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組織変革を進めるための2つの重要アプローチ

投稿日:2015/08/05更新日:2019/08/15

「変革」を進めるために~組織変革に関する理論~

変革を成し遂げるためには、ただやみくもに取り組むのではなく「手順」が必要である。ここでは変革の進め方を理解するために、心理学者クルト・レヴィン、経営学者ジョン・コッターが提唱した2つのプロセスを紹介する。

レヴィンの「解凍」「変革」「再凍結」のプロセス

心理学者のレヴィンによれば、変革の成功には「解凍」「変革(移動)」「再凍結」という3つのプロセスが必要であるという。変革に対する抵抗が起こるのは、現状が「均衡状態」にあることが原因になっているケースが多い。このような均衡状態を打破する難しさについて、1981年、GEのCEOに就任したジャック・ウェルチは、引き継いだばかりの組織の階層の多さをセーターの重ね着に例えて表現している。「組織の階層もセーターと同じように遮断の役目をする。セーターを4枚重ね着して外に出れば、外がどれほどの寒さなのかを感じ取ることは難しい」

この均衡状態を打ち破るために必要なことが「解凍」である。解凍は、現状から離れた方向に行動を起こさせる「推進力」の増加と、既存の均衡した状態から離れることを妨害する「拘束力」の低下によって実現される(これらを同時に行う場合もある)。

前述のウェルチはGEの組織を家屋にも例えている。「床が階層、壁が部署間の障壁である。組織の力を最大限に生かすためには、床や壁を吹き飛ばし、地位や部署にかかわりなくアイデアを自由にやり取りできる開かれた雰囲気の空間を作らなければならない」というものだ。このような解凍を行うことで、新しい「変革」を導入することが可能となる。しかし、変革の導入だけで止めてしまうと変革が短期に終わり、従業員が以前の均衡状態に逆戻りする。このため、最後に1度導入された変革を長期間維持するため「再凍結」を行うことが求められる。この「再凍結」こそが、まさに組織変革のプロセスである。

GEでは4つの価値とそれを実現するための8つの行動規範を「GEバリュー」と呼んでいる。このGEバリューを実践するための象徴がコーポレート・ユニバーシティ(企業内大学) の「クロトンビル」である。GEの人材育成に対する取り組みはすさまじく、今でも年間10億ドルを人材育成に投資し、「GEバリュー」の実現に向け、たゆまぬ努力を継続している。

コッターの8段階のプロセス

レヴィンの3段階のプロセスから、さらにプロセスを丁寧に示したものとして、ハーバード・ビジネス・スクールのジョン・コッターによる「8段階のプロセス」がある(図表1)。コッターは、80年代以降のアメリカ企業の多くの失敗した変革事例(戦略の転換、リエンジニアリング[業務プロセスの抜本的見直しと変更]、事業再編、社風の改革など)を分析し、失敗原因と対処法を体系化した。

では、大規模な変革が失敗に終わる主な原因とは何だろうか?コッターは、以下の8つであると主張し、これらを「つまづきの石」と呼んでいる。

・内向きな企業文化
・官僚主義
・社内派閥
・相互の信頼感の欠如
・不活発なチームワーク
・社内外に対しての傲慢な態度
・中間管理層のリーダーシップの欠如
・不確実に対する恐れ

この「つまづきの石」を乗り越え、大規模な変革を推進するためには、以下の8段階のプロセスが有効であると主張する。グローバル化やイノベーションに取り組む多くの日本企業にも参考になるものだ。

【図表1】 コッターの8段階のプロセス

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(1)危機意識(緊迫感)を高める
市場と競合の状況を分析し、自社にとっての危機や絶好の成長機会を見つけ、検討していくことにより、変革に携わる関係者の間で「危機意識」を生み出すことができる。これがまず、変革を成功させる第1ステップになるとコッターは強調する。ただし、「危機意識」の持ち方には注意が必要である。バブル経済崩壊後、多くの日本企業の経営者は「危機意識」を高める言動をした。危機意識を持ち、難局を乗り切ろうとする取り組みの結果、企業によっては終身雇用の神話はなくなり、年功序列型の人事制度は退潮して成果主義が導入された。採用抑制や早期退職により社員数を減らしていった結果、1人当たりの抱える業務量は増え、かつ給料は増えないという状態も見られた。

一橋大学大学院商学研究科の守島基博教授は、これらの状況を踏まえ、「バブル経済崩壊からの復活過程で最も効果的だった経営要素は『従業員の我慢』であった」と主張する(『人材の複雑方程式』日本経済新聞社)。

1993年、経営危機に陥っていたIBMに乗り込み、大規模な変革を成し遂げたルイス・ガースナーは、「わたしは危機感を持っていない。わたしが持っているのは緊迫感であり、事業が好調な時も不調な時も、いつも変わらず持っている」と語っている(『巨象も踊る』日本経済新聞社)。コッターの8ステップにおいて真っ先に登場する「危機意識」は、原文では「Sense of Urgency」である。「危機意識」とする日本語訳が定着しているが、ガースナーのように「緊迫感」と捉えたほうがよいだろう。なぜなら、たとえ事業が危機的状況にない(好調な) 時であっても、失ってはならないものだからだ。

(2) 変革推進のために連帯するチームを築く
変革をリードするためには、十分なパワーを備えた変革の旗手を集めてチームを築いていくことが必要だ。変革推進チームには、変革を主導する上で必要となるスキル、人脈、信頼、評判、権限があることが望ましい。

このように、プロジェクト・チームを作り、経営課題に取り組む組織は多い。ところで、ここでいうチームとは何だろうか。「チーム」と似ている概念として「グループ」があるが、その違いをえてみよう。

グループは、各自の責任を遂行することをお互いに助け合うことが目的であり、主に情報を共有して、自らの意思決定を下すために交流する集団であると言えるだろう。一方、チームはメンバー間の協調を通じてプラスの相乗効果、シナジーを生むものである。それぞれの個人が投入する努力の総和よりも高い業績水準をもたらす集団の在り方だ。

(3)ビジョンと戦略を生み出す
では変革チームは何を行うのか。変革に導くためにビジョンを生み出し、ビジョンを実現するために戦略を立案することが最大の役割だろう。成功した変革では、変革推進チームが簡潔で心躍るビジョンや戦略を策定している。

コマツを変革した坂根氏は新商品開発に当たり、平均点主義を捨て、自らの得意分野を徹底的に伸ばすことで商品としての独自性を生み出し、ブランドの認知を高めるという戦略をとった。社内でこのような新商品開発を行うに当たり、坂根氏は「ダントツ商品」というスローガンを掲げる。「ダントツ商品」とは、いくつかの重要な性能やスペックで競合が数年たっても追いつけないような際立った特徴を持ち、これまでの製品と比べて原価を10%以上引き下げ、そのコスト余力をダントツ性の実現に振り向けるという条件を満たしたものである。その結果、ハイブリッド建機といったヒット商品を生み出した。

さて、ではビジョンとは何だろうか。コッターはビジョンを「将来のあるべき姿を示すもので、なぜ人材がそのような将来を築くことに努力すべきなのかを明確に、あるいは暗示的に説明を加えたもの」と定義する(『企業変革力』日経BP社)。さらに優れたビジョンに備わる特徴として、以下の6つを挙げている。

・眼に見えやすい(将来がどのようになるのかがはっきりした形で示されている)
・ 実現が待望される(従業員や顧客、株主などステークホルダーが期待する長期的利益に訴えている)
・実現可能である(現実的で、達成可能な目標から生み出されている)
・方向を示す(意思決定の方向をガイドするために、明確な方向が示されている)
・柔軟である(変化の激しい状況において個々人の自主的行動とさまざまな選択を許容する柔軟
性を備えている)
・コミュニケートしやすい(5分以内で説明することが可能である)

コマツの「ダントツ商品」というスローガン、そしてそれに伴ういくつかの特徴は、コッターの言う優れたビジョンの要素を備えていたのである。

(4)変革のためのビジョンを周知徹底する
シンプルで琴線に触れるメッセージをいくつものチャネルを通して伝えることで、ビジョンや戦略を周知徹底する。あらゆる手段を活用して継続的に新しいビジョンと戦略をコミュニケートすると同時に、変革推進チームのメンバー自らが、従業員に期待する行動のモデルとなることも重要である。

(5)従業員の自発を促す
ビジョンが周知徹底されることで自発的に行動する人が増えていくが、この変革を阻む障害を取り除くことが重要である。障害となり得る組織構造やシステムを変革することで、従業員がリスクをとり、今まで遂行されたことのないアイデア、活動、行動の促進が可能となる。なお、組織構造の変更やシステム(人事システムや管理会計など)の変更については、後述する。

(6)短期的成果を実現する
業績上で眼に見える短期的勝利を生む計画を立案し、実際に短期的勝利を生み出す。これらの短期的勝利に貢献した人々をはっきりと認知し、報いを与える。例えば、日産自動車はカルロス・ゴーンがCEOに就任し、劇的な業績回復を見せ、「V字回復」と呼ばれた。短期的に成果の見込めるコストカットを行い、その成果をテコに変革に取り組んだ事例である。

(7)成果を生かしてさらなる変革を推進する
短期的な成果をテコとして変革に勢いをつけ、変革のビジョンになじまないシステム、構造、制度を変革する。また、変革ビジョン推進に貢献する人材の採用、昇進、能力開発を行い、当初の変革を定着させる。

変革に際して人事部門の取り組みとして、組織改編や人事制度変更があるが、ハード面だけに取り組むのではなく、今後の変革をさらに推進することに必要な採用・配置、能力開発が重要なイシュー(論点)となる。

(8)新しい方法を企業文化に定着させる
変革ビジョンに基づいた新しい方法と企業の成功の関係を明確に示し、各階層のリーダーが変革を根づかせる。また、リーダーや後継者の育成を進めていくことで、変革を企業文化として定着させる。企業として成功パターンが見えてきた段階で、企業文化やウェイが重要になってくる。これらの浸透活動には終わりはない。なお、コッターはこの8段階について、第1段階から順を追って進めることが重要で、途中のプロセスを飛ばしてはいけないとも主張している。変革に向けたビジョンを掲げ、組織・制度変更を行っただけでは、まだ変革のスタートにすぎない。8番目のステップである企業文化への定着や、レヴィンの「再凍結」までを成し遂げて、初めて変革が実現するのである。そして、その変革の後半のステップでは、人事的な施策・活動がより重要になってくる。

労政時報に掲載された内容をGLOBIS知見録の読者向けに再掲載したものです。

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