マッキンゼーの7Sモデル
変革においては、戦略変更やトップのリーダーシップだけでなく、人事施策も重要な意味を持つ。ここでは、変革と人事施策について考えるフレームワークとして有名な、米国のコンサルティング会社マッキンゼーの「7Sモデル」を紹介する7Sとは以下の7つの項目の頭文字をとっている。
【図表2】 マッキンゼーの「7Sモデル」
(1)戦略(Strategy)
マクロ環境(政治、経済、社会、技術)や、業界、市場、競合の変化を受け、あるいは変化を見越して、自社のとるべき戦略が変わる。この戦略変更が変革の起点となる。
(2)組織(Structure)
戦略変更に伴い、実行する際に求められる組織を変更する場合がある。例えば、組織を事業部制やカンパニー制、持ち株会社へ変更することなどが挙げられる。
(3)社内の仕組み(Systems)
戦略変更に伴い、経営システムを変更することも多い。例えば、人事・評価制度で成果主義やコンピテンシーによる評価や、管理会計としてBSC(バランスト・スコア・カード)を導入するなどである。
以上のStrategy、Structure、Systemsの3つのSは「ハードのS」と呼ばれ、経営陣の意思決定によって変更できる部分である。しかしその意思決定を行い、ハード面を変更・導入したとしても、その企業で働く社員はすぐには変わらない。そこで、以下の「ソフトのS」が重要になってくる。
(4)人材(Staff)
人材が持つ技能や知識は、そのビジネスで求められる人材像に基づき、採用や育成、業務での経験を通じて長期間にわたって培ったものである。現在自社が抱える人材は、過去数十年にわたる人材の採用・配置・評価・育成の取り組みの結果である。そのため環境変化に伴い、グローバル化への対応が求められることになったとしても、急に「グローバル人材」を増やすことはできない。
(5)社内のノウハウ(Skills)
人材の蓄積を通じた社内のノウハウも同様である。突出した企業には、自他ともに認める強みがある会社も多い。例えば「技術の日立」「営業力のリクルート」と聞いてピンとくる方も多いだろう。
(6)経営スタイル(Style)
その企業特有のビジネスの進め方である。トップダウン、上意下達で迅速に展開していくスタイル、現場からアイデアが出て自律的に動いていくボトムアップのスタイルが例として挙げられる。
(7)企業の価値観(Shared Value)
近年は、明文化された企業理念や「ウェイ」を持つ企業も多い。だがそれらが「額縁」に飾られているだけで、社員に浸透していなければ「共通価値観」とは呼べない。例えば、外資系ホテルチェーンのリッツカールトンが顧客サービスに、トヨタ自動車がカイゼンにかけている熱意のように、全社員に共通の価値観として浸透させていくことが重要である。
これらのStaff、Skills、Style、Shared Valueの4つは、「ソフトのS」と呼ばれるものである。変革を推進する場合、戦略の転換、組織構造の変更、新しいシステムの導入を行うだけでは企業は変わらない。新しい価値観を共有し、必要なスキルを身につけ、新しい仕事の進め方、スタイルを確立していかなければならない。これは経営者の意思決定だけでは実現できない。変革には、経営者のリーダーシップやコミュニケーション、人事施策としての組織、制度変更、さらには採用・配置・評価といったプロセスも重要だが、それだけではなく、変革に対応できる人材を育成し続けることも重要である。
※労政時報に掲載された内容をGLOBIS知見録の読者向けに再掲載したものです。