映画を通じて人や組織のマネジメントを紹介する本連載「シネマで学ぶ組織論」の第3回は、「オーシャンズ11」。好業績チームの条件を紹介します。
ブラピやクルーニーに教えてもらうチームマネジメント
こんにちは。林恭子です。
さて今回は、映画「オーシャンズ11」を観ながら、「チーム」というものについて、改めて考えてみたいと思います。チームという言葉を使わない日がないくらい、私たちビジネスパーソンにとって馴染み深いテーマですよね。ほとんどと言って良いくらい、私達の多くが何らかのチームに属していると思います。でも改めて「チームとは一体、何?」と問われたら、あなたは何と答えますか?
映画「オーシャンズ11」は、2001年公開の作品です。1960年に公開された、「オーシャンと十一人の仲間」のリメイク作品でもあります。ブラッド・ピットやジョージ・クルーニー、ジュリア・ロバーツなどなどハリウッドの大看板が、名匠スティーブン・ソダーバーグ監督のタクトで怪演を繰り広げる、「オールスター大感謝祭」のような、何とも楽しい一本です。
刑期を終えて出所した大泥棒オーシャン(ジョージ・クルーニー)は、10人の仲間達と、ラスベガスの巨大カジノから大金を盗み出すという壮大な“プロジェクト”に乗り出します。綿密な計画を立て、ハイテクで完全防備された地下金庫に挑む。怪盗ものの王道娯楽映画ですが、組織論の観点から観察すると、色々な示唆があるのです。
チームとは何か
さて、それでは改めて、チームとは何なのか、考えてみましょう。経営コンサルティング会社マッキンゼーなどで活躍していた経営コンサルタント、ジョン・R・カッツェンバックは、こう定義しています。
「チームとは、共通の目的、達成すべき目標、そのためのアプローチを共有し、連帯責任を果たせる補完的なスキルを備えた、少人数の集合体である」
更にもうちょっと踏み込んでみましょう。
少人数の集合体といっても、チームはグループとは違います。グループも、もちろん共通の目的のために集まる人々のことを指しますが、その業績は、個々のメンバーの貢献の総和に過ぎません。一方、チームは、協調を通じてプラスの相乗効果(シナジー効果)を生み、個々人の努力は個々人の投入量の総和よりも高い業績水準をもたらします。チームとして働くことによって、個人個人で働く時よりも、はるかに大きな力を生み出すことができる、ということです。
そして、好業績をあげるチームには、一定の共通した特徴があるとされます。それでは、どんな特徴があるチームが好業績を上げるのか、オーシャンの「窃盗団プロジェクトチーム」と照らし合わせながら、順に見ていきましょう。
好業績チームの特徴とは
好業績チームの特長としてまず挙げられるのが、チームの規模です。優れたチームは小規模なことが多く、12人を上回る人数になると、多くのことを成し遂げるのが困難になるとされます。
オーシャンのチームはというと……。リーダーのオーシャンを含めてメンバーの人数は11人。なるほど、ここは大丈夫そうですね。
次に、スキルです。メンバー1人1人が高いスキルを持っていることが必要です。そして同時に、チームとして相互補完的なスキルが揃うことが求められます。どんなに能力が高くても、同じスキルの人ばかりが集まっていては、シナジー効果は期待できませんものね。
さて、オーシャンのメンバー達はというと……。いずれも、オーシャンと右腕のラスティ(ブラッド・ピット)が見込んでスカウトしてきた、ハイスキルな面々です。スリのライナス、イカサマ・ディーラーのフランク、爆破担当のバシャー、運転担当のモロイ兄弟、軽業師のイエンに、電機・通信のプロ・リビングストン、往年の詐欺師ソール、そして実業家で業界通のルーベン。よくもまあ、これだけ怪しげ……もとい、多様なスキルのメンバーを揃えたものですね。ここも、大丈夫と考えて良いでしょう。
そして大切なのが、目的と目標の設定です。チーム全体としても、メンバー個人としても、納得できる目的を追求できることが肝要です。かつ、具体的な目標が設定されなくてはなりません。チームの目的と具体的な目標を組み合わせることは、業績を達成するための必要条件であり、これがしっかり認識されていれば、メンバー間に連帯感と責任感が生じやすくなります。
オーシャンのチームの目的は、「大金を手に入れて、山分けし、各々が幸せな人生を送る」こと。皆が協力しない限り大金は手に入りませんので、チームと個人の利害が一致する目的と言えます。そして目標は、「3大カジノの金が集まる巨大金庫室から1億6000万ドルを盗む」こと。極めて具体的ですね。その後の実行計画も、オーシャンにより綿密に設計されていきます。問題は、その「超」がつくほどの難度の高さな訳ですが……。
そして、忘れてならないのがリーダーシップ。多様なメンバーを束ねて、重点と方向性を示すリーダーシップが必要です。役割配分、スケジュール設定、コンフリクト解決、意思決定にその修正と、すべきことは沢山あります。
経験豊富で全体感あるオーシャンの采配はバランスが取れていますし、特筆すべきは、彼をサポートするメンバー達のサブ的なリーダーシップです。実務で機敏に現場を仕切るラスティの活躍や、ルーベンの深い人生経験からのフォローが、このチームを目指す方向へと走らせて行きます。
また、適切な業績評価と魅力的な報酬も重要です。今回のオーシャンのチームは、基本的に各々が担当業務を遂行し、チームの最終目標が達せられれば、等分の利益を得られることになっています。もちろん、報酬は大金。それの魅力もさることながら、彼らにとっては、この壮大なプロジェクトに参加し、強権的で悪名高いカジノのオーナー、ベネディクトの鼻をあかして、歴史的な偉業(?)を成し遂げることそのものが、何とも言えない魅力的な報酬だとも言えるでしょう。
最後に、無くてはならないのが、相互の信頼関係です。曲者揃いのオーシャンのチームは、どうやって信頼関係を築いていったのでしょうか。チームの発展段階という視点で、この問題を考えてみましょう。
チームには発展段階がある
心理学者のタックマンは、集団やチームには、ある一定の発展段階があると言っています。まずは、形成期(Forming)。それまで接触の無かったメンバーが顔をあわせ、共通の目的等を互いに模索している状態です。次に、激動期(Storming)。だんだん互いに目的、役割と責任等について主張が出てきて、関係性が乱れる時期です。ここが乗り切れると、規範形成期(Norming)に入ります。他人の考え方を受容し、目的、役割期待等が一致しチーム内の関係性が安定してきます。ここまで来れば、次の実行期(Performing)で結束力と一体感が生まれ、チームの力が目標達成に向けられることになります。そして最後に終了期(Adjourning)。目的の達成等によりチームが散会となる時期です。
オーシャンのチームにも、この発展段階が見られます。初めて一堂に会したメンバー達は、計画を聞きながらも内心、「本当にこんなことできるの?」と半信半疑な形成期の状態にあります。その後、準備が進む最中、ビル倒壊による回線アクシデントや、オーシャンの隠された目的が明らかになったり、イエンが怪我をしたりと予想外の出来事に振り回されながら、メンバー達に苛立ちが募っていきます。激動期ですね。でも、流石に皆、ただ者ではありません。ぎりぎりの状態でも踏ん張るそれぞれのプロ意識を見て、徐々に互いに認め合い、信頼し合う規範が形成されていきます。そして士気は高まり、しっかりとフィニッシュに向け実行期を進んでいきます。
さて、よく、チームの話をすると、「そりゃオールスターメンバーを集めてくれたら、上手くいくでしょう。でも、会社がそんな人材を揃えてくれること、滅多に無いじゃないの」という声を聞くことがあります。まさに、現実にはその通りですよね。でも、完全無欠のオールスターメンバーでなければ好業績チームにはなれないのでしょうか?
オールスターでなくていい
前述のカッツェンバックらの調査からは、面白いことがわかっています。彼らが調べた数十の成功チームの中には、メンバー達が最初から必要なスキル全てを身に着けていた例はなかったそうです。しかし、チームとして目標に向け疾走する中で、メンバー達は足りない技量を開発し、学習し、結果として高いパフォーマンスを発揮するようになっていったのです。そう、人間は、成長するのです。
オーシャン達のチームにも、親譲りの才能はあるけれど、若く未熟なライナス(マット・デイモン)がいました。プロとして成長しきっていなかった彼が、今回のプロジェクトで辣腕のメンバー達に揉まれる事で一段大きく成長し、プロジェクトの成否のかかる重要な役割を担っていく様子は、私たちに何かを教えてくれます。例えオールスターでなくとも、潜在能力と学習能力の高いメンバーが頑張れば、素晴らしい好業績チームに成長できるということなのですね。
素晴らしい終了期
オーシャンのチームは色々な難題をクリアしながらピンチを切り抜け、とうとう、ある方法でカジノの金庫に眠る1億6000万ドルを獲得する、という目標を達成します。ハラハラする展開の続くこの映画で私が一番好きなシーンが、目的を達成した後のチームの終了期の場面です。
彼らは、プロジェクトの舞台となった超高級ホテル、ベラッジオの広大な噴水の前にいます。美しい音楽と光の中で、夜空に踊る水の輝き。達成感に満ちた表情でそれを見つめるメンバー達。やがて彼らは無言のまま、目を合わせ肩を叩き、一人、また一人と、この舞台から旅立って行くのです。
皆さんは、こんな素晴らしい終了期を味わったことはお有りでしょうか。有るという方は、本当に羨ましい限りです。こんな経験をしてしまったら、最初に掲げた、とんでもなく難しい目標を大変な思いをしてクリアし、チームが散会した後でも、すぐにまた、メンバーに会いたくなってしまうのではないでしょうか。
きっと、この映画を作った「チーム」のメンバーも同じ気持ちになったことでしょう。だからこそ、ついつい、「オーシャンズ12」(2005年公開)や、「オーシャンズ13」(2007年公開)を作ってしまったのかもしれません(笑)。いやぁ、チームって、いいもんですね。
次回はロバート・レッドフォードとブラッド・ピットの共演が話題となった「スパイ・ゲーム」を題材に、「メンター」について考えます。どうぞお楽しみに!