前回の説明でも明らかなように、この考え方では、それぞれの論点が上下に整合性をもって繋がっているかが最も重要であり、論点項目ごとに事象を整理しただけではまったく意味がない。では、それぞれの部分を詳しく見ていこう。
目的・理念・期待成果(「何のために」「何を」目指すのか?)
まず確認、明確にすべきは、企業の目的、理念だ。自社は何のためにこの世に存在するのか、さまざまな利害関係者に対してどういった価値を提供し、社会に対しどのような貢献をしたいのか。企業の存在意義であるミッション、実現したい状態であるビジョンを明確に定義、認識する。
そして、将来にわたるキャッシュフローを最大化し、企業価値を高めるために、適切な財務的目標を設定し、収益性、成長性、効率性、安全性をバランスよく高めていくことが求められる。優れた企業は財務的成果の実現に強いこだわりを持つとともに、その先にある社会貢献、すなわち顧客、取引先、地域社会、従業員などステークホルダーに対する責務、また企業活動が社会、環境に与えるさまざまなインパクトを考慮し、目標・方針を明確にしている。特に日本では、近江商人の商道徳として有名な「三方良し」(売り手良し、買い手良し、世間良し) の考え方の伝統もあり、こうした目的の置き方に共感を覚える方も多いだろう。
ただし、多くの企業が企業理念やミッション、ビジョンを明文化しているものの、「具体的で」「その企業ならではの個性」が十分に表現され、多くの関係者がそれを自身の目標、判断基準として意識できているかどうかという点では、心もとない場合も多い。今後、企業の活動がよりグローバル化し、多様な価値観を持つ従業員、関係者が増えることとなる。顧客をはじめとするステークホルダーが、企業の製品・サービスだけでなく、「企業の姿勢そのもの」を重視するようになる中で、「われわれは何のために、何を目指すのか」を明確に示していくことが求められる。経営には多様な選択肢が存在し、さまざまなトレードオフ(二律背反) が発生するケースがある。その中で何を重視して何を選ぶのか、最終的にそれを決めるのは、「企業目的、理念、期待成果」にほかならない。
次回は、(2)事業環境(どのような環境条件下で誰と戦うのか?機会と脅威は何か?)について
※労政時報に掲載された内容をGLOBIS知見録の読者向けに再掲載したものです。