事業環境(どのような環境条件下で誰と戦うのか? 機会と脅威は何か?)
企業は真空の中に存在するのではなく、日々変化する環境の中にいる。環境の変化を捉え、いかにそれに「適応」しながら、「企業目的、理念、成果目標」を達成するのか。そのためには、事業環境をしっかり把握、予想しなければならない。
企業を取り巻くマクロ環境を捉える視点としては、PEST分析(政治[Politics]・経済[Economics]・社会[Society]・技術[Technology])が有名だ。ただし漫然と状況を概観しても有用な示唆は得られない。「戦いの場のゲームのルールに影響を与える要素は何で、どう変化するのか?」「どのような機会があり、どのような脅威があるのか?」という重要な2つの問いを意識し、環境変化の「意味」を読み解くことが重要だ。
その際、さまざまな環境要因を、「需要・顧客に与える影響」「競争の在り方への影響」「事業活動の在り方への影響」という視点、順番で見ていくとよい。まずはさまざまな環境変化が消費者の生活や顧客企業の戦略にどのような影響を与えるのか、求められる製品やサービスはどのように変わり、その需要と供給はどのように変化するのかを押さえる。
そして、その変化を受け、また経済の状況、技術の進化、規制の変化などにより、企業間の競争がどのように変化するかを考える。新規参入者や代替品も含め、競争は厳しさを増すのか? という観点から、どのような競争に変化するのかを押さえていく。さらに、さまざまな変化が既存の「産業」の定義を変え、結果として「何をめぐっての競争か?」自体が大きく変化する可能性に目を配ることが重要だ。その意味では、広くバリューチェーンの川上、川下を含め、どのような変化が生じ、誰と、誰が、何をめぐって競争、そして協働していくのかを考えていく。
たとえば、テレビ製造業界では、かつては部品から最終製品までを製造販売する完成品メーカーが画面の大きさや画質、そして価格をめぐって競争を繰り広げてきた。しかしデジタル技術の進化によりテレビの製品特性が変わり、液晶パネル等キーデバイス製造企業間の技術/コストの競争がメインになった。これにより、製品企画とマーケティングに特化した企業の参入が可能になるなど、業界構造も変化してきた。
こうした認識に基づき、「事業活動の在り方への影響」を考えてみよう。ここでは主に、さまざまな経済状況や規制等が企業の「活動の仕方(どこで、誰が、何を、どのように行うのか)」にどのような影響を与えるのか。そして、企業が調達する「経営資源」、すなわち資金、原材料やエネルギー、従業員など人的資源、そして情報等がどういった変化・影響を受けるかを押さえていく。
たとえば、TPP (環太平洋パートナーシップ協定) など自由貿易の進展は、国家間のモノの動きのハードルを低くし、バリューチェーンの各活動について国を跨いで最適に配置する事業モデルを促進するだろう。また、中国における平均給与水準の上昇は、既に多くの企業に中国、さらにはグローバル戦略の見直しを迫っている。そして、今後各国の環境規制や知財法制がどうなるかによって、開発、生産、販売をどの国で展開するかという大きな判断に影響を与えることになる。
変化し続ける「事業環境」に適応しながら、「目的・理念・期待成果」をいかに実現するかを定めるのが「経営戦略」だ。下記に示した(3)~(6)の4つの階層全体で、企業の「持続的な競争優位性」をつくろうとする施策の集合体を、ここでは経営戦略と捉えることとしたい。
次回は、(3)市場・顧客の選択(「どこで」「誰の」「どんなニーズに」応えるのか?)について。
※労政時報に掲載された内容をGLOBIS知見録の読者向けに再掲載したものです。