顧客コミュニケーションの最前線=販売会社と、いかに一体となるか――アシックス常務執行役員に聞く Vol.2

投稿日:2023/11/16

少子高齢化による人口減少が加速する中、さらなる成長を目指し、グローバル化に注力している日本企業は少なくありません。この中で、海外事業を牽引するリーダーは、どのように組織を動かしていけばよいのでしょうか。

今回は、海外事業全体の統括として世界三十数カ国に広がる販売会社を束ねる、株式会社アシックス 常務執行役員の小玉 康一郎氏にお話を伺います。今回のテーマは、事業変革を進めながら掴んだグローバルでの組織マネジメントの要諦についてです(全3回、第2回。前回はこちら)。

「あり姿」で握り、数字の裏側を読む

板倉 前回までで、米国販売会社をマネジメントする中での気づきや、中期のビジネスプランを策定する場合に重要となる、各組織の「あり姿(ありたい姿)」をクリアにすることについて伺ってきました。では実際に「あり姿」を実現するためには、何をどのくらいの粒度で握っているのでしょうか。

小玉 ケース・バイ・ケースですが、どのようなケースでも「あり姿」に近づくための施策やロードマップがより鮮明化されていることが重要になると思います。グローバルで目指すべきビジョンは同じでも、ターゲットとなるマーケット(国や地域)の景気動向や地政学リスク、取引先の状況、外資企業の活動を規制するローカルルール等の様々な要素により、そのロードマップや市場の攻め方は状況なりの違いが生じるからです。

「あり姿」は、そうした異なる状況からでも、ビジョンに向けてやるべきこと・やらないことの整理と認識を共通にするためのもの、と言えるのではないでしょうか。ビジョンに当てはまらないものを除外し、出来るだけビジョンに向けての戦略や施策などを分かりやすくしていく。自分達の行動はビジョンに向けて適切・適度に進んでいるかを、都度状況を確認しながら進めます。

板倉 それが出来れば、あとは現地のスタッフに任せるといった割り切りも可能になりそうですね。

小玉 はい理想はそうです、ただ実際には中々割り切れていないのが現実なんですが……(苦笑) とはいえ、まずは各ヘッドが「あり姿」と各マーケットで期待されている計数や事業内容等のイメージを、しっかり理解していることが重要です。
そして更にそれが管理下にまで共有され、組織としての共通理解の下で一体的に運営されているという状態を目指します。そのために本社側は販売会社の数字を追う際に、その実績が生み出されている背景が常に「ビジョン」に沿ったビジネスモデルやチャネル戦略、狙った取引先とのビジネスによってのものかを把握するようにしています。

単に数字が良い悪いではなく、グローバルで永続的に健全な事業活動を継続するためには各国・地域毎の目線合わせと確認が非常に重要と思います。例えば、需要が旺盛な成長市場では取り扱い商材や販路を広げることでビジネス規模を拡大する事は比較的容易かもしれませんが、数字だけを取るための拡大ではアシックスのブランドアイデンティティがぼやけ、ゆくゆくは他社と差別化することが難しくなります。結局はブランドとして陳腐化する事にもなかねません。

そこで、欧米等のマーケットでは当社の製品やサービスを「科学的な検証に基づいた専門性」として際立たせることで他社製品・ブランドとの差別化を図っています。これを成長市場でも、事業拡大というアクセルは踏みながら手綱は放さずに徹底して行っています。

板倉 「あり姿」の共通認識を持つだけではなく、各国・地域の状況に対して適切かの検証が大事だということですね。

小玉 各販売会社が対面しているマーケットの成熟度はそれぞれ違いますが、ブランドとしてあるべき理想像は共有出来ます。例えば、アシックスの代名詞でもあるパフォーマンスランニングシューズがその機能性や先進性等を評価するお客様にギアとして受け入れられながら、履きやすさから更にライフスタイルの中にも取り入れられ、カジュアル用途やオフィスワーク等にも利用されるようになり、「ジャケットにランニングシューズ」というような着用シーンが広がっていくこと自体は、大変喜ばしいことです。

ただそれが一過性ではなく、機能性やデザイン等を科学的な裏打ちで世に出している当社のコンセプトに共鳴し信用してくださるお客様が増える、というのが理想ですね。なので我々自身から我々のことを信用しているお客様を裏切らないよう常にイノベーションやサステナブル等の地道な研究開発を続け、製品・サービスの提供に真摯に向き合い、メッセージ等がしっかりとお客様に届くよう活動する。その重要な活動の最前線の拠点が各販売会社なんです。販売会社が本社と一体となって連携して活動してくれることが本当に重要なんです。

「あり姿」が、現場との目合わせや結束点になる

板倉 ここまで伺っていて、小玉さんの話は極めて戦略的な話に思えます。この戦略を構築する上で意識していることは何ですか?

小玉 私の中では「戦略」というのは「あり姿への道しるべ」のような認識です。例えば、お客様とのコミュニケーションにおいて、オンラインは勿論ですが、我々のようなブランドはやはりオフラインでひとつひとつの声を聞く地道な活動も重要だと考えます。

更に言えば、モノ作りやサービスの提供における「先進性やイノベーション」を追求すると共に「サステナビリティや人権」にどう取り組むか、も重要な柱です。これらを現場に落とし込んでいく場合には、それをモチーフにした活動の一つひとつをどのような内容でどのようなタイムラインで行うかを出来るだけ明らかにしていくことが大事になります。

ビジョンや戦略の構築には、実現するための具体的な意識合わせ・目線合わせをどう行うか、が最重要です。アシックスといえば「スポーツ」「健康」というイメージが真っ先に思い浮かぶように、我々自身がそれをどのように進めていくかの考え方を一致させることが重要なので同じ「あり姿」を見据えて進んでいく、ということなんだと思います。

板倉 先ほどから「みんなで意見やアイデアを出し合って」と何度か口にされていますね。「あり姿」を握るときに意識されていることなのかと思いますが、ほかにもポイントはありますか。

小玉 各販売会社のメンバーは、自分が提供したパフォーマンスに対する正当な報酬を日本と比べ躊躇なく求めます。そこで、あり姿の共有と共にKPIを出来るだけ明瞭に設定することがポイントになります。短期的に生み出される業績やそのコンピテンシーをしっかり評価しつつも、中長期な視野でパフォーマンスが維持出来るのか、サステナブルに取り組むよう思考出来ているか、等を日頃のコミュニケーションで関係を構築しながら確認する。これも意識していることのひとつです。

現在、三十カ国以上に販売会社や事業会社がある中で、裏付けを全て検証するのは、簡単なことではありません。でも出来る限り細かな裏付けや状況までを追えるように、日常の接点や、ミーティング、さまざまなデータで確認するようにしています。

例えば、数字上のPLは達成していても、長期的にみれば健全な数字なのかどうかをチェック出来るツール(例、販売チャネルや取引毎の販売実績の内容)もあります。横縦斜めなどさまざまな角度からKPIを計る、共通化したフォーマットを使うことが大切だと考えていますね。

(次回に続く)

  • 小玉 康一郎

    株式会社アシックス 常務執行役員

  • 板倉 義彦

    グロービス・コーポレート・エデュケーション マネジング・ディレクター

    アグリビジネスの大手企業で商品企画、および生産企画での経験を積んだ後、IT 業界に転じて製造業向けソフトウェアの営業・導入コンサルティング、および不採算営業部門の組織改革にリーダーとして携わる。

    グロービスにて様々な業種・業界のクライアントに対して、人材育成・組織開発の側面からのコンサルティング活動を行う。名古屋エリアの法人事業統括、新サービス開発、部門経営企画を歴任し、現在は、マネジング・ディレクターとして、人材・組織開発のコンサルティング部門の経営、およびグローバル事業の推進に携わる。

    同時に、経営戦略ファカルティにも所属し、以下業務にも従事。

    ・ 経営大学院、エグゼクティブスクールでの経営戦略のコンテンツ開発

    ・ 経営大学院/企業研修の戦略、リーダーシップ、自社課題の講師

    国立東京農工大学 農学部卒業

    豪州 ボンド大学経営大学院修了(MBA)

    米国 Aspen Institute Aspen Seminar 修了

    英国 ロンドンビジネススクール Senior Executive Seminar 修了

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