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累計10億本、森永乳業PARM(パルム)の売れ続けるヒミツ

投稿日:2012/08/31更新日:2019/04/09

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「大人向けの箱入りアイスを作る。それが最初の挑戦だったのです」。森永乳業の「PARM(パルム)」シリーズ、ブランド担当者は当時を振り返りながら、シリーズ開発の経緯を説明してくれた。

パルムが登場した2005年当時、“大人”が主なターゲットとなるプレミアムアイス市場は約9割という不動のシェアを「ハーゲンダッツ」製品に占められていた。ただ、パッケージの形態別で検討すると、マルチパック、つまり箱入りアイスは子ども向け、或いは親子向け商品が過半で、そこにホワイトスペースが存在した。

では、「大人向け」というポジショニングをどのように実現したのか。それは、製品(Product)と価格(Price)のバランスにおいて緻密に設計された。下の図を参照しながら読んでほしい。

当時の箱入りアイスは店頭価格300円が相場。森永乳業では、そこを50円あげて350円(当時)というターゲットプライスを設定した。それによって、バリュープロポジション(そのブランドや製品がとり得るポジションニングの前提となる相対的な提供価値の分類)を明確にする「高価値戦略」狙いである。

「価格のわりに、価値は高い」とお客に感じさせるため、製品開発は徹底したこだわりとともに行われた。パルムは「なめらかな口どけのチョコレートとリッチなミルク感」を特徴とした商品だ。それを実現するために、「原材料はプレミアムアイスクリームと同様のクリーム・脱脂濃縮乳を使っている」(ブランド担当者)。これを急速冷凍などの技術で加工し「氷の結晶の細かいなめらかなアイスを実現した」(同)という。そして何より、アイスクリームを包むチョコレートを体温と同じ温度で溶けるようにコントロールすることで、口に入れた瞬間になめらかに溶ける感覚を作り出した。

2005年の発売時、最初の半年間はやはり350円という高めの価格が引っかかり苦戦を強いられたという。しかし、粘り強い店頭での試食プロモーションが奏功し、小売店の秋の棚替えの時期に棚をしっかりと確保して消費者の人気に順調に火がついていった。

発売後に実施した消費者に対する定性調査では、箱入りアイス以外のプレミアムアイスと比較しても遜色ない評価を得られた。ハーゲンダッツに代表されるプレミアムアイスは「週末に気合いを入れて食べる」という用いられ方をする。それに対し、6本入りのパルムは「平日に家の中でゆったりと毎日食べる」という用いられ方をしていることも明らかになった。当初想定どおりのポジションにうまくはまっている。この消費者調査を受け、「毎日のちょっとした贅沢」=「デイリープレミアム」というメッセージも紡ぎ出された。累計10億本ロードが始まったのである。

続くコンセプトは「イエナカ・リゾート」

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その後パルムは年100億円の売上を達成するに至り、森永乳業の社内では新たな挑戦の機運が盛り上がってきた。「チョコ素材以外で、新たな顧客を創造しようと考えたのです」(同)。

「平日に家の中でゆったりと毎日食べる」。そんなパルムのコンセプトは十分に浸透し、独自のポジションは手に入れた。既存製品の主な顧客層は20〜30代の独身有職女性。ここからさらにお客を増やすため、次はどのようなシーンを狙うか。

毎年繰り返しやってくる猛暑。今年の夏も暑くなるだろうと予想して、開発チームは氷系のアイスに狙いを定めた。氷系のアイスといえば代表格は赤城乳業の「ガリガリ君」だろう。食べれば確実にカラダをクールにしてくれる。だが、それはどちらかといえば物性的な価値だ。対するパルムは「外から帰ってきて、家の中でゆっくりとしながらカラダも気持ちもクールダウンする」。そんなコンセプトが考案された。

新たな商品は、「PARM(パルム)ピュレコーティングオレンジ&バニラ」(右の写真)。なめらかなオレンジアイスとしっとりしたバニラアイスを、オレンジ果肉とオレンジピールを含む果汁で包んだアイスバーの誕生だ。それは、パルムのコンセプトである「毎日のちょっとした贅沢」=「デイリープレミアム」に、「リゾート」の要素を取り入れた新商品である。

面白いデータがある。森永乳業の調査によれば、実際に「パルムピュレコーティングオレンジ&バニラ」を食べた70%以上の対象者が「リゾート地に出かけたようなちょっとした贅沢な気分を楽しんでいる」という。そこから「イエナカ・リゾート」というメッセージが新たに設定された。

パルムの従来のターゲットが20〜30代の独身有職女性であるのに対し、ピュレコーティングオレンジ&バニラは40〜50代の中高生の子どもを持つ主婦がメイン。子どもが大きくなり、一緒に長期旅行をする機会も少なくなる。その「自分時間」を「イエナカ・リゾート」というコンセプトで狙っているのである。

リゾートを感じるパッケージ。「ガリガリ」ではなく、「しっとり」とした贅沢な食感。そしてすっきりとした味わいで従来のチョコ系のパルムともカニバリすることなく棲み分けが成立するスグレモノの商品なのだ。

プロモーションは寺尾聰をセレブレティーとしてテレビCMをスポットで投下したが、それ以上に口コミが効果を発揮した。試食会などで実際に口にしたファンがfacebookやTwitterなどSNSで自ら情報を拡散し始めたのである。これにより、根強いパルムのファンからの支持も証明された。

現在、パルムブランドはアイスクリームの業界で5位だという。その中で、「男性を取り込んでいくのが課題なんです」と担当者は今後の課題を語った。パルムのブランド認知率はまだまだ低く、特に男性のそれが低いという。パルムの最大の武器は「デイリープレミアム」という明確なコンセプトだ。それをどのように男性向けに展開していくか。今後も挑戦は続く。

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