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グローバルを自分事にvol.2 「あなたの会社はどこで強い?」

投稿日:2020/08/03更新日:2021/03/15

GLOBISのグローバル研修事業に10年以上関与してきたグロービス経営大学院教員の河尻陽一郎が解説する連載vol.2。自社のグローバルな事業の次の一手を考えたいのに議論がかみ合わないことは多々ある。その理由は、それぞれが自地域しか見ていないから。まず現在我が社がどこで強く、どこで弱いのかという現状認識が必須だ。さて、我が社は世界のどこで強いのだろうか? (vol.1はこちら

議論がかみ合わない理由は「ばらつき」にあり

筆者が企画運営したとあるグローバル研修で、自社のグローバル戦略の方向性についての議論が展開されていた。海外現地法人の経営メンバーである外国籍メンバーMさんが議論をリードしていた。「私のいる市場のニーズはxxであり、グローバルでリソースを投入して対応すべきである」と強く主張している。それを聞いている日本人を含む他のメンバーは、Mさんに圧倒されて反論できずにいた--。

前回に続き、もう一度、自社のグローバル化を議論するために、自社の海外事業の現状を把握することの必要性をお伝えしたい。前回扱った海外事業全体の規模感に加えて、地域別の状況把握、とくに「ばらつき」が今回のテーマだ。

上記はグローバル研修でよくある風景の一つである。残念ながら多くの海外メンバーは、日頃自らの地域の戦略的な要望を日本側に訴えても、なかなか受け止めてもらえていないと感じている。そこで、グローバル研修をせっかくの機会と捉え、自らの地域の重要さを懸命に訴える。一方、日本人を含む他のメンバーにするとグローバルな事業戦略においてそのテーマは優先順位が高くないと感じている。ただし、なぜ議論がかみ合わないのかがわからない。その理由の一つが、自社の海外事業の地域別の現状認識の違いにある。それぞれがそれぞれの立場から見ている風景をあわせることが大事だ。

海外事業の地域別の現状を認識するために、まず地域別の事業規模(売上や利益など)を確認しよう。昨今のコロナの影響を考えるにあたっても、世界を一様に見るのではなく、影響の大きな地域を見極めることが求められる。自社の地域別の事業規模は、前回も触れた公開情報の有価証券報告書のセグメント情報(*1)からも把握できる。

次に、自社内のポジションではなく、その地域における自社のポジション、強さを見る。分かりやすい例が地域別のシェアや、それに基づく業界内順位だ。自社で自分の関与する事業の日本国内のシェアはご存知のはず。では、世界シェアはどれくらいだろうか。ここまでは言える人が多いと思うが、米国では?中国では?欧州ではどうだろう?

たとえば、世界自動車販売のメーカー国籍別シェア。日系メーカーは日本では圧倒的なシェアを誇る。次いで北米で40%弱、一方中国、欧州では10%程度(*2)とシェアは少なくなる。同様に、米系や欧州系のメーカーを見ても、基本的には自国マーケットでは強いが、自国外では地域によってそのポジションは弱くなる傾向がある(インドのスズキの合弁会社であるマルチ・スズキ・インディアのように自国よりもいいポジションにつく例外もある)。

「ばらつき」の背後にあるグローバル戦略を見る

こうした地域別のばらつきを押さえたうえで考えたいのが、その背後にあるグローバルな戦略的意図だ。自動車の場合、下図を見ると2014年時点においては、グローバルでの市場規模は中国、北米、欧州の順に大きい。だが、これまで多くの日系メーカーにとって北米市場が戦略的に重要な市場であった。その結果、日系メーカーは、中国市場よりも北米市場に意図的に経営資源を配分し、注力してきた結果、北米市場のシェアの方が大きいと考えられる(近年では中国市場に注目しているが)。

こうして同じ業界においても、各社によってどの市場にどの程度の経営資源を配分するかは異なる。その結果が、ある地域における現時点の強さと弱さを生み出しているのだ。ただし、こうした地域別の状況把握が関係者間で十分にできていない事例を何度も見てきた。

翻って、Mさん。彼の担当する市場はその事業のグローバルな戦略的方向性において、どのように位置づけられるのだろうか。たとえば、上述の自動車業界における中国市場のように、市場が魅力的であり、かつ自社のポジションからもさらに勝負する市場であれば、グローバルなリソースを投入すべきといえそうだ。その場合は、周囲のメンバーの反論もなく同意を得られるかもしれない。一方、その市場が十分魅力的でなく、かつ自社のポジションなどからも重視すべき理由がない場合、グローバルの経営陣やほかの地域の仲間にグローバルなリソースを融通してもらうことを納得してもらうのは簡単ではないだろう。

だが議論を成立させるためには、こうした地域別の「ばらつき」について、ファクトに基づいた共通認識をつくることが大事だ。まずはご自身の担当する事業について、世界のどこで強く、どこで弱いのかファクトを確認してみよう。そして、その強さと弱さの理由を説明できるかチャレンジしてみてほしい。次回は、その強さと弱さの背後にある戦略的意図をより良く理解するための材料を取り上げてみたい。

出所
*1)有価証券報告書(例としてトヨタ自動車にリンクを貼っています)
*2)日本自動車工業会「JAMAGAZINE 2015年8月号

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