ビットコインのはじまりーサトシナカモトの夢

本連載では、4回にわたり、ビットコインの成り立ち―オープンにインクルージョンを実現しつつ、“いかに信頼、信用をアルゴリズムで創っていくのか?”―から振り返り、その思想性から現代社会に投げかけている問題提起を考える。(全4回、3回目)

サトシの夢とビットコイン―ビットコインのはじまり

ビットコインは2008年10月、約12年前に暗号に関するメーリングリストにサトシナカモトという名前で個人、あるいはグループにより発表された『Bitcoin: A Peer-to-Peer Electronic Cash System』という9ページの論文に端を発している。

論文とはいっても、何か査読のあるような学会誌に発表されたものではなく、どちらかというと仮想通貨の提案書、といった方が実態に近いかもしれない。また、誰がサトシナカモトなのか、は未だに諸説があり不明である。明らかに日本人的な名前だが、論文やメーリングリストでのその英語の流暢さ等からどうも日本人ではないだろうとも言われている。サトシナカモト自体は2010年にビットコインのソフトウェア開発の表舞台からは消えてしまった。ちなみに、1億分の1ビットコインは1Satoshi(サトシ)という単位で呼ばれている。

論文には2009年に実際にソフトウェアとして実装されることになるビットコインの画期的な特徴、すなわち、金融機関を介さずに、(簡単にコピーがつくれてしまう)デジタルな通貨の信頼をどのように形作るか、特に信頼を失墜させ深刻な問題となりかねない偽造と支払いの際の不正利用(2重利用)をどのように防ぐか、についての提案が記述されていた。

ビットコインの特徴

論文をもとに実装されたビットコインの特徴は以下の通りである。

  • 純粋なP2P(誰でも参加できるオープンで分散型の)ネットワーク上のコンピュータで構成
    ⇒この文章を読んでいるあなたも参加できます。そもそもの仕組みからして『インクルージョン』です。
  • 金融機関を介さず、ブロックチェーン技術の利用によりネットワークとして信頼性を担保  
     ⇒アルゴリズムで信頼を担保します…

    • 公開鍵暗号技術によるデジタル署名を使うことで偽造を防止
    • 台帳への記帳はほぼ10分に1回のペースでいくつもの取引(概ね2000取引前後)をブロック単位にまとめ、前のブロックに順番に紐付けていく。この際、ネットワーク上のどのコンピュータがブロックを記帳するかは事前に決まっていない。運良く記帳を担当するコンピュータに選ばれるとブロック報酬(2021年2月時点で6.25ビットコイン、時価で約3,125万円の新しいビットコイン)がまだ流通していないビットコインから与えられる。このブロック報酬によってビットコインの発行量はある意味予定調和的に増えていくことになる。ブロック報酬は21万ブロックごとに半分になっていく設計になっており、平均約10分で次のブロックが記帳されていくので、約4年で半減することになる。次の半減は2024年
    • ブロックの記帳を担当するコンピュータに選ばれるにはPoW(proof of work)と呼ばれる、ある課題を解く作業が毎回必要となる。この課題はあたかもランダムな巨大なサイコロを繰り返し振り続けて特定の数字以下の目を出す速さを競うもので、速くサイコロを振るために膨大なCPU、GPU、ASIC等の計算力と運が必要になる。この過程はマイニング(採掘)と呼ばれている。最初に条件を満たす目を出したコンピュータが記帳を担当し、報酬となるビットコインを受け取る
    • このCPUパワー(とそれを動かす大量の電力)を要するPoWのおかげで、ネットワーク上のコンピュータは不正をする投資対効果、ROIが低くなる。不正なブロックを提案すること自体に罰はないが、不正がバレることでブロック報酬ばかりか、投資したCPUパワーが無駄になってしまう。ルールに則って正しいトランザクションを提案することが利益になる仕組みになっている。 ⇒欲をもって欲を制する、ことで『信頼』を獲得する
    • ビットコインはブロックチェーン(改ざんできず、落ちない、ネットワーク共有型データベース)の応用例の一つに過ぎず、ブロックチェーン自体は仮想通貨外での様々な応用が考えられている。仮想通貨≠ブロックチェーン、である

ビットコインへの批判

一方、ビットコインに対する批判はいろいろとある。前回述べたような価値の不安定さ、スピードとスケーラビリティのなさ、さらに信頼を担保するためのPoWには膨大なCPU、GPUパワー、ひいては膨大な電力が必要で、資源の無駄遣いである、など。ケンブリッジ大学の推計によれば、全世界でビットコインのマイニングに使われている電力量は年間で101.6ThWとなり、これはほぼオランダ一国の電力消費量に匹敵する規模である。

このような先行するビットコインの課題(価値の変動性など)をしっかり研究して発表されたのが、当初の計画からは後退しているが、FacebookのLibra、あらためDiemである。中国をはじめとする法定通貨自体のデジタル化の動き(CDBC:中央銀行デジタル通貨)とあわせ、今後の動向からは目が離せない。ただ、Diem、CDBCとも、だれでも参加できるようなP2Pでの設計ではなく、ビットコインの思想とは異なる部分がある。

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