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ビットコインの思想的インパクトー「信頼」をどうつくるのか

投稿日:2021/03/30更新日:2021/12/20

本連載では、4回にわたり、ビットコインの成り立ち―オープンにインクルージョンを実現しつつ、“いかに信頼、信用をアルゴリズムで創っていくのか?”―から振り返り、その思想性から現代社会に投げかけている問題提起を考える。(全4回、4回目)

インクルージョンな仕組みで“信頼”をどのように創るのか? ―現在の社会課題につながる『サトシの夢』

誰でも参加できるインクルージョンを実現する社会で、不正を働こうとする一部のメンバーをいかに押さえて信頼を築いていくか、は極めて重要なイシュー(課題)である。

サトシはまさにこのような課題に対して、通貨という仕組みではあるが、解決方法の夢を語っていたとも言える。通貨としてのインパクト以上に思想的なインパクトが大きい、とも言える。

2018年に亡くなられた社会学者の山岸俊男氏は、信頼をキーワードに『安心社会』と『信頼社会』という枠組みで社会のあり方を整理されていた。

従来の日本の安心社会では、長期にわたってお互いに利害関係を共有する均質なコミュニティの中で、いわば村八分というペナルティで人にだまされない社会を築いてきた。効率的だが、変化には弱い社会、とも言える。相手が信頼できるかどうかを見極める必要がそもそもない社会だった。

しかし、歴史的に安心社会は長続きせず、変化の不確実性が増し社会が多様化するなかで、変化にうまく対応するためには、相手が異質でもお互いが信頼できるかを見極めて新たな信頼関係を築いていく、米国に代表されるような信頼社会への移行が必要。果たして日本社会は信頼社会へ移行できるのか、というのが山岸さんの問いかけだった。

多様で異質なものの存在を前提として、社会的な信頼をどのように創っていくのか?

ビットコイン、あるいはそのベースとなるブロックチェーンの仕組みでサトシが織り込んだ、コンセンサスを創るアルゴリズムとしてのPoW(Proof of Work)のアイデアは、相手が信頼できるかどうかには関係なく、マイニングによる経済的なインセンティブをもとにトラストレス(個人間の信頼関係を前提とせず)で協力し合える仕組みを築くという画期的なアイデアだった。それを実装したビットコインは壮大な実験だったといえる。

もちろん仕組みとしてはスピードやスケーラビリティ、価値の安定性といった点でダメ出しはいくらでもできる。しかし、2009年の実装以来、まがりなりにも大きなトラブルなく、ゼロから設計して作ったシステムが時価で98兆円を超える規模にまでトラストレスな仕組みとして成長したことは、画期的な意味があると考える。(ここでは日本が起点となった2014年のマウントゴックス事件など、ビットコインそのものではなく、ビットコインのエコシステム、例えば、ビットコインをドルや円などの法定通貨と交換する取引所の問題は別問題と捉えたい)

合意形成の仕組みである民主主義の総本山であった米国大統領選挙での混乱に見られるれるように、社会的な分断やフェイクニュースなど、今はまさに社会として「信頼をどのように担保するのか?」が問われている時代だ。

メディアではあまり注目されなかったが、2020年8月に開催された「ブロックチェーン・グローバル・ガバナンス・カンファレンス(BG2C)」の金融庁氷見野長官による閉幕スピーチ「Is Satoshi’s dream still relevant today?」の内容はその意味で極めて示唆に富むものだったと思う。

氷見野長官はスピーチの前段で、ビットコインが金融機関への信用が危機に瀕していた2008年の金融危機のタイミングで発表されたこと、そしてビットコインが金融機関のような第三者を必要とすることなくネットワークで信頼をつくっていく画期的な仕組みであったことをまず述べている。

その上で、今日、対面のミーティング、編集者などの信頼できる情報のゲートキーパー、新聞、政府といった従来型の信頼構築の仕組みがうまく機能しなくなっているなか、信頼という問題をあらためて深く考える必要があるのではないかと提起している。

また、ビットコインが信用を担保するために必要とする膨大な電力量に対する批判に対しても、従来のアナログな社会的な仕組みでも、外見や見た目を金をかけて飾るなど、信用を作るために実は膨大なコストを使っているとも考えられると述べたうえで、スピーチを以下のように締めくくっている。


サトシの夢は今も通用するのか?

サトシが12年前に始めたイノベーションと探求のプロセスは、私たちの社会構造を深く考え、根本的な原因を探り、変革のための根本的な手段を模索するという、まさにラディカルな運動であった。

そして、このような努力は、コロナ、フェイクニュース、ハイパーグローバリゼーション、そして、表面的な解決策を超えた問題を提起している分裂の時代に、より重要なものとなるはずです。

(出典:英語の原文をDeepLで自動翻訳したもの)


従来の信頼構築の仕組みが弱くなる中、サトシがビットコインとして提案した信頼構築の仕組みの本質について考えることが必要ではないか、と氷見野さんは問いかけた。

多様で異質なものの存在を前提として、社会的な信頼をどのように創っていくのか?

ビットコインに象徴される、アルゴリズムで信頼を作っていくブロックチェーンの技術は、私たちがどのように社会システムの信頼性を高めるようにテクノベートしていけばいいのかという、深い問いと考えるヒントをあらためて私たちに投げかけている。

*アルゴリズムでの問題解決やビジネス構想にご興味のある方は、グロービス経営大学院のテクノベート・シンキングで学ぶことができます。

<シリーズはこちら>

第1回:仮想通貨とは―価格高騰するビットコイン

第2回:仮想通貨の価値とは―ビットコインは、通貨なのか?資産なのか?

第3回:ビットコインのはじまりーサトシナカモトの夢

  • 鈴木 健一

    グロービスAI経営教育研究所 所長/グロービス経営大学院 教員

    東京大学大学院工学系研究科修了、米国シカゴ大学経営大学院修士課程修了
    野村総合研究所を経た後、A.T.カーニーにてマネージャーとして経営コンサルティング業務に従事。メーカー、通信事業者の新規事業戦略、マーケティング戦略、オペレーション戦略などの分野で幅広いコンサルティング経験を有する。グロービスでは2006年の大学院設置認可と開学、さらに2008年の学校法人設立など、開学から2016年3月まで10年にわたり事務局長として大学院運営にたずさわってきた。現在は専ら教員として、ビジネス・アナリティクス、クリティカルシンキングをはじめとする論理思考系科目の科目開発、授業を担当するほか、2017年2月より新設したグロービスAI経営教育研究所(GAiMERi)の所長としてAIの経営教育への応用について研究開発を進めている。

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