修正内部収益率法(MIRR法)とは - より現実的な投資評価を実現する改良手法
修正内部収益率法(MIRR法:Modified Internal Rate of Return Method)とは、プロジェクトから得られるキャッシュフローを現実的な利率で再投資することを前提として内部収益率を求める投資評価手法です。
従来の内部収益率法(IRR法)では、プロジェクトで発生したキャッシュフローをすべてIRR自体と同じ利率で再投資するという非現実的な前提がありました。MIRR法は、この問題を解決するために開発された改良版の評価手法で、より実際の事業環境に即した投資判断を可能にします。
MIRR法では、プロジェクトから生み出されるキャッシュフローを現実的で実現可能な利回りで運用するものとして計算を行います。これにより、企業の実際の投資環境により近い条件での評価が可能になるのです。
なぜMIRR法が重要なのか - 投資評価の精度を高める現実的なアプローチ
企業が投資プロジェクトを評価する際、従来のIRR法だけでは十分とは言えない場面があります。MIRR法が重要視される理由は、現実的な投資環境を反映したより精度の高い評価を可能にするからです。
①現実的でない再投資前提の解決
従来のIRR法では、プロジェクトで発生した全てのキャッシュフローを、算出されたIRRと同じ利率で再投資することが前提となっています。しかし、これは多くの場合非現実的です。
例えば、あるプロジェクトでIRRが20%と算出されたとしても、実際に毎年発生する1000万円のキャッシュフローを年率20%で運用し続けることは困難です。多くの企業では、このようなキャッシュフローを銀行預金(年率1-3%程度)で運用したり、他の投資機会(年率5-10%程度)に振り向けることになるでしょう。
②投資判断の信頼性向上
MIRR法を活用することで、企業は自社の実際の資金運用能力や市場環境を考慮した投資評価が可能になります。これにより、投資委員会や経営陣における意思決定の根拠がより確実なものとなり、投資失敗のリスクを軽減できます。
現実的な再投資利率を用いることで、プロジェクトの真の収益性をより正確に把握でき、限られた資源を効率的に配分する経営判断をサポートします。
MIRR法の詳しい解説 - 計算手順と従来手法との違い
MIRR法を理解するためには、その計算方法と従来のIRR法との具体的な違いを把握することが重要です。ここでは、MIRR法の仕組みを段階的に解説していきます。
①従来のIRR法の問題点
IRR法は投資評価手法として広く使われていますが、いくつかの課題を抱えています。最も大きな問題は、発生したキャッシュフローをIRR自体の利率で再投資するという前提です。
具体例で考えてみましょう。あるプロジェクトで毎年1000万円のキャッシュフローが発生し、IRRが15%と計算されたとします。IRR法では、この1000万円を毎年15%の利率で運用し続けることが前提となっています。しかし、実際には企業がこの資金を年率3%の預金に回したり、別の投資機会に振り向けることがほとんどです。
このような非現実的な前提があるため、IRR法による評価結果と実際の投資成果に大きな乖離が生じる可能性があります。
②MIRR法の基本的な考え方
MIRR法では、プロジェクトから得られるキャッシュフローを企業が実際に達成可能な現実的な利回りで再投資するものとして計算します。この現実的な利回りは、企業の資金調達コストや市場で実現可能な運用利回りを参考に設定されます。
例えば、前述のプロジェクトの場合、毎年の1000万円を年率7.5%で運用できると仮定します。そして、各年のキャッシュフローがプロジェクト最終年にどれだけの価値となるかを計算し、これらを合計してターミナルバリュー(TV)を求めます。
③MIRR法の計算手順
MIRR法の計算は以下の手順で行います:
まず、プロジェクトの各年で発生するキャッシュフローを現実的な再投資利率で最終年まで複利運用した場合の価値を計算します。これらの合計がターミナルバリュー(TV)となります。
次に、以下の式を使ってMIRRを計算します: PVコスト = TV/(1+MIRR)ⁿ
ここで:
- PVコスト:プロジェクトにかかる投資額の現在価値
- TV:プロジェクトから得られるすべてのキャッシュフローの最終的な価値の合計額
- n:プロジェクトの年数
- MIRR:修正内部収益率
この式からMIRRを逆算することで、現実的な再投資条件を考慮した収益率が算出されます。
MIRR法を実務で活かす方法 - 効果的な投資判断への活用
MIRR法は理論的に優れた手法ですが、実際のビジネスでどのように活用するかが重要です。ここでは、実務における具体的な活用方法と注意点について解説します。
①プロジェクト投資の意思決定での活用
企業が新規事業投資や設備投資を検討する際、MIRR法は特に有効です。例えば、製造業での生産設備更新プロジェクトを考えてみましょう。
従来のIRR法では、設備投資により削減されるコストや増加する売上から生まれるキャッシュフローを、算出されたIRRで再投資するものとして評価していました。しかし、実際には企業はこのような資金を債務返済に充てたり、より安全な運用を選択することが多いでしょう。
MIRR法を用いることで、企業の実際の資金運用方針に基づいた再投資利率(例:年率5%)を設定し、より現実的な投資収益率を算出できます。これにより、投資委員会での議論がより具体的で建設的になり、適切な投資判断が可能になります。
②複数プロジェクトの比較評価
企業が限られた資金で複数の投資機会から選択する際、MIRR法は優れた比較ツールとなります。従来のIRR法では、異なる規模やキャッシュフロー パターンを持つプロジェクト間の比較が困難でしたが、MIRR法では統一的な再投資前提で評価できるため、より公平な比較が可能です。
例えば、短期間で高いリターンを生み出すプロジェクトAと、長期間にわたって安定的なキャッシュフローを生み出すプロジェクトBを比較する場合、両方に同じ再投資利率を適用することで、真の収益性を比較できます。
実務では、企業の加重平均資本コスト(WACC)や市場の国債利回りなどを参考に適切な再投資利率を設定し、各プロジェクトのMIRRを算出して比較します。この結果に基づいて、最も企業価値向上に寄与するプロジェクトを選択できるのです。
また、MIRR法を活用する際は、再投資利率の設定根拠を明確にし、関係者間で合意を得ることが重要です。この利率設定により結果が大きく変わるため、企業の実際の資金調達環境や運用方針を十分検討して決定する必要があります。