経済価値とは - 企業の生き残りを左右する重要な指標
経済価値(Value)とは、企業が持っている「ヒト・モノ・カネ」といった経営資源やケイパビリティが、外部環境の脅威を無力化し、むしろそれを事業拡大の機会として活用できる力のことです。
この概念は、リソース・ベースト・ビュー(RBV)の観点から戦略論を発展させたジェイ・B・バーニーが提唱するVRIOフレームワークの最初の項目として位置づけられています。経済価値は、企業が競争に勝ち残るために最初に問うべき根本的な問いかけなのです。
なぜ経済価値が重要なのか - 変化の激しい時代を生き抜く力
現代のビジネス環境は、技術革新、グローバル化、消費者ニーズの多様化など、めまぐるしい変化に満ちています。このような環境では、単に優れた商品やサービスを提供するだけでは十分ではありません。重要なのは、環境の変化を脅威ではなく機会として捉え、自社の資源を活用して競争優位を築く力なのです。
①外部環境の変化を味方につける力
経済価値を理解し活用できる企業は、業界を揺るがすような大きな変化が起きても、それを新たなビジネスチャンスに変える力を持っています。例えば、デジタル化の波によって従来のビジネスモデルが通用しなくなった時でも、自社の強みを活かして新しい価値創造の方法を見つけることができます。
②競合他社との差別化を実現
経済価値の観点から自社の資源を見直すことで、競合他社には真似できない独自の強みを発見できます。これにより、価格競争に巻き込まれることなく、持続的な競争優位を築くことが可能になります。
経済価値の詳しい解説 - VRIOフレームワークの土台となる考え方
経済価値を深く理解するためには、まずVRIOフレームワーク全体の中での位置づけを把握する必要があります。VRIOフレームワークは、Value(価値)、Rarity(希少性)、Imitability(模倣困難性)、Organization(組織)の4つの要素から構成されていますが、経済価値はその最初の段階として極めて重要な役割を果たしています。
①具体的な問いかけの内容
経済価値を評価する際には、「自社の持つ経営資源やケイパビリティが、外部環境の脅威を無力化できるか?」「それらを活用して新たな機会を捉え、事業を拡大できるか?」という2つの問いかけを行います。
出版業界を例に考えてみましょう。電子書籍の普及により紙の本の需要が減少している状況で、出版社が持つ編集ノウハウ、作家との人脈、ブランド力などの資源を活用して、デジタルコンテンツの制作や配信プラットフォームの構築に取り組むことができれば、脅威を機会に変えることができます。
②自動車業界での実践例
自動車業界では、電気自動車の普及、途上国メーカーの台頭、為替変動といった様々な脅威に直面しています。しかし、技術力、ブランド力、販売網といった既存の経営資源を活用して、新たな市場ニーズに対応した商品開発や事業展開を行えば、これらの脅威を成長の機会に変えることが可能です。
例えば、トヨタはハイブリッド技術という独自の経営資源を活用して、環境規制の強化という脅威を競争優位の源泉に変えることに成功しました。
③「No」の答えが示す危険性
もし経済価値に関する問いかけに対して「No」という答えしか見つからない場合、その企業は深刻な危機に直面していることを意味します。外部環境の変化に対応できない企業は、市場から淘汰される可能性が高くなります。
このような状況を避けるためには、既存の経営資源の見直しや新たなケイパビリティの獲得、時には事業構造の抜本的な改革が必要になることもあります。
経済価値を実務で活かす方法 - 戦略策定の第一歩
経済価値の概念を実際のビジネスで活用するためには、体系的なアプローチが必要です。単に理論を理解するだけでなく、具体的な行動に移すための手法を身につけることが重要です。
①経営資源の棚卸しと評価
まずは自社が持つ経営資源を詳細に把握することから始めます。これには、有形資産(設備、技術、資金など)だけでなく、無形資産(ブランド、ノウハウ、人的ネットワークなど)も含まれます。
次に、それぞれの資源が外部環境の変化にどのように対応できるかを評価します。例えば、人工知能の発達という環境変化に対して、自社の技術者の専門知識や研究開発体制がどの程度有効かを分析します。
②シナリオプランニングの活用
将来起こりうる様々な環境変化を想定し、それぞれのシナリオに対して自社の経営資源がどのような価値を発揮できるかを検討します。これにより、不確実な未来に対する準備を進めることができます。
例えば、小売業であれば、「完全なオンライン化」「リアル店舗の復権」「オムニチャネル化の進展」といった複数のシナリオを設定し、それぞれに対する対応策を検討します。
③継続的な見直しと改善
経済価値の評価は一度行えば終わりではありません。外部環境は常に変化するため、定期的に見直しを行い、必要に応じて新たな経営資源の獲得やケイパビリティの開発に取り組む必要があります。
この際、社内の様々な部門や階層の人材を巻き込んだ議論を行うことで、より多角的な視点から経済価値を評価することができます。