コンプライアンスとは
コンプライアンス(compliance)とは、狭義では法令順守を指し、文字通り法律を守ることを意味します。しかし、現代のビジネス環境では、より広い意味で使われることが多く、「社会秩序を乱したり、社会から非難されたりする行動をしないこと」までを含む概念として理解されています。
つまり、単に法律を守るだけでなく、社会の期待や常識に応え、倫理的に正しい行動を取ることが求められているのです。コンプライアンスは、CSR(企業の社会的責任)の重要な部分を占めており、企業が持続的に成長していくための土台となる考え方といえるでしょう。
近年、企業の不祥事が社会問題化する中で、コンプライアンスの重要性はますます高まっています。企業にとって、法令順守は「当たり前のこと」から「競争優位の源泉」へと変化しているのです。
なぜコンプライアンスが重要なのか - 企業と社会を守る仕組み
コンプライアンスが注目されるようになった背景には、企業の利益追求行動が社会に与えた負の影響があります。バブル経済の崩壊や相次ぐ会計不祥事など、企業の行き過ぎた利益追求が社会的不安を招き、市民生活に大きな打撃を与えた歴史があります。
①社会からの信頼失墜リスクの高まり
現代では、利益や経済成長という「結果」だけでは、すべてが正当化されるわけではありません。企業は、どのように利益を得るかという「プロセス」についても、社会から厳しく評価される時代になっています。一度失った信頼を回復するには、長い時間と多大なコストがかかるため、予防的な取り組みが不可欠です。
②ステークホルダーからの期待の変化
顧客、投資家、従業員、地域社会など、企業を取り巻くステークホルダーの期待も変化しています。単に良い商品やサービスを提供するだけでなく、その企業が社会的に責任ある行動を取っているかどうかが、選択の基準となっているのです。
コンプライアンスの詳しい解説 - 表面的な対応から本質的な取り組みへ
コンプライアンスを深く理解するためには、その範囲と実践における課題を知る必要があります。多くの企業が直面している問題は、形式的な仕組みは整えたものの、実際の運用において課題を抱えていることです。
①狭義のコンプライアンスと広義のコンプライアンス
狭義のコンプライアンスは、法律や規制を遵守することに焦点を当てています。これには、労働法、環境法、独占禁止法、金融商品取引法など、業界や事業内容に応じた様々な法令が含まれます。一方、広義のコンプライアンスは、法律では明確に禁止されていないものの、社会的に問題とされる行為を避けることまでを含みます。
例えば、技術的には法律違反ではないものの、消費者を誤解させるような広告表現や、環境に配慮しない事業活動などは、広義のコンプライアンス違反といえるでしょう。
②内部統制とリスクマネジメントとの関係
コンプライアンス重視の流れと連動して、内部統制やリスクマネジメントも注目されるようになりました。これらはすべて、企業経営の透明性やチェック機能を高めることで、企業の暴走を防ぐことを目的としています。
内部統制は、業務の有効性と効率性、財務報告の信頼性、事業活動に関わる法令の遵守、資産の保全という4つの目的を達成するための仕組みです。一方、リスクマネジメントは、企業が直面する様々なリスクを特定し、評価し、対策を講じるプロセスを指します。
③経営陣の姿勢が決定的な要因
どのような仕組みを作っても、トップをはじめとする経営陣が倫理的行動の必要性を強く認識していなければ、それは機能しません。2007年から2008年にかけて日本で起きた数多くの「偽装事件」では、問題とされた企業の経営者の多くが「競争が厳しくて仕方がなかった」「顧客に迷惑をかけたわけではない」などの言い訳を繰り返しました。
この事例が示すように、コンプライアンスは単なる規則の遵守ではなく、経営者の価値観や企業文化に深く根ざした問題なのです。
コンプライアンスを実務で活かす方法 - 持続可能な仕組みづくり
コンプライアンスを実際のビジネスに活かすためには、具体的な場面での応用と、長期的な視点での仕組みづくりが重要です。
①日常業務でのコンプライアンス実践
実務においてコンプライアンスが重要となる場面は多岐にわたります。営業活動では、顧客に対する正確な情報提供や約束の履行が求められます。人事管理では、労働法の遵守はもちろん、ハラスメントの防止や多様性の尊重が重要です。
財務管理では、正確な会計処理と適切な情報開示が必要です。また、取引先との関係では、公正な取引条件の設定や、贈答品のやり取りにおける節度ある対応が求められます。これらの場面で、常に「法的に問題ないか」「社会的に受け入れられるか」という視点で判断することが重要です。
②組織全体でのコンプライアンス体制構築
個人レベルでの取り組みだけでなく、組織全体でコンプライアンスを推進する仕組みも必要です。これには、コンプライアンス委員会の設置、定期的な研修の実施、内部通報制度の整備などが含まれます。
特に重要なのは、「正直者がバカを見る」という状況を作らないことです。コンプライアンスを重視する企業や個人が不利益を被らないよう、評価制度や組織文化を整備する必要があります。同時に、行政や市民社会も、企業の過度な競争を煽るのではなく、節度ある行動を取ることが求められています。
現代のビジネス環境では、コンプライアンスは「コスト」ではなく「投資」として捉える視点が重要です。短期的には追加的な負担となっても、長期的には企業の持続可能性と競争力の向上につながる重要な取り組みなのです。