければ評価できないのである。

缶コーヒーがもっと温かかったらうれしい?

日本コカ・コーラは缶コーヒーのジョージアブランドで昨年の初冬から「いつもの冬より、あたたかく。」をスローガンに、俳優・山田孝之出演のCMを放映し、全国の自動販売機の設定温度を2度高くするというキャンペーンを行っている。しかし、今シーズンは前半が暖冬だったこともあってか、冒頭に記したように、あまりキャンペーンの魅力が理解できない人も多かったようだ。しかし、日本コカ・コーラによると、+2℃設定の施策は昨年テスト的に行われ、「『より、あたたまる』『より、おいしいと感じる』『癒やしを感じる』など大変好評をいただき、この冬に全国展開を進めることとなりました」(同社ニュースリリースより)  という満を持した展開であることがわかる。

このキャンペーンはニュースリリースにあるように、山田孝之がCMで演じている電気設備技師に代表される屋外労働を行う人がターゲットであることは間違いない。そして、このキャンペーンの是非を判断するには、ターゲットの気持ちを理解することと、日本コカ・コーラの戦略課題を推察することが欠かせない。

缶コーヒーユーザーのキモチ

「ただでさえ結構、缶が熱いのにこれ以上温度を上げなくてもいいだろう」などとして、キャンペーンの意図がわかりかねるという人の多くはオフィスワーカーだろう。空調が効いた部屋では+2度の価値は理解しがたいはずだ。だが、CMにあるように寒さに凍えるような現場で作業をしていたら、前出のニュースリリースにあるようなおいしさや癒やしを感じられるはずだ。CMでは、山田孝之が缶を手にして「あっちぃ~。」と声を出すシーンがあるが、手に持つには過度な温度でもそれは心に染みる熱さなはずだ。それに、屋外労働をしている人は軍手をしている人も多い。軍手越しなら程よい温もりとなるだろう。

日本コカ・コーラの狙い

缶コーヒーをめぐる市場環境は厳しい。特に日本コカ・コーラには逆風が強いといえるだろう。かつては飲料の販売シェアは自動販売機が約4割に対してコンビニエンスストアが3割であったが、現在ではその比率が逆転している。また、店内ではコンビニ各社が100円で販売するドリップコーヒーに注力しており、大きな競合となっている。

そんな環境下で、作業現場の近くにある自動販売機で缶コーヒーを買ってくれる今回のターゲットは優良顧客だ。しかし、飲料自動販売機市場は既に飽和しており、同じ立地にいくつものメーカーのマシンが立ち並んでいる。その中から自社を選んでもらう工夫は欠かせない。そこに今回の+2度が効果を発揮するのだ。AIDMAで考えれば、CMでターゲットに「おっ」と目を向けさせ、注意(Attention)を引き、「いいじゃん!」と興味(Interest)を喚起し、「今度はこれを買ってみよう!」と欲求を引き起こして記憶に残させる(Desire・Memory)というところまで達成できている。あとは現場近くでコカ・コーラのシンボルカラーに「+2℃自販機こちらです」のステッカーが貼られた自動販売機を目にすれば、同社の自販機にコインを入れてボタンをポチッとする購買行動(Action)を取る確率はかなり高くなるはずだ。

マーケティングの基本の基であるが、広告・販促(Promotion)は施策である4Pの1つである。それが上手くいくかどうかは、その手前のSTP(Segmentation・Targeting・Positioning)を徹底的に考えることと、さらにその手前で環境を適切に分析し、市場機会・事業課題を明確にすることが欠かせない。今回の2つの事例もまさにそれを表していると言えるだろう。

  • 金森 努

    グロービス経営大学院 教員

    東洋大学経営法学科卒。大手コールセンターに入社。本当の「顧客の生の声」に触れ、マーケティング・コミュニケーションの世界に魅了されてこの道四半世紀以上。コンサルティング事務所、広告を経て、2005年独立起業。 青山学院大学経済学部非常勤講師としてベンチャー・マーケティング論も担当。著書「図解 よくわかるこれからのマーケティング」(同文舘出版)「”いま”をつかむマーケティング」(アニモ出版)。共著書「CS経営のための電話活用術」(誠文堂新光社)「思考停止企業」(ダイヤモンド社)。監修「実例でわかる!差別化マーケティング成功の法則」(TAC出版)。雑誌への連載、講演多数。一貫してマーケティングにおける「顧客視点」の重要性を説く。

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