トヨタやセブン-イレブンに見る「経営と現場のギャップ」ー組織ギャップを埋める“結節点人材”へ Vol.1

2020年は、これまで我々がVUCA(※)と言う言葉から想像してきた以上の変化に囲まれた年となった。社会の変化があらゆる側面から、同時多発的に起きている現在、外部からの強い圧力で、方向性を大きく変化せざるを得ない状況になった企業も多いのではないだろうか。このような状況下で、企業で働く人々が似たような速度・認識で変化していくことが理想であるが、現実はそうはいかない。「経営と現場のギャップ」が今、あらゆる企業の中で深刻化している。この連載では、これらの状況を解決しうる新たなロールモデル「結節点人材」について、全5回にわたってお伝えしていきたい。

※:Volatility(変動性・不安定さ)、Uncertainty(不確実性・不確定さ)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性・不明確さ)の頭文字。あらゆる環境が目まぐるしく変化し、予測できない状態が続く時代を指す

本連載はグロービス経営大学院に在籍した5名(新谷、篠原、辻本、松田、本村)が、田久保善彦講師の指導の下、研究プロジェクトとして取り組んだ成果をまとめたものです。

外部環境の変化に合わせて企業が変わろうとしている時、発生しがちな「経営と現場のギャップ」。そのギャップが生じている時、お互いは、お互いに対してどのような認識を持つのだろう。経営側と現場側、両方の立場から見ていきたい。

経営側と現場側のお互いに抱く印象の違い

皆さんも自分が働く企業の中で、同じような印象をもっとことはないだろうか。どちらか一方のみに問題がある、ということではない。しかしこのような事象が多ければ多いほど、実は経営と現場の間に大きな溝ができて、組織が健全に機能しなくなっている可能性がある。

特に企業規模が大きければ大きいほどギャップが深刻化する可能性は強まる。イギリスの人類学者であるロビン・ダンバーの研究によると、人間が安定して関係性を維持できる組織の規模は150人程度だという。逆に言うと、150人以上の規模の組織になると、個人間の能力だけで全員とつながるのは難しくなる。これは、階層ができ、その間のやり取りが限定的になるためギャップが生まれるからではないかと推測できる。

近年のニュースにみる「経営と現場のギャップが招いた悲劇」の数々!?

近年、目にする個別企業に関するニュースの中にも、この「経営と現場のギャップ」について語られたものが散見される。図①は代表例を抜粋したものである。

2019年4月、セブン-イレブン・ジャパンの社長が交代した。(図①-f)前社長が退いた一番の理由は、大阪府東大阪の店舗が従業員不足を理由に時短営業をし、契約に反したとして違約金を要求したことに端を発した24時間営業問題。多くの加盟店との間に軋轢を生んだこの問題に対処できず、前社長はその立場を去らざるを得なくなった。この問題の根底にあるのは、チェーン加盟店が2万店を超え、より大きな組織になる中で、その実情を吸い上げ経営側に伝わらなくなっていたことである。

このように、経営が現場の実情や働き方に対する価値観の変化を理解していないことでギャップが生まれ、組織の内で健全な意思決定が行われず、多くの課題が生まれている。

経営側が時代の変化により感じている危機感と現場の危機感のギャップがもとでニュースとなったのが、2019年10月のトヨタの労使交渉にまつわる話だ。(図①-c)春闘は決裂し異例の秋季交渉までもつれ込んだ。

現場がモチベーション高く働けるように、激励やサポートをしていただきたい、という労働組合側の要求を出すと、寺師副社長はこう答えた。

「モチベーションの話は前回までも出ており、(中略)サポートは一生懸命するけれども、本当に『生きるか死ぬか』の時に、『モチベーションが上がらないので激励してほしい』という次元の話ではない。」「『モチベーション上がりませんけど』と議題になること自体、まだ僕たちは緊迫感が持てていないのではないか。」

豊田章男社長も最後に「今回ほどものすごく距離感を感じたことはない。こんなにかみ合っていないのか。組合、会社ともに生きるか死ぬかの状況が分かっていないのではないか?」と発言した。

「生きるか死ぬか」――自動車業界は年々販売台数を落としている。一方で自動運転などの技術が差別化要因になるなか、競争相手はかつての競合だけではなく、Googleなどのテック企業まで広がっている。

このように、外部環境に目を向ければ決して有利ではない状況に陥っている中で、危機感を募らせる経営側と、現場側の温度差を感じるエピソードだ。

変革時に露呈する「経営と現場の認識ギャップ」

実際に、経営と現場の認識の差を表す調査結果が多く示されている。

例えば、時代の変化に合わせて企業が変わっていかなくてはならないケースの一つとして、昨今のコロナ禍におけるテレワークの推進がある。Dropbox Japan 株式会社が実施した、『日本国内のナレッジワーカー/企業・組織の有職者 1,000 名を対象とした、テレワークに関する意識・実態調査』(図②)によると、『完全在宅勤務者の 3 割以上が 1 日 3 時間以上効率化されていると実感する一方、経営者~部長クラスの約 5 割は効果に懐疑的というデータがある。現場は有用性を感じている一方で、ウイルス感染防止の必要性に駆られてもなお、一部の企業への導入が進まない。その背景の一つとして、こういった経営側の認識の相違が阻害要因となっている可能性がある。

また、DX(デジタルトランスフォーメーション)も、今まさに取り組まなければならない変革の代表格である。しかし、ここにも現場と経営の認識のギャップが見られる。『日本における企業のデジタルトランスフォーメーション&デジタルマーケティング 2018年度調査(電通デジタル)』(図③)によると、特にDXに伴う「投資コスト」や「個人情報の取り扱いなど情報セキュリティリスク」「新しい業務プロセスの設計や実行力不足」「ビジネスサイドとITサイドの連携不足」などの領域において、経営層と実務責任者層で11~15票もの差が見られた。

このような課題感は、企業全体が同じ認識を持っているのではなく、経営と現場で微妙に食い違っており、ややこしい。このような認識のギャップは、事業を推進していく過程で何らかの障がいとなって露呈することが多いのではないだろうか。

上記の内容は経営と現場のギャップが現れる一部の例だが、この他にも、企業の従業員は雇用形態・国籍・性別などあらゆる面で多様化し続けている。働く世代の価値観の違いやそれによって情報やデジタルツールへのリテラシーギャップも生まれている。このような多様な変数が存在する中、経営と現場のギャップは今後さらに溝を深めていくだろう。

問題の色々な箇所に、経営と現場との間の意思疎通に起因する問題が散見される。これらのギャップは、ある種変化の激しい状況下ではいっそう顕著に生じる。この経営と現場の認識のギャップを埋められる人材こそ、これからの時代には重宝されるだろう。そしてそれは前章でも記載した「能力を生かしながら経営に関わり、企業に貢献する」生き方になるだろう。では、どんな人物がその役割を果たしうるのだろうか。

第2回に続く

企業事例の参照元一覧

「かんぽ不正、幹部は把握できず」 調査委が追加報告』朝日新聞
日本郵便の衣川社長 「風通しに課題」』産経新聞 
春闘スタート 日本型雇用で温度差 経団連「時代遅れ」/連合「格差是正を」』毎日新聞
トヨタ前代未聞の労使交渉、「変われない社員」への警告』日経ビジネス 
「現場と経営陣の溝を埋める」 日産・内田新社長が会見』 神奈川新聞 
ファミリーマート/澤田社長「情報は自分で取りに行く」SNS活用経営の現場報告』 流通ニュース
【セブン社長交代】報道で知るオーナーの苦境…本部と現場の乖離はなぜ生まれた。24時間営業の行く末は』 BUSINESS INSIDER 
新たなコンビニのあり方検討会 報告書』 経済産業省
広がる「改革」への温度差』日経ビジネス 
東芝、「Nextプラン」に見る経営と現場の距離』 東洋経済 
「異例の展開」~埋まらぬ溝~ トヨタ春交渉 2019

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