GLOBISのグローバル研修事業に10年以上関与してきたグロービス経営大学院教員の河尻陽一郎が解説する連載vol.4。新型コロナウィルスのグローバル化に対するインパクトについて諸説が展開されている。グローバル化は後退するという意見がある一方、いや今後もグローバル化の動きは変わらないという主張も聞こえてくる。では、現在世界はどの程度つながっているのだろうか?(前回はこちら)
国境を越えるモノと国内で取引されるモノ、多いのはどっち?
「グローバル化が進む」とは、「ヒトモノカネ情報が国境を越えていく度合いが増えていく状態」と言い換えてみる。どれくらいのモノが国境を越え、逆に、どれくらいのモノが国内で取引されているのかを考えれば、グローバル化の進み具合を測れる。世界のGDPに占める、国境を越えるモノの割合(モノの貿易が占める割合)は何割になるだろうか。(以下の図表を見る前に、ご自身で考えてみてほしい。)
グローバル戦略の世界的な論客の一人であり、ニューヨーク大学レナード・N・スターン・スクールとIESEビジネススクールの教授であるパンカ
この図表から読み取れる点が2つある。
まず、絶対値だ。世界のGDP全体に占める貿易の割合、言い換えれば国境を越えているモノの割合は20%強。言い換えれば、残りの80%弱は国内ということだ。
そして、マネジャーの認識は、この絶対値よりもはるかに大きい場合が多い。モノの場合2倍程度だ。多くのマネジャーが、現実よりも世界はグローバル化している、国境を越えてつながっていると認識している。
グローバル化の現実とはフラット化された世界なのか?
2000年代初頭、トーマス・フリードマンの『フラット化する世界』という書籍も一つのきっかけとなり、世界は均一になっていくという考え方が広がった。だが、図表2が示す通り、世界は均一につながっているのではなく、特定の国や地域とのつながりを大事にしている。
図表2は、国際的なモノ・カネ・情報・ヒトの流れを、そのやりとりの多い国の順に、それらの国々の占有率を示したものだ。それぞれ上位5か国までが占めるシェアをみると、モノの輸出は5割強、カネの海外直接投資は6割強、ヒトの移民は8割、情報の電話も7割近くを占める。世界は均等につながっているのではなく、特定のパートナーとなる国同士でつながっている。
(特定の国とだけ取引を行うのは、企業でも同様だ。グローバルのトップ企業100社を対象にした調査結果によれば、自国と海外売上上位3か国で、売上全体の6割を占めるという(注3)。
グローバル化のこれまでと実態
現時点のスナップショットに加えて、これまでの推移、トレンドを輸出と海外直接投資(
世界のGDPに占める輸出の割合は第一次世界大戦後の1920年頃に一度ピークを迎えている。第二次大戦前後に落ち込み、
グローバル化の度合い、その集中度合い、長期的なトレンドについて、ご自身の持っていたイメージと比較すると、どんな感想を持っただろうか。
ビジネスリーダーは、グローバル化の度合いを過大評価する傾向にあるようだ。本リサーチでは、対象となるビジネスリーダーの多くが、一般の人以上に国境を越える生活をしているからではないかと推察している。現実としては、我々のビジネスの多くはまだまだ国内だ。国境を越えるビジネスの多くも特定の国を相手に進めている。世界が均一になったと考えて、ビジネス上の意思決定をする状況にない企業のほうが多いはずだ。長期的には、世界大戦などのイベントの結果落ち込んだ時期もあるが、国境を越える動きは増え続けている。国境を越えたビジネスにまだまだ可能性があるとも言えよう。グローバルなビジネスに対する新型コロナウイルスのインパクトについては、ぜひ現実を適切に見極めることからスタートしてほしい。
出典
1)DHL GLOBAL CONNECTEDNESS INDEXの28pのFigure18(図表1)
2)DHL GLOBAL CONNECTEDNESS INDEXの26pのFigure16(図表2)
3)The New Global Road Map: Enduring Strategies for Turbulent Times
Pankaj Ghemawat (著)
“Average revenue distribution of firms ranked among global top one hundred based on foreign assets, 2015-2016” より
出版社: Harvard Business Review Press (2018/5/1)
4)DHL GLOBAL CONNECTEDNESS INDEXの12pのFigure4(図表3)