「他者に勝つ」より前に「自分に克つ」

他者との比較・競争の中で生きる時代

私たちは競争社会に生きています。受験、就職、会社の中での昇進、事業・商売……。つねに他者との勝負があり、他者との比較を通じて、自分の存在を浮き立たせたり、逆に沈ませたり。

会社の中でのキャリア形成は、よく「すごろく」に喩えられます。昭和の時代ほどガチガチなすごろくではないにせよ、令和の時代においてもその本質構造はあまり変わっていないように思えます。

このキャリアすごろくは、他者よりも「多く・速く・上手に」、組織が要求する成果をあげてゴールを目指すものです。競走の勝ち負けは「数値」で判断されます。サイコロの目がどう出るかという運も左右します。

こうした組織内のキャリアすごろくに限らず、他者と比べて「勝った/負けた」という競争や評価は現代社会で生きていく上でついて回るものです。例えば、あなたが何か趣味活動をやっていて、その情報を「ツイッター」や「インスタグラム」などのSNSで発信しているとしましょう。あるとき趣味仲間が集まり、互いのフォロワーの数が何人いるかの話題になった場合、やはり自分と他人との数の違いが気になるでしょうし、それによって自慢できたり悔しがったりします。嫉妬もするかもしれません。

もちろんこうした他者との勝負に勝つにこしたことはありません。しかし、勝つこと自体を過度に目的にしたり、他者との比較に過度に縛られたりするとよからぬことも生じます。すなわち、不正が起こったり、精神を病んだり。

勝負の2種類~他者との勝ち負け・自分との勝ち負け

勝負には2つあります。「他者との勝負」と「自己との勝負」。自己との勝負を「克己(こっき)」といいます。「己に克つ」とは、自分の中にある弱い心を打ち払い、強い心で自分を推し進めていくことです。怠惰、逃避、悲観、愚痴、放縦など欲望に流される状態は、負荷が少なくラクです。これらは生活のところどころで休息として、癒やしとして、廻り道として必要なものではあるものの、何かを成し遂げるエネルギーにはなりません。何かを成そうと思えば、やはり勤勉・挑戦・楽観・覚悟・自制など強い心が優位にならねばなりません。

私たちは朝起きてから夜寝るまで、いや寝ているさなかでも、つねに思考し、どう行動するかの選択判断をしています。生きる・働くとは、一瞬一瞬の「分岐の連続と選択の蓄積」によって形成されているといってもいいでしょう。

朝、目覚まし時計のアラームが鳴った→予定通り起きた/起きられなかった。午前中に片付ける予定の仕事があった→机に向かい集中して仕上げた/気持ちがダレてしまい午後に延ばした。年初に月3冊の読書を決意した→1年間完遂できた/最初の2ヶ月で挫折した。3年後に留学を決意した→2年が経ち、今も着々準備を進めている/多忙を言い訳に計画を棚上げにしたまま……。このように私たちは、自分の中の強い心と弱い心がつねに綱引きをして、人生を進めていきます。

何十年という長きキャリアの道のりを納得のいくものにするための、あるいは100歳まで生きてしまう時代をよりよく生きるための根幹の戦いは、他者との比較競争ではなく、自己に克つという「内なる戦い」です。

克己という内なる戦いに意識を置く人は、自分の成し遂げたいことの意味を十分に感じ取っていて、そこから内発的なエネルギーを湧かせます。それによって弱い心を打ち払い、負荷を乗り越えていきます。比較すべきは他者ではなく、昨日までの自分です。昨日よりも今日、今日よりも明日の自分がどう成長していくかに関心があります。

私たちは一瞬一瞬「克己」という篩にかけられている

他者との厳しい勝負に生きるプロスポーツの世界。超一級の選手は、勝利インタビューなどでよく次のような表現をします───「これまで苦しい練習を十分にやってきたのだから、練習どおりやれば結果はおのずとついてくると信じていた」。まさに「自己に克つ」習慣が基盤としてあり、その上に「他者に勝つ」ごほうびがくるという意識構えです。

私たちは一瞬一瞬、「自分に克つか/妥協するか」という“篩(ふるい)”にかけられています。その無数の内なる戦いの蓄積が、自分のなりゆく先を決めています。

さて、今年もすでに1月が過ぎ去ろうとしています。古人が「一瞬即一生」と言ったとおり、「今・ここから」の自分との勝負が今年1年、そして未来を決していきます。

スキルペディア
著者:村山 昇 発行日:2020/6/26 価格:2640円 発行元:ディスカヴァー・トゥエンティワン  

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