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グローバルを自分事にvol.3 グローバル戦略かマルチドメスティック戦略か。自社の製品の特徴から考える

投稿日:2020/09/16更新日:2021/03/15

GLOBISのグローバル研修事業に10年以上関与してきたグロービス経営大学院教員の河尻陽一郎が解説する連載vol.3。グローバルに事業展開している度合いが会社によって異なるのは、戦略の違いによる。その戦略を決定するうえで、注目したいのは製品・サービスの特徴と事業経済性だ。(前回はこちら

「日本市場が頭打ちだから、新興市場へ」の裏にある無意識の前提

あるグローバル研修の一場面。

A氏「当社の中期経営計画の柱の1つである、グローバル展開の取組を加速させたい。具体的には……」

私 「なぜいまグローバル展開を加速させるのですか?」

A氏「今後日本市場の成長は頭打ちであり、成長する新興国市場に活路を見出したいからです」

私 「新興国市場で成功するために大事なことは何ですか?」

A氏「当社の強みであるxx技術を活かした製品を投入していくことです」

グローバルな事業展開を考えるうえで典型的な議論だが、こうした議論の背景によくある前提の一つが「日本で成功したものは海外でも成功する」という考えだ。だが、こうした前提がいつも成立するわけではない。その前提の成立を分けるものは何か。

まず考えたいのは、扱っている製品・サービスのニーズである。その製品のニーズは世界共通なのか、それとも各国・地域でばらばらなのか。言い換えれば、業界・産業ごとのニーズの違いだ。もう1点は、事業経済性である。典型的には規模の利益を追求することで競争優位を生み出しうるのか、それとも競争上の変数が多く、規模を追求せずとも勝負できる業界なのかという観点である。(※注1:事業経済性や競争上の変数については、アドバンテージ・マトリクスなども参考に)

たとえば、半導体。コンピュータに使われる半導体のニーズはほとんどの国で共通している。ニーズは情報処理能力などの性能、小型化などのサイズ、そして価格などに集約される。もちろん技術革新のスピードが速いので技術の進展度合いの違いはあるが、国によるニーズの違いは少ない。こうした製品は、比較的グローバルに均質なニーズがあると言える。競争上重要になるのは、多額の投資を必要とする生産設備や研究開発などの世界レベルの規模を追求することだ。つまり、規模の利益を追求することが競争優位につながる。

一方、食品。言うまでもなく国や地域によって味を代表とするニーズは異なり、国ごとに固有のニーズがある。競争上の変数が、単純に規模でなく現地の固有のニーズに合わせることに加え、消費地や原材料調達先との立地やチャネルとの関係性等多岐にわたる。その結果、グローバル企業ではなく、国や地域ごとの中小規模の事業者に勝機がある場合が多い。

「グローバル戦略」と「マルチドメスティック戦略」のどちらをとるべきか

こうした製品のニーズや事業経済性の違いに基づいて、グローバルな事業展開の方向性を「グローバル戦略」と「マルチドメスティック戦略」の2つに分ける考え方がある。それぞれの特徴は下図に示す。

半導体のようにグローバルに均質なニーズがあり、グローバルな規模の追求が競争優位につながる場合は、世界を単一市場ととらえるので「グローバル戦略」をとる。一方で、食品のように、国毎にニーズがばらばらで競争上の変数が多い場合は、市場が各国ごとに独立している「マルチドメスティック戦略」をとる。

グローバル戦略の難しさは、たとえば世界で標準的なオペレーションを実現する点にあるだろう。一方、マルチドメスティック戦略では、各国ごとにニーズに合わせた競争優位を築く必要がある。そのため相対的には、後者の特徴を持つ業界のほうがグローバル化のハードルが高い(その結果として、vol.1で議論したように、同じ製造業でも食品業界の海外生産比率は相対的に低い状況になっている)。

もちろんある製品が100%グローバル戦略に合致する、もしくはマルチドメスティック戦略に合致するということは少ない。自社製品のグローバル戦略を考える場合は、両者どちらの傾向が強いかを考えることになる。

前提の議論に戻る。

仮に自社の製品のニーズが比較的グローバルに均質なものであれば、これまで成功してきたやり方を海外に展開することで同じように成功できるかもしれない。一方で、国毎にニーズがばらばらであれば、日本でのやり方をそのまま持ち込んでも成功できるかどうかはあやしい。

グローバルな事業展開は自社の製品・サービスの特徴に依存する。基本動作として、まず自社の製品の特徴、とくにニーズは世界で共通なのか国毎に異なるのか、事業経済性上グローバルな規模が競争優位につながるのか、個別市場における競争優位の確立が必要なのか確認してみてほしい。

I(グローバル統合)とR(現地適応)のはざまで

ここからは、グローバル戦略とマルチドメスティック戦略におけるそれぞれの施策の方向性の特徴をくわしく見ていく。グローバル戦略はグローバル統合(Integration、I)、マルチドメスティック戦略は現地適応(Responsiveness、R)がキーワードだ。

グローバル戦略は前述の通り、グローバルな規模の利益を追求する。そのために、バリューチェーンにおける諸活動のうち、グローバルに集約して規模の経済性を享受できる状況を目指す。わかりやすいのは生産拠点を集約して、単位当たりの生産コストをグローバルに下げるといったことだ。

マルチドメスティック戦略は、各国のニーズにこたえるために、現地に適応することが求められる。たとえば、製品設計などマーケティングの諸施策を現地のニーズに合わせて展開する。

前述の通り、多くの製品サービスはグローバル戦略とマルチドメスティック戦略の両方の要素を持ちうる。したがい、このIとRのバランスをいかに設計するかがグローバルな事業展開におけるチャレンジだ。

IとRの関係性は次のように示せる。

基本的には、IとRは対立する。たとえば、生産をグローバルに統合しようと思えば、現地に適応した形での生産は難しい。複数国のうち、どこかに生産拠点を集約すれば、各国固有の状況に応じた生産ができなくなるというわけだ。

IとRのバランスの傾向は前述の通り産業によって異なる。ただし、同じ産業・業界においても、企業ごとに取組が異なりうる。また単一の企業内でも、バリューチェーンの各機能やタスク別に度合いが異なる。

まさに、このIとRのバランスのとり方が、競争上の腕の見せ所なのである。セオリーとしては、このバランスを決めるのは事業経済性である。ただし、過去の経緯などからそれ以外の要素も加味して現状のバランスが決まっていることが多い。ぜひご自身の扱っている製品や担当している機能がIとRのどちらを重視しているのか、なぜそうなっているのかを考えてみてほしい。

次回はこちら

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