前回まで14回にわたり、企業がSDGsに取り組むべき理由について、ヒト・モノ・カネの観点から説明してきた。今回は総括として、これまで述べてきたポイントをまとめたい。経営の視点から企業がSDGsに取り組むべき理由を一言で言い表すとすれば「選ばれる企業」であり続けるためといえる。誰に選ばれるためか、それは「従業員」、「顧客・取引先」、「投資家・株主」、「地域社会」など自社にとってすべてのステークホルダーに他ならない。
企業の存在意義は利益の追求と社会善の創出
ピーター・ドラッカーは「企業にとっての利益の追求が、自動的に社会的責任遂行を意味しなければならない」と指摘している。つまり、利益の最大化を図りつつ、同時にその価値提供の過程においても社会に及ぼすマイナスの影響を最小化することが必要である。SDGsは社会全体が目指す包摂的なゴールであり、SDGsの視点から企業活動を見直すことは、社会価値の最大化と負のインパクトを最小化することに役立つだろう。SDGsを経営に実装するということは、事業と経営管理の両面からサステナビリティを捉えることであり、CSV・CSRの二項対立ではなく、双方に取り組む考え方が重要だ。
SDGsは新市場とイノベーションの源泉である
SDGsは2030年に向け、世界が共通で目指す方向性であり、これからの10年間に市場から求められるトレンドである。2017年のダボス会議で共有された報告書「Better Business, Better World(より良きビジネス より良き世界)」では、持続可能なビジネスモデルの構築によって、2030年までに新たに12兆ドル(約1,340兆円)の経済機会がもたらされ、約3億8000万人の雇用を生み出す可能性があることが示された。169のターゲットには、現在の延長線上では達成が困難と思われるようなムーンショットも多く含まれているが、そうした野心的な目標こそが新しいイノベーションを生み出すヒントとなる。
顧客はサステナビリティに配慮した製品やサービスを求めている
環境負荷に配慮した製品やサプライチェーン上の人権の遵守に以前から取り組んでいる企業もあるが、SDGsの登場により、サステナビリティへの配慮は顧客や取引先、消費者などから包括的に求められるものになってきている。近年では、イミ消費やエシカル消費といった消費行動が浸透してきた。Z世代が消費のボリュームゾーンに入って来るにつれ、消費者の価値観も大きく変化してきている。マーケティング3.0がよりよい世界の実現を目指すように、消費者を自社のミッション実現のためのパートナーとして、企業がマーケティング活動をアップデートすることが求められている。
投資家はESGに配慮した経営を重視している
ESG投資は、環境・社会・ガバナンスへの配慮が、中長期的な企業価値の向上に繋がり、財務指標上では可視化されにくいリスクを排除できるとの発想に基づいている。世界のESG投資残高は2018年に約3,400兆円を超え、日本でも約232兆円にまで増加した。受託者責任の観点からもESGに配慮した投資を行うことが求められている。各種のESGインデックスでは、市場平均を上回るパフォーマンスも確認されており、企業価値の向上との相関関係を示す報告も増えてきた。
機関投資家もスチュワードシップ・コードに則り、責任ある投資家としての役割を果たし始めている。たとえば、ESGの観点から経営者との直接的な対話や株主提案、株主総会での議決権行使といったエンゲージメント、化石燃料や武器、たばこを扱う企業からのダイベストメント(投資撤退)などがある。脱炭素社会への移行をコミットし、また環境だけでなくガバナンスや人権等の社会課題への関心も高まりつつある日本でもこうしたケースが増えてくることが予想される。
Z世代はパーパスを持つ企業を見定めている
経営者にとって、イノベーションを生み出しやすい組織風土を醸成するためにもダイバーシティ&インクルージョン(D&I)の実現が死活問題となっている。ジョブホップが当たり前となった現在では、従業員は経営者が倫理に反する意思決定を行えば、職場を去ることも厭わない。一方、未来の従業員であるZ世代は、企業のサステナビリティに対する取り組みに強い関心を持ち、ESG投資家と同じ視点で、自らが働くべき企業を見定めている。大学生向けの雑誌では、ダイバーシティ経営や健康経営のランキングが掲載され、社会貢献度が企業選びの新基準の一つとなっている。人材確保の観点からもSDGsを経営のコアに実装していくことが求められている。
グレート・リセット、これからの10年間
グレート・リセットとは、経済・社会秩序全体の変革を指し、